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3

「そのことなんですけど……これ、ユイス様が目覚めたらお見せしようと思っていて」
 ユイスが考えることを察したようにレイアが動く。取り出した先に準備しておいたらしい地図と、もう一つは海底の神殿で手渡された結晶である。地図を広げ、レイアは結晶を前に差し出した。
「中に光の針みたいなのがあるの、分かりますか?」
「これは……」
 促されて結晶を覗き込むと、確かにうっすらと金色の筋が見えた。中心から時計の針のように細く光が伸びている。レイアが軽く手を動かして角度をつけると、それに合わせて光の針もくるくると向きを変えた。まるで羅針盤である。そしてその感想は、図らずも正鵠を射たものだったようだ。
「これ、ずっと同じ方角を指してるみたいなんです。ここからだと、北西ですね」
 言いながら、レイアは針の向きと地図を照らし合わせた。彼女の言う通り、結晶は常に同じ方角を指し示している。これがノヴァ達の言うところの道標であるらしい。
「北西……シズロ山脈の方か」
 レイアに確認を取りながら、ユイスは地図に目を走らせた。ちょうど風の神殿の方角と重なる。この辺りは山麓に小さな町や村が点在する地方だ。神殿以外には特に精霊に縁の深い土地はなかった筈である。
「となると、やはり風の神殿を目指すのがいいか……他に分かったことは?」
 目的地の目星は付けた。しかし肝心の時柱については分からないことだらけである。なぜその存在を認知されていないのか、あの神殿との関連性はあるのか、結晶の核とはどのようなものなのか。得体の知れない物なのだから、少しでも情報は欲しいところである。そう考えて問いかけたのだが、レイアは静かに首を振った。
「イゴール様にも海底の神殿や時柱について尋ねてみたんですが、やはりご存知ないそうです。ジーラス様にも急ぎ手紙を書きましたが……」
「望みは薄い、か。ジーラス殿が知っていればとっくに教えてくれているだろうな」
 言葉を濁したレイアの後を引き継ぎ、ユイスは言った。この旅に当たって、ジーラスは資金や連絡面など様々な支援をしてくれている。そんな彼が知った上で情報を出し惜しみしていることはあるまい。現状を知らせれば改めて調べてはくれるだろうが、過剰な期待はしない方がいいだろう。
「イルファとレニィは何か知っているか?」
「残念だけど、わたしから話せることは無いのね」
「おれも知らないぞー」
 念のために傍にいる精霊達にも確かめてみるが、想像に違わぬ答えが返ってきただけだった。さして落胆することもなかったが、やはり釈然としない。どう考えても、こんなに重要な事実が記録に残っていないのはおかしい。神殿も、精霊すら知らない歴史――そんなものが存在するのだろうか。
 それとも、とユイスは思いを巡らす。これまでに顔を合わせた精霊王達はどうだったのだろうか。飄々として掴み所のなかった炎のイフェン、多くを語りたがらなかった地のトレル。話そうとしないだけで、彼らは全ての答えを知っているのではないだろうか。ならばなぜ、それを隠すのだろう。
「ユイス様?」
「いや、手掛かりが心許ないと思ってな。時柱を奪った者がどう動いているかも分からないし、近隣の町を虱潰しにしていくしかないか」
 呼び掛けられて我に返り、ユイスは溜め息混じりにそう吐き出した。悔しいが、これ以上は考えてもどうにもならない。精霊達の思惑は、人間ではとても考えの及ばないような場所にあるのだろう。今はクロック症候群の収束を優先すべきである。
「あまりのんびりもしていられない。すぐにでも――」
「明日以降にしましょう。体調も崩してたんですから、無理なさらないでください」
 出立を告げようとしたユイスを遮り、やけに強い口調でレイアが制した。笑顔に妙な気迫があるのは気のせいだろうか。
「私、イゴール様に言って準備しておきますから。ユイス様は休んでください。食事もちゃんと食べてくださいね!」
 反論する猶予も与えずに捲し立てると、レイアは早々に部屋を後にしてしまった。やや間を置いて、ユイスは苦笑する。そういえばトレルの森でも無茶をしすぎだと怒られた気がする。思っていた以上に気を揉ませてしまっていたようだ。
「なんか、怒ってたなー?」
「諦めて寝てるといいのね」
「……仕方ないな。今日は大人しくしているとしよう」
 どこかのんびりとした、しかし的確なイルファの指摘に、更にはレニィにまで窘められては、ユイスも降参するしかないのだった。


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