恋月想歌3
※
コンコン、と控えめに扉を叩く音が響いた。部屋の中に居る人物からの応答はない。特にそれを疑問に思った様子もなく、返事がないのを確認したリムは静かに扉を開けた。
「……失礼します」
此処は教会内の誰にでも解放している休憩室だ。味気のない簡素なテーブルと椅子、そしてベッドが置かれただけの場所だが、無料ということで金のない旅人などには重宝される――滅多に訪れることはないが。しかし今日は珍しく利用者がいる。先程の“被害者”だ。
「生きてるはずなんだけど……まだ目は覚めないのね」
報せを受けて駆けつけた場所に倒れていたのは、見知らぬ一人の青年だった。顔色は酷く青ざめ死人のそれと大差ない程だったが、彼には特に外傷もなく、何よりまだ息をしていた。昨今の事件で誰もが過敏になっていたが、関係の無いただの行き倒れのようだった。かといって放っておくわけにもいかず、教会のこの部屋に運び込まれたのである。
もし目が覚めていたら、と持ってきていた水差しをテーブルに置くとリムはそのままベッドに横たわる青年の顔を覗き込んだ。彼は男性にしては線が細く、顔立ちも中性的だ。日光など浴びたこともないような白磁の肌を持っていたが、腰ほどである髪は陽の光のような金色で、窓から射し込む夕日を反射してきらきらと輝いていた。形のよい唇は僅かに開かれ、浅い呼吸を繰り返す。閉じられている瞳の色は判らないが、女性が黙っている容姿ではないことは確かだ。
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