恋月想歌5


「あの……貴方は旅のお方、ですか?」
 会話するくらいは体調に支障無さそうだと判断し、リムは尋ねた。村の者ではない以上可能性はそれくらいしかないのだが、疑問系なのは青年があまりに軽装だからだ。黒いシャツにストールを襟元に巻いただけ。荷物らしい荷物もない。旅人というには少々不自然である。
「いや、私はここから少し西にある森に住んでるんだ」
「西の森……!?」
 確かに、イーゼから徒歩でもそう時間の掛からない場所に森はある。鬱蒼とした豊かな森で、昔から狩りをしたり、野草などの食材や木材の調達をするのにイーゼの住民には馴染み深い場所だ。しかし、今まで人が住んでいる痕跡など誰も見たことがない。それに豊かな分危険な獣も多く、物騒な言い伝えもある。イーゼの周辺には資源らしい資源もこの森を置いて他になく、また辺境にあるため街にも出にくい。そのため森を利用する他はなく、立ち入るが直ぐに森の出口に出られる場所までで長居はしない……というのが村人達の鉄則だった。あまり人が住むのに向いている場所とは言えない。



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