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18

 精霊に誘われるままに大通りを抜け、いくつかの細道を通った先。辿り着いたのは、住宅街の片隅にある小さな空き地だった。ユイス達が追い付いたことを確認すると、道案内の精霊は役目は終わったとばかりに姿を消した。
 走ったせいで乱れた呼吸を整えながら、周囲を見渡す。火祭りの準備のためだろうか、仮設の物置小屋と、端の方には雑多に資材や天幕などが置かれていた。特に変わったものは見当たらないが、あの精霊はなぜこんな場所へ連れてきたのだろうか。
「……ん?」
 しかし、疑問を持ったのも束の間のことである。積まれた資材の上に見える小さな影が、答えだった。
「あれが犯人、か」
「……多分、そうですね」
 ユイスはレイアに目配せすると、ゆっくりとそこへ近付いた。炎の王――イフェンは『捕まえろ』と言っていたが、まさか精霊を網で捕らえる訳にもいかない。まずは対話をして、一緒に神殿へ来てもらうよう同意を得なければ。
「失礼。炎の精霊とお見受けするが、少しいいだろうか」
 そう声をかけると、不思議そうに見上げる金の瞳と目が合った。身体の大きさは、今し方案内してくれた精霊と同じほど。人にしてみれば十二、三才位の少年の姿をしていた。肌は飴色で、頬に刺青のような模様がある。深い緋色の髪はまさに炎を体現したかのようで、キョロキョロとよく動く瞳と合わせてみると、弾ける火花のような印象だった。
「……お? おお、なんだ人間ー、お前らおれが見えてるのかー」
 暫し間が開いたかと思うと、ようやく返事が返ってきた。語尾を延ばすような、独特な喋り方だ。
「人間が何の用だー? おれ今これ食べるのに忙しいんだよー」
 これ、と言って精霊が両手で掲げたのは、ビスケットだった。元は円形だったはずのそれは、既に半分ほど齧られていびつな物になっていた。
「ユイス様、これ、さっきのお店のです」
 ユイスにはよく判らなかったが、ビスケットの模様や形でレイアはそう判断した。やはりこういったものは女性の方が敏感なのだろう。この精霊が一連の火事との関わっている可能性は高くなった。
 ――しかし、今はそれより目の前の精霊の行動が気に掛かってて仕方ない。ビスケットをがりがりと貪るその姿に、ユイスは大変な違和感を覚えていた。
「……レイア、精霊はビスケットを食べるものなのか?」
「……うーん、私も初めて見ましたけど……」
 精霊が人と同じように食物を必要とするとは聞いたことがない。自分達とは全く違う原理で世界に存在する彼らも、腹が空くことがあるのだろうか。流石のレイアもこの疑問には首を捻るしかないようだった。ひたすら戸惑う二人に答えを寄越したのは、意外にも疑問の元となった張本人だった。
「食べるぞー。食べなくても大丈夫だけど、これはうまいからなー。人間もたまにはいいもの作るー」
 つまり嗜好品のようなもの、ということか。そう喋っている間にも精霊は順調にビスケットを嚥下し、ついに最後のひと欠片を口に放り込んだ。


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