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12

 ほどなくして、頭を揺さぶられるような轟音が辺りに響き渡った。大地が震え、吹きすさぶ爆風で遺跡の一部が崩れ瓦礫が飛ぶ。身構えていてもかなりの衝撃だった。身体が痺れるような感覚がようやく治まると、ユイス達は隠れていた壁から外側を覗き見た。つい先ほどまで平地だった一帯は大きく円を描くように陥没し、中心に向かってなだらかな下り坂になっている。肝心な部分は未だ土煙に隠されていたが、成果はこちらの姿を探し当てたイルファが自ら教えてくれた。
「ちょっと壊れたなー」
「……ちょっと、がどの程度かが問題だな。とりあえず見に行こう」
 視界が晴れるのを待って、ユイス達は爆発の中心へ向かった。待ち構えていたのは、やはりかつての壮麗さが見て取れる建造物だった。流石に全容を表すまでには至らなかったようだが、ちょうど建物の角にあたる部分が露出している。そして、その角を削り取るかのように巨大な穴が開いていた。イルファの言う『ちょっと壊れた』はこれのことのようだ。
「ここから中に入れそうだな」
 却って好都合だったかもしれない。どの道、入り口が分からなければ似たような行為を繰り返さねばならなかった。繰り返し衝撃を与えればそれだけ内部の破損も酷くなる。だがこれなら崩れた部分の瓦礫を越えれば侵入出来そうだ。ユイスの言葉に三者揃って頷くと、早速中へ向かって足を踏み入れた。イルファが破壊した壁は存外堅牢な造りであるようで、爆発の被害を受けた場所以外は崩れる様子はなさそうだ。不安定なのは足場だけで、それを乗り越えてしまえば予想以上に広々とした空間が広がっていた。内部も相当に凝ったものだったようだ。欠けた柱一つ見ても、暗闇の中に精緻な造りが浮かび上がる。積もった埃と散らかった瓦礫さえなければ、現在の大規模な神殿や城と比べても遜色がないだろう。これは大当たりだったかもしれない。当時の書物の一つや二つは残っていそうだ。
 ユイスは近くの瓦礫を漁っていくつか棒切れを見繕うと、荷物の中から適当な襤褸布を選んで巻きつけた。奥に進むには明かりが必要だ。油がなかったが精霊の炎なら大丈夫だろう。
「イルファ、火を」
「おー」
 軽く請け負ったイルファが手をかざし、即席の松明に赤々とした火が灯る。一瞬大きく揺らめいた炎が照らしだす光景に、ユイスは息を呑んだ。
「これは……どういうことだ」
 幻でも見ているのだろうか。それとも、今しがたまで見ていたものが幻だったのだろうか。土の下に埋もれた遺跡は消え失せていた。ユイスが立ち竦んでいるのは絢爛たる一室である。天井から吊り下げた照明は雫型の硝子が煌めき、設置された調度品の類はよく磨かれ、そのどれもが部屋に馴染み優美さを形作っていた。ここは本当に先程までいたのと同じ場所なのだろうか。そう警戒しながら辺りを見回すと、壁に飾られた肖像画が目に付いた。一番目立つものにはあどけない少女の姿が描かれている。額縁の装飾の華やかさから見ても、持ち主の入れ込みようが窺えた。絵の具の色は目にも鮮やかで、こちらも劣化を感じさせる要素は全くない。おかしい。ここは少なくとも数百年は人の手が入っていないはずなのだ。
「――へレスもここまでか」
 不意に響いた声に、ユイスは身を固くした。男の声だった。勿論イルファでも、レイアがふざけているわけでもない。恐る恐るそちらを振り返ると、深紅の天鵞絨のソファに腰掛ける人物がいた。声を発したであろう長い金髪を結わえた男と、それに寄り添う若草の髪をなびかせる女性。その姿に、ユイスは目を疑った。
「――シル!?」


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