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「どうして、こうなっちゃったかなぁ……」
 呟きながらどうしようもない空虚感に襲われ、涙が出そうだった。ゼキアの口から出たのは拒絶の言葉だけだった。今までも顔をしかめたり文句を言うことはあっても、こんなに強く拒まれたことはなかったというのに。王族の血筋であるということが、彼に受け入れて貰えなかった。
 ――結局自分は、どこであっても疎まれる存在でしかないのだろうか。オルゼスでさえも、何も言ってはくれない。ゼキアと面識があるようだったが、それも拒絶された大きな要因の一つだろう。どんな関係なのかは知らないが、オルゼスがあの場に現れなければ話は違っていただろう。少なくとも、こんな形で身分がばれて仲違いすることは無かったはずだ。正直なところ、オルゼスを罵倒したい気持ちでいっぱいだった。例えそれが、八つ当たりにすぎなかったとしても。
 扉をノックする音が聞こえたのは、まさにそんな事を考えていた時のことだった。
「――ルカ様、いらっしゃいますか」
 扉越しとはいえ、その声を聞き間違えるはずもない。部屋を訪ねてきたのはオルゼスだった。
「……どうぞ」
 横たわった体勢のまま、ルカは入室を許す。それに応えて彼が扉を開けた気配を察すると、ようやくルカは身を起こした。
「来なければこっちから出向くところだったわ。そっち座って」
 オルゼスの姿を見て真っ先にそういい放ち、ルカもまた彼の座るソファの対面へと陣取る随分と都合の良い時にやって来てくれたものである。
「……先程は、お見苦しいところを」
 ルカが何かを言い出す前に、オルゼスは頭を下げた。ゼキアとの言い合いのことだろう。彼自身に取り乱した様子はあまり無かったが、こうしてわざわざ謝罪するのが生真面目なオルゼスらしい。しかし、ルカが追及したいのは、そんなことではないのだ。
「謝って欲しいのはそんなとこじゃないのよ。せっかく馴染んできたところだったのに、わざわざ私が王族だって分かるような真似しなくたってよかったじゃない。それにゼキアと面識があるみたいだけどどういうこと?」
 ここぞとばかりに、ルカは不服を並べ立てた。子供じみている、というのは解っていた。しかし今はとにかく感情の捌け口が欲しかったのだ。そんなルカの癇癪にもオルゼスは嫌な顔一つせず、ゆっくりと答えていく。――甘えているな、と自分でも思う。こんなことだから、ゼキアも怒ってばかりだったのだろうか。
「申し訳ありません。私がお迎えに上がったのは、陛下の命です。早急に、とのことでしたので……場所が場所だけに、良からぬ輩に漬け込まれているのでは、心配なさっていたのですよ」
「お父様の?」
 語尾を跳ね上げ、思わずルカは聞き返した。普段は自分が何をしていようと気にも留めないというのに、どういう風の吹き回しか。何度か謹慎を言い渡されたこともあったが、臣下達に進言されてようやく動いた程だったというのに。
「あまり態度には出されませんが、陛下は姫様を気にかけておいでですよ。……それと、ゼキアのことですが」
 そんなルカの心境を察してか、オルゼスが重ねて言う。しかし、そんなことはどうでもよかった。彼が、最もルカが気にしていることを口にしたからだ。やや口ごもりながらもオルゼスが口にした名前に、息を呑む。
「私情です。本来なら姫様のお耳に入れるような話ではないのですが……お聞きになりますか」
 そうは尋ねるものの、オルゼスがあまり気乗りしない様子なのは見て取れた。目を伏せ、どこか遠くを見つめるようなあの表情。いつも濁していた答えを、今なら教えてくれるのかもしれない。更にそこにゼキアが関わっているというなら、聞かないという選択肢はなかった。二人がなぜ知り合って、ゼキアがなぜあんなにも敵意を向けるのか――その、理由を。
「聞くわ。これで黙ってられたら、気になって夜も眠れないわよ」
 姫だから何だというのだ。どうせ、そんな風に扱う者など殆どいない。それのどこが障害になるのか。言い渋るオルゼスを急かすように、ルカは断言した。彼は深々と息を吐くと、やがて覚悟したように顔を上げた。
「……分かりました、お話ししましょう。私がゼキアと出会ったのは、十年と少し前の国境近くの村でした――」


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