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How smart he is!








ふわり、と足元に感じる生地を少しだけくすぐったく感じながら、雪菜はサイドにあるチャックを引き上げる。
そしてそのまま、自身を全身鏡に映し、そして思わず眉間に皺を寄せた。

「着れたかー?」
「あ、うん……着れた、けど、何かちょっと、」
「ちょっと、何だ?」

カーテンの向こうから聞こえてくるのは、聞き慣れた彼、ジャズの声。
その声から感じる、どこか嬉々とした様子に、雪菜は軽い溜息を漏らした。
ジャズが絶対似合うといって手渡してくれたのは、普段ならば自分では選ばないであろう、女性らしい柔らかいプリーツの入ったワンピース。
確かにデザインは悪くはないと思うが、自分が着るとなれば別。
それでも、少しはジャズを喜ばせてあげれるかも、と実際にワンピースを着ては観たが……見慣れない自分の姿がどこか滑稽に見えて、雪菜は苦笑に似た笑みを零した。

「短いというか、ふわっとしすぎっていうか……やっぱ似合わないよ、これ」
「んー?」
「、わ!」

ただでさえ幼く見えるアジア人なのだから、と雪菜がぼやいたのとどちらが早かっただろうか。
シャ、っと音をたてて開かれたカーテンに、思わず雪菜が声をあげて体を縮こませる。
どうして普段はスマートなのに、こういう所で遠慮が見えないものか、と文句を言う時間なんて勿論ない。
ああ、できればジャズを振り返りたくない、と雪菜はおそるおそる目の前の鏡越しにそっとジャズへを視界へ入れれば……

ヒュウ♪

なんて、どこで覚えたのか分からないジャズの口笛が雪菜の耳に届いた。
そしてすぐに耳に届いた「何だ、良く似あってるじゃねぇか」というジャズの言葉に、雪菜は露骨に眉を落としてみせた。

「似合ってないって……だいたい、こんなふわふわしたスカートなんて私絶対、」
「俺の目に狂いはなかったな。ってわけで、今日のデートはこれで行くぞ」
「え?ちょ、え、何やって、」

慌てて脱ごうとしたのを遮るように、背後からジャズの腕が雪菜を抱きしめるように回される。
それに思わず目を見開いたその時……プチ、と雪菜の耳に小さな音……タグが切られる音が届いた。

「実はさっき試着してる間に買っちゃった」
「買っちゃったって……え、ジャズが?」
「Yup!似合うって分かってたからな。今日のデート用に、俺からの日頃の感謝を込めたプレゼントって事で」

ほら、と背後から抱きしめながら、ジャズが鏡越しに雪菜へと微笑みを向ける。
その表情からはお世辞なんてものは勿論読み取れる訳もないし、ジャズが本心でそう感じているのは雪菜にも確かに伝わるのだが、それでも素直になれない自分に雪菜は思わず視線を伏せた。

「あ、足、太いもん……私、だからこんな、」
「へぇ?」
「ひゃ、ちょっとジャズ!」

するり、と標準より少し低い温度が太ももを撫であげるのを感じて、雪菜が声を荒らげれば、シィ、なんていうわざとらしいジャズの吐息が耳元にかかる。
そのまま、耳元に唇を寄せながら、まるで悪戯っ子のようにブルーの瞳を細めたジャズは、鏡越しに雪菜を見つめてから、ちゅ、と雪菜の頬へ優しい唇を落とした。

「太い、なんていうから確かめてやろうかと思って?」
「こ、ここ!外!ってか、試着室なのに!」
「悪い悪い」

真っ赤になって雪菜が怒っても、軽い笑い声がジャズから聞こえてくるだけ。
加えて、丁度別の客がジロジロと2人のやりとりを見ていた事に気がついた雪菜は、慌てて未だ太ももに感じていた手を振り払った。

「悪いって思ってないくせに」
「思ってる思ってる。ほら、着替えはここに入れとけ」

ぽい、とカゴの上においていた、ほんの10分前まで雪菜が来ていた服を紙袋に投げ込んだジャズに、雪菜は観念したように一つ息を吐いた。
結局、今更どれだけ文句を言ったとしても、この隙のない彼を説き伏せる事なんて無理に決まっている。
Thanks、と小さく雪菜が漏らせば、ジャズからは”Thank YOU for being my girl”なんて言葉さえ返ってくるのだから、敵うわけがない、と雪菜は改めてくるり、とジャズを振り返った。

「それで?今日はどんなステキなデートにしてくれるのかしら?」
「それはもう、最高のデートを我が姫に」

ワザとらしくお辞儀をして手を差し出したジャズの手に、雪菜がそっと手を重ねる。
そのまま手の甲にキスなんて落としたジャズに、雪菜は遂に堪えきれずに笑い声をあげた。





*****
thanks:ありがとう
Thank YOU for meting my girl :俺のほうこそ、彼女でいてくれてありがとう
的な。。ジャズは少し強引でも、スマートでステキなんです、という願望をぎゅっと詰め込んでみました。
地味に続きます。