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3

「……大体の話は聞いたがな」
 幾ばくかの沈黙の後、ティムトはようやく手を離した。かといって、怒りが治まったわけではなさそうだ。眉間には随分と深い皺が刻まれている。
「だったら今更説明しなくても大丈夫だろう? そういうことだ」
「それで納得すると思ってんのか?」
 再度、栗色の眼がじろりとユイエステルを睨む。その視線がティムトの苛立ちと憤りを鮮明に物語っていた。ただ、そこに憂慮の色が滲んでいることにユイエステルは気付いていた――彼が自分の身を案じてくれていることは、充分に理解しているつもりだ。
「……自分の身体のことくらい分かる。体力が有り余ってあるくらいだ。心配ないよ」
 ティムトの言わんとするところを先回りすると、みるみる彼の表情が曇っていくのが分かった。その様子に申し訳なさが募るが、こればかりは自分の主張を曲げるつもりはなかった。
「一度倒れただろうが」
「最初だけだ。それに随分と前の話じゃないか。お前は大袈裟すぎる」
「何が大袈裟なものか! 万が一の事があったらどうする!?」
 堪り兼ねたように、ティムトは声を荒げた。ただ憤慨するのではなく、どこか悲痛さを含む物言いだった。これではまるで自分が死出の旅に向かうようだ――この身を蝕む病を思えば、違うとも言い切れないのが辛いところである。
「……ティムト。クロック症候群は、私だけではないんだ」
 ユイエステルが口にした単語に、ティムトの顔が強張るのが分かった。
 クロック症候群。今エル・メレクを脅かし、人々の心に影を落としている元凶である。身体が急速に老いる、或いは若返る奇病で、発症すれば例外なく死に至る。最初に患者が見つかったのは、三年程前のことだった。始めは国内に数人確認するだけだったものが、ここ一年で爆発的に発症者が増加し、看過出来ないものとなっていた。しかし原因も治療法も、未だに明らかになっていない。
「多くの民が蔓延する奇病に怯え、計り知れない不安を抱えている。それを解決するのに、のんびりしている訳にはいかないだろう。そのための条件が私に揃っているのだから」
 クロック症候群は、人の手に負えるものではない。それが医師や国政に携わる者達が出した答えだった。ならば精霊に救いを求めるしかない。ユイエステルには、そのための力が備わっていた。幸い自身の症状の進行は緩やかだ。外見は十ほど幼く見えるものの、身体的な問題はない。ならばどうして行動せずにいられようか。
 それに、とユイエステルは付け加える。
「俺だって死にたい訳じゃない。黙って治療法が見つかるのを待つより、自分で解決策を探した方が早そうだから行くんだよ。お前だって早く解決した方が心配の種が減るだろう?」


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