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「俺、昔ルーナに住んでたんだ」
 エルドと名乗った少年は、ユイス達と同じテーブルで麦粥を頬張りながら語り始めた。未だ湯気の立つそれはやはりかなり熱かったららしく、エルドは随分苦労した様子で嚥下する。
「もう何年も前だけど。たまたまイルファを見つけてビスケットやったら気に入ったみたいだったからさ。なんとなく、イルファの分も用意して会いに行くようになって」
「……なるほど」
 話題の中心であるイルファも、改めてエルドから貰ったクッキーを齧りつつ頷いていた。きちんと飲み込めるのか心配になるほど口にクッキーを詰め込む様子は、どこかエルドと似ている気がする。様々なことに得心がいって、ユイスは苦笑せざるを得なかった。それが後々ルーナの火事騒ぎに繋がるとはエルドとて思いもしなかっただろう。しかし、度々イルファの暴走を押し止めなくてはいけない身としては少々恨みがましい気分である。
「病気で親が死んで、爺さんと婆さんに引き取られることになってリエドに引っ越してきたんだ。まさかこんな所で再会するとは思ってなかったよ。お前変わんないなぁ」
「お前は急にでかくなったなー。人間が変わりすぎなんだー」
 軽口を叩きながらエルドはイルファをつつき、イルファもそれに反撃する。勿論嫌がっているわけではないのは明らかで、彼らの仲の良さが見て取れた。微笑ましい光景ではあるのだが、どこか違和感を覚えてしまうのはエルドの出で立ちや言動のせいだろうか。
「エルド、君はどこかの神殿で修行はしたのか?」
「いや、別に? 聖職者って柄じゃないし。親もその辺無頓着だったみたいでさ、特に困ることもなかったから。それに精霊なんて街中にたくさんいるようなものでもないだろ。イルファはまぁ、別だけど」
 エルドから返ってきたのはほぼ予想通りの答えだった。今年十五になったという彼はいかにも少年らしい壮健な体つきをしていて、肌は日に焼け、亜麻色の髪も大雑把に揃えたのがよく分かる。新緑の目は活気に溢れてせわしなく、あまり静謐さを尊ぶ神殿と縁があるようには見えなかった。
 強制、というわけではないが、エレメンティアの力を持つ人間の多くは神殿に属する。自覚しながらも街で過ごすエルドのような者は珍しかった。そのせいか、ごく自然にイルファと交流する姿が少し不思議に感じられるのだ。これだけ親密に精霊と接するだけの才が惜しくも感じられるが、彼が言うように日常生活で精霊と接する機会がそうあるわけでもない。レイアのようにやたら精霊に好かれる体質であれば困ることもあろうが、彼女は極めて特殊な例である。
「そういうことで俺はイルファと知り合いなんだけど、そっちは? 精霊連れて旅してる人なんて初めて見たよ」
 今度は肉の串焼きにかぶりつきながら、エルドは問い掛けた。彼の旺盛な食欲にある種の感動を覚えてながらも、ユイスは慎重に口を開く。
「私達はルーナの神殿に仕える者だ。クロック症候群について調べて回っている。イルファは……まぁ、奇妙な縁があってな。協力してくれているんだ」
「そうだぞー。おれにも色々事情があるんだー」


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