千夜に降る雨14
あれから五年程の月日が流れていた。村を襲った長い日照りも、ちよは以前から知っていた。だから少しずつ保存食を作り、備えていたのだ。母の弱った体は、食糧難に見舞われようものなら無事では済まない――ちよの願いは変わっていなかった。
しかし、母の容態は思わしくなかった。以前は多少息は切らしても出来ていた畑仕事もとてもではないが出来なくなり、殆ど寝たきりになってしまった。ちよは懸命に看病したが、日に日に母の体力が衰えていくのを感じていた。
そんなちよの元に、ある日無視できない情報が飛び込んできた。
「本当……!?ほんとにその薬草があれば母さまは助かるの!?」
胸ぐらを掴みかからんばかりに、ちよは聞いた。相手は村唯一の壮年の薬師だ。何とは無しにすれ違った時に、そういえばお前の母親だが……と声を掛けられたのだ。
「あ、あぁ……天青草があれば薬を作れる。用事で町の薬師に会ったときにそう聞いた」
ちよの剣幕にやや気圧されながらも、しかし……と男は続けた。
「天青草が生えているのは、この辺りだと天狗の山くらいしかない。……取りに行く気か?」
「それで母さまが良くなるなら、何だってするわよ」
ちよは、あっさりとそう告げた。
翌日。山に向かうため、ちよは身支度を整えていた。不安はない。昨日、夢に見たのだ。深い木々のなか、開けた場所にある大岩。そして自分を助けてくれる青年。
「さて、一張羅を着ていかなくちゃね。神さまに会うんだから」
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