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14

「……は?」
 思わず、口から間抜けな声が零れる。今、彼は何と言ったか。ユイエステルは耳を疑った。
『そんなものは初耳だが、まぁ俺達には何の影響も無さそうだ。救う手立てが無いなら、それも人間の定めなんだろう』
 軽く言ってのけた精霊王の言い分は、あまりにも無情だった。言葉に詰まったユイエステルより先に、フェルレイアが声を上げる。
「そんな! それじゃあ殿下は……」
 最後まで続かなかったそれは、ユイエステルの身を案じるものだった。それをどこか遠くに聞きながら、ユイエステルはようやく言葉を絞り出す。
「……人に、滅べと仰いますか」
 予想以上に、低い声が出た。言下に扉を睨み付ける。
 次々に巻き起こった惨く奇怪な現象に、これは創造神による天命なのかと思ったこともあった。しかしそれで全てを納得するには、あまりに唐突で不条理である。人々は信仰心を忘れず、ここ数百年は大きな争いもなく慎ましく暮らしてきた。天の逆鱗に触れるような事は無かったはずだというのに、受容して滅べなど理不尽すぎる。
『怨み言を言われてもどうにもできん。俺の司る領域の事なら原因も判るかもしれんが、そうじゃないからな』
 ユイエステルの憤りを感じ取ってか、ため息混じりに炎の王は言った。知らない、というのはそういう意味も含まれていたらしい。その言葉に、ユイエステルは俯き唇を噛み締めるしかなかった。
『解ったら早々に立ち去るんだな。まぁ、他の精霊なら何か知ってるかもな』
「他の精霊……」
 呟き、ユイエステルは己を奮い立たせた。炎以外にも、精霊王は存在する。他ならぬ炎の王が言うのだから、望みが断たれたわけではない――そう自分に言い聞かせた。易々と挫折するわけにはいかないのである。
『――そうだな。良いことを思い付いたぞ』
 唐突に、炎の王の声が高くなる。いかにも煩わしいといった様子から一変、どこか愉しげにも聞こえた。
『俺自身はどうにもできない。が、他の精霊に会いに行くなら、その為の協力はしてやらなくもない』
「……本当ですか!?」
 告げられた内容に、ユイエステルは弾かれたように顔を上げた。それに対し、声は居丈高にこう続けた。
『本当だとも。但し条件がある』
「条件……」
 その単語に、唾を嚥下する。確かに、なんの対価もなく力を貸してもらおうというのは虫のよすぎる話だ。それを呑むことに否やはない。しかし精霊王の提示する条件とはどんなものなのか――身を堅くするユイエステルの心情とは裏腹に、炎の王は軽い口調で言った。
『大したことじゃない。最近、少しばかり悪戯の過ぎる同胞がいてな……そいつを捕まえてもらいたい』
「精霊を、ですか」
 彼が同胞と称するならば、そうであろう。人間からしてみれば信仰の対象であり、畏敬を抱く存在の精霊を“捕まえろ”とは。無論ここで引き下がる気は無いが、充分に大したことである。
『どうも、人間の世界に過干渉なんだよ。街中で悪さをしているもんだから、こちらもなかなか手が出せない』
「……最近、ルーナで火事騒ぎが続いているといいます。もしやそれでしょうか」
 思い当たる節があったのか、無言を貫いていたジーラスがそう指摘した。どうやら的を得ていたようで、炎の王の声に喜色が滲む。
『おお、多分それだな。そういうことだから、頼んだぞ――ああ、そういうことなら』
 そのまま話を締め括りかけたところで、思い出したように炎の王は付け加えた。


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