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 久しぶりに訪れた市場は、予想通り多くの人で賑わっていた。記憶に有る限りこの場所が閑散としていたことなど一度もなく、恐らくイフェスで最も活気に満ちている場所ではないだろうか。
「いやー、良い買い物したわね! 楽しかったぁ」
「……そりゃ良かったな」
 必要な買い出しを終え、荷物を持って歩く市場の道。晴れ晴れとした笑顔で歩くルカとは対照的に、ゼキアはぐったりとため息をついた。様々な人でごった返す広場は、歩き回ればそれなりに疲弊するものである。しかし今日に限っては、この疲労感の原因はそれだけではなかった。
 それというのも、全てはルカのせいである。確かに彼女の値切りっぷりは素晴らしく、口の上手い商人が舌を巻く程のものだった。お陰で予定よりも出費が少なく済んだのは有り難かったのだが、問題はそれ以外である。道を歩けば客引きの声にいちいち反応し、必要のない店をあちこち物色し――いつの間にかすっかり彼女に振り回され、いつも以上に体力を消耗してしまったのである。
「あれ、なんかぐったりしてない? どうしたの?」
「……なんでもねぇよ」
 きょとんと尋ねるルカに少なからず殺意が芽生えたが、もはや文句を言うのも億劫である。ゼキアは罵声を飲み込み、話をすり替えた。
「それより、いい加減に戻るぞ。ルアスも帰ってるかもしれねぇし」
 家を出たのは午前中の早い時間だったというのに、気が付けば太陽はとっくに頂点を通り越していた。既に用を終えたゼキアとしては、早々に帰路につきたいのである。そんな心中を察したかどうかは定かではないが、これにはルカも素直に頷いた。
「そうね、もういい時間だし――」
 そう言いながらルカが空を仰いだ、その時だった。
 唐突に、甲高い悲鳴が辺りに響き渡った。人々の活力が溢れる市場におよそ似つかわしくない、切羽詰まったような――子供の声、だろうか。
「なんだ、今のは」
 反射的に足を止め、ゼキアは音源を探った。周囲を見回してみると、一件の店の前に人だかりができている。
「あそこかしら? 行ってみましょう」
「あ、こら待て!」
 同じものを見つけたらしいルカが、真っ先にその店先へと駆け出した。ゼキアの制止などまるで耳に入っていない。
「……ああもう、さっきからあいつは!」
 ひとつ舌打ちをすると、ゼキアは仕方無しに彼女の後を追った。こんなもの、明らかに厄介事である。進んで巻き込まれたくはない。が、放っておいて後味の悪い思いをするのも嫌なのである。
「くそ、どこ行きやがったあの女……」
 問題の場所には、すぐに辿り着くことが出来た。しかし肝心のルカの姿が見当たらない。人混みに紛れてしまい、いつの間にか見失ったようだ。
 胸の内で思い付く限りの悪態を吐きながらも、瑠璃色の髪を探して周りを注視する。すると、否が応にも騒ぎの原因が目に入った。


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