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 翌日。ユイエステルはジーラスとフェルレイアを伴い、とある場所を訪れていた。装飾を一切排除した白い天井。鏡のように磨かれた曇りひとつ無い床。まるで外界から隔絶されたように、物音ひとつしない。ただユイエステル達の靴音だけが、やけに高く響いていた。
 聖殿の最奥、精霊の間。仰々しい名が付いている割には、作りは非常に簡素なものだった。清々しいほどに何もない――ただひとつ、祭壇へと続く扉を除いては。
「お待ちしておりました」
 その数歩手前で立ち止まると、待ち構えていた番兵が手際よく扉を開けてくれた。その先は薄暗く、どうやら地下に続く階段になっているようだ。
「この下だな」
「ええ」
 ジーラスが頷いたのを確認し、ユイエステルは無言でその階段に足をかけた。
 精霊達にも、王はいる。それぞれが司る属性の中で、最も力を持つ存在――それが、精霊王と呼ばれるものだ。王、というのは厳密に言えば正しくない。人の身分制度は精霊に当て嵌まるものではないからだ。あくまでそれは便宜上の呼称に過ぎない。彼らは、神に極めて近しい存在なのである。
 その精霊王に会おうとするなど、本来なら余程馬鹿な人間の考える事だ。彼らが人前に姿を表した前例など無く、精霊の意に反した冒涜行為とも取れるかもしれない。しかし誰かがその罪を犯さなければ、人々は何も出来ずに死を待つしかない。クロック症候群から民を救うのに、他に道は無いのだ。人智を越えた存在である精霊王なら、何かしらの知恵を持っているはずである。その可能性に縋るしかない。
「……着きましたな」
 階段を下りきると、踊り場のような場所に再び扉が見えた。上の扉より一回り小さいだろうか。金で描かれた精霊の姿と、細緻な彫刻。薄暗い空間で、そこだけが華やかな装飾に彩られていた。とても数百年の歳月を経てきたとは思えない鮮やかさである。そこに手を伸ばしかけて、ユイエステルは妙な事に気付いた。
「これは……どうやって開けるんだ?」
 取っ手となるものが、何もないのである。あちこちに手を這わせてみてもその表面は滑らかで、引っ掛かる所はひとつもない。試しにそのまま押してみたが、ほんの僅かも動かない。
「これより先は、炎の王に認められた者だけが立ち入ることが許されるといいます」
 ジーラスの説明に、ユイエステルは渋面を作る。
「随分とあやふやだな」
 認められると言っても、そもそも対面すら果たしていない。この扉――というより壁を前に、どうすればいいのだろうか。
「なにせ、前例がございません。文献にもそれらしい記述は見当たりませんでした」
 ジーラスに続き、フェルレイアが口を開いた。
「陛下も、ここから先へ進むことが出来ませんでした……私もお供していたのですけど」
「……そうか」
 既にフェルレイアに頼っていたことは初耳だったが、予想できなかったことではない。王が聖女を伴っても、精霊王に会うことは叶わなかった。だからこそユイエステルが向かうことに反対もしたのだろう。とはいえ、ここで引き下がる気は微塵もなかった。


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