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lovebirds





傍から見ると、その髪の毛はとても硬そうに見えるけれど実際は違う。
そんな事を考えながら雪菜は自分の膝の上で眠るシリウスの髪にそっと指を通した。
触り慣れたその髪は、指が触れると柔らかくしっかりと曲がり、そして少しくすぐったく手のひらを撫でていくうちに、やがてぴくりと雪菜の太ももの上に振動が僅かに走った。

「ん、」

小さく漏れたその声は普段の彼が発するものより少しだけ弱い。
それは勿論彼が未だ少し睡魔との間を彷徨っているからであり――雪菜は見下ろしたシリウスの頬にそっと手を伸ばした。

「起きた?」
「んー……、」

少しだけ顔を顰めたシリウスが瞳をゆっくりと開けると、やっとグレーの瞳が雪菜の瞳と重なった。
未だ随分眠そうなシリウスに微笑を一つ落としてみると、今度はシリウスが緩く頬を緩め返す。
普段こんな顔を見る事なんて滅多にない、彼を知る人からすると"こんな閉まりのない顔!"なんて悲鳴があがるかもしれない、と雪菜は苦笑を浮かべてその頬をもう一度撫でながら口を開いた。

「俺、寝てた?」
「うん、30分ぐらいだけどね。起きる?」
「ん……もうちょっと」
「あ、こら」

暫く宙を彷徨っていたグレーの視線はやがて頭の覚醒を告げるように少しずつ開いていき、やがてパチパチと何度か瞬きを繰り返したシリウスが腰に手を回してぎゅっとその腕の隙間を埋め込む。
今まで膝の上ですやすやと寝息を立てていた筈なのに、次の瞬間には腰に抱きついてくるには大きすぎる図体の彼氏に、雪菜は苦笑を漏らしながらもその髪にもう一度指を通した。

「もう」
「いいじゃん、たまには」
「……まぁ、たまにはいいけど」
「お?」

ふと、こちらを見上げていたシリウスのグレーの瞳が少しだけ潤んでいるのは寝起きの欠伸のせいだろうか。
その目元を指の腹で軽く撫でてみると、シリウスは少しだけ目を細めた後にやがて口元に綺麗な弧を描いてみせた。

「なぁに?」
「いや、普段なら"こんな事恥ずかしい!"とか言うのになーと思って」
「だってほら、ここ誰もいないし」

ねぇ、と目元をいつもシリウスがするようにくすぐってみると、納得したようにシリウスがあぁ、と声を漏らした。
そう、ここは男子寮でもありシリウスの部屋。
運良く、というかはいつものようにシェアメイトのジェームズとリーマスの姿がないのは――気を利かせてくれているといったところだろうか。

「それにね、何かこういうの彼女っぽくていいよね」
「いや、お前俺の彼女だろ?」
「そうだけど、何ていうのかな?こう……彼女だけの特権みたいな?」

何だそれ、と疑問を含んだシリウスの視線に含んだように雪菜が笑えば、シリウスの瞳が更に答えを求めるように向けられる。
腰に抱きついたまま大きな欠伸をもう一つ漏らしたシリウスの少し潤んだ瞳を受け止めてから、雪菜はシリウスの髪へと視線を落とした。

「ほら、髪の毛撫でるとか」
「……それってそんな特別なもんか?」
「特別だよー思い返してみて?シリウスの頭を触るのってジェームズぐらいじゃない?」

そう問われてシリウスが少し考えるように口を噤んでいる間にも、雪菜の指先がまるで1本1本丁寧に撫でて行くようにシリウスの髪を撫で付けて行く。
言われてみれば、髪に触るなんて行為はそうそうされるものではない。
思いつく限り考えてみてもジェームズがぽん、と叩くぐらいで他の誰かと言われてもそれこそ今抱きついている雪菜ぐらいか、あるいは。

「そういや、昨日の朝リリーに殴られたっけな」
「あれはシリウスが勝手に私のベッドに入ってきてたからでしょう?」
「俺悪い事してねーのに」

む、と少し不満そうに顔を歪めたシリウスに雪菜も苦笑を浮かべてシリウスの後頭部を撫でる。
寝る時は確かに一人だったのに、朝方に起きた時には隣にしっかりと入り込んでいたシリウスに、リリーが思い切りシリウスに拳骨を落としたのはほんの昨日の出来事。
"人としても、犬としても大問題よ!"と怒鳴ったリリーの言葉にはさすがに雪菜も寝起きにも拘らずお腹を抱えて笑ったのは記憶に新しい。
これが初めてではないにしろ、どうして女子寮にこうも簡単に侵入できるのか、否、それすらもう愚問かもしれない。

「ああ、でも誰かに撫でられるってのはあんまりしてもらった覚えねーなぁ」
「でしょう?だからね、これは私だけの特権なの。それに、寝顔見れるのだって、シリウスの頬に触れるのだって。ぜーんぶ今は私が独り占め」

これぞ彼女の特権、と言葉を紡ぎながらも自然と漏れてしまう笑みに、心無しかシリウスの瞳がぴくりと揺れた。
驚いているのだろうか、考えてみると普段雪菜からこうしてシリウスに気持ちを打ち明ける事は極めて少ない。
別に口にしない訳ではないが、呆気にとられたように雪菜を見上げているシリウスを見ていると、たまにはこうして告げてもいいかな、なんて雪菜がくすりと笑みを漏らして頬に手を翳してはみたが――一向に反応のないシリウスに、雪菜は少し首を傾けた。

「、シリウス?」
「え、?」
「どしたの?ぽかんとし、て……って、え?」

未だこちらを見上げたまま目を瞬かせる事もしないシリウスの注意を引くように、つんつんと雪菜が頬を突付いてみると、ようやくはっとしたように灰色の瞳がゆらりと揺れる。
そんな様子を見下ろしているとふと、雪菜の瞳に見慣れない色が飛び込んできて思わず瞳を見開いた。

「……もしかして、照れてるの?」
「う、っせ。お前がいきなりそんな事言うからだっての」
「ねえ、シリウスの頬赤いよ」
「見ーるーな!っつか、不意打ちは卑怯だろお前……!」

ぱっと頬に翳していた雪菜の手を振り解いて、そのまま腰に絡み付いて顔を埋めたシリウス。
となると雪菜の視界に飛び込んでくる彼の横顔と耳なのだが、何と珍しい事か、それが少しだけ薄く色づいている。
普段はクールなポーカーフェイスだと周りから騒がれている彼もこうなってしまうと台無しだ。
それがまた、雪菜にしてみれば"彼女の特権"の一つに感じられて、トクンと胸が高鳴ると同時に喉をこそりと震わせた。

「笑うな」
「笑ってないよ、微笑んでるの」
「でも笑い声が聞こえる」
「気のせいじゃない?」
「あーもう、ったく!」

ぎゅ、と強く閉まる腰に回されたシリウスの腕に、痛い痛いと雪菜が告げると同時に喉から出てしまう笑い声。
いつもならクールに笑って誘い文句の一つでも簡単に返してしまう自信たっぷりの彼氏はどこにいってしまったのか。
けれど、そんな彼がまた一段と愛しく感じてしまい、いまや耳まで赤く染め上げた彼の頬に雪菜が手を翳そうとしたその時。
パシリと雪菜の片手に温かいシリウスの手が重なった、と同時に世界が反転した。

「いっ、……たぁ!」

これが廊下やフローリングなら間違いなく大怪我をしていただろうが、ここはふかふかのベッドの上。
ボスンとくぐもった音が雪菜の両耳に響いたかと思えば今の今まで見下ろしていた愛しい彼氏が今度は自分を見下ろしている。
一応、彼は寝起きであって寝転んでいた筈なのにこうも簡単に体勢を変えてしまうなんて、と雪菜が目を瞬かせてドキドキと突然の視界の反転に胸を高鳴らせていると、押し倒す形になったシリウスがすりっと雪菜の頬に自分の頬を重ねた。

「悪いかよ」
「……、え?」
「言っとくが、俺だって好きなヤツ相手には緊張したり照れたりするんだぞ?」

雪菜の耳元にダイレクトに響くのは、シリウスの少し不満そうな、それでいて熱の篭った少し低い声。
言葉と一緒にふ、と耳元に息を吹きかけたのはシリウスなりの反撃だろうか。
ぴくりと跳ねてしまった雪菜の身体に気をよくしたように、シリウスはリップノイズをわざと立てながら雪菜の耳元に唇を一つ落とした。

「ひっ、」
「雪菜、耳まで真っ赤だぞ?」
「あたりま、えでしょっ!」
「なんで?」

聞かずとも答え等一目瞭然なのに、あえて。
この体勢に、重なる熱に、落とされる耳元へのキス。
その全てが自分の彼氏であるシリウスからだと思うと――思っただけで頬が熱くなってしまうのは仕方が無い。
それでも"なぁ、なんで?"といつものクールなポーカーフェイスに戻りつつあるシリウスが低く悪戯に笑った声色に、雪菜は不満そうに鼻をならした。

「っ、わ、私だって好きな人相手には緊張したりこうなったりするの!」

しょうがないじゃない、と嘆いてみれば、耳元に落ちていたシリウスの顔が上げられて、コツンと額が重なる。
きっと自分の頬の方が真っ赤に染まりあがっているだろう、、それでもシリウスの頬がまだ少しだけ赤い事に雪菜も熱い頬を緩めて笑みを零した。

「私もシリウスも、頬っぺた真っ赤」
「いいじゃん、誰もいないんだし」

そうだろ?と笑う灰色の瞳を受け止めて、雪菜も"そうね"と珍しく笑いながら胸元に置いていた両手をシリウスの首へと絡ませた。
しゅるり、と制服が重なる音と共に、シリウスの腕が雪菜の背中へと滑り込むと、ベッドの上のほうへと身体を移動される感覚に背を少し逸らしてシリウスの首に更に強く腕を回す。
その間に近寄った彼の赤い耳元に好き、と呟くと、俺も、とすぐに返ってくるそれが恥ずかしくて嬉しくて、身体が落とされると同時に雪菜はシリウスへとキスを一つ贈った。



I guess we are like lovebirds now.

Since when, do we stop being human?

Well, then should I say love-humans? That doesn't sound romantic at all.

haha, true.



****
本当に内容がいつにも増して空っぽです、デフォです(キリ
ただいちゃいちゃしてる話が書きたかった、イエスザッツオール!

最後のは、

"何か、バカップルみたい。(lovebirds)"
"いつから俺らは人間やめたんだ?"
"じゃあ"love-humans"って言うべき?ねぇ、それロマンチックのかけらもないわ。"
"だな。"

ぐらいで。やっぱり特に内容がないです。
ベッドの上できゃっきゃ冗談言い合ってたぐらいだと思ってください。

バカップルは英語でラブバード、らしいです。
ラブバードはペットとしても飼われているインコの種類で、生涯を通して一羽のつがいとしか連れ添わないと言われています。
そこから意味が転じてのバカップル、なのかな?


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