拝啓、十七歳の俺へ。
先日のコミックシティに無配として持っていった「閃ミュネタぶっこんだ豆本」です。
そろそろいいかなと思ったので置いておきます。

――――――


 拝啓、十七歳の俺へ。

 おおよそ二年先の未来に、俺はいます。
 伝えたい事があるので、これを書きました。未来から手紙なんて、と思うかもしれませんが、どうか最後まで読んでください。

 青春を謳歌していますか。
 みんなと、かけがえのない、輝いている刻を過ごせていますか。
 後悔がないように、生きていますか。
 自分の道は、見付けられそうですか。

 楽しく充実した刻を過ごせば、等しく刻は奪われていきます。
 終わってほしくないと願ってしまっても、時間は止まったり増えたりはしません。
 一秒一秒が、何にも代え難い、宝石のようなものです。
 俺にとってトールズ士官学院は、宝石箱のような場所でもあったと、今になって思います。
 大好きで、大切な場所でした。

 力≠ェあっても、どうしても取りこぼしてしまうものもあります。だからせめて、守れるものは守ってください。
 俺は、大きな力を持っていても、まだまだ小さな一人の人間に過ぎません。出来ない事も、どうにもならない事も、たくさんあります。


 これを読んでいる俺≠ェ、俺と同じ道を歩むかは分かりません。
 ただ、真っ直ぐ前を向いて、まずは明日という未来≠ヨ踏み出してほしいと思っています。
 その小さな一歩が、輝く大きな未来へと繋がっているかもしれません。
 遠く、遠く先を見据える事も大事ですが、そこへ行く為には、目前にある明日という道を必ず通らなければならない。
 だからまずは、そこへ向かって歩き出して――そして、考えてください。

 それでは。


 ――リィン・シュバルツァー


 追伸
 そういえば、俺と同じなら、数日後に不思議な夢を見ると思います。見なかったら、この部分はなかった事にしてください。
 難しいかもしれないけど、その夢を、覚えておいてください。記憶に留めてください。

 今、自分がいる時間が、もっと大切に思えてくるはずです。


 ◆ ◆


 ――俺の記憶ではないけれど、俺≠フ夢を見た。

「さあ、死出の旅路へと向かいたまえ! トールズ士官学院――《Z組》の諸君!」

 鳴り響いた笛の音。それと同時に、俺の目の前にはどこか違っている′景が一気に広がった。
 骨の竜が、空虚な咆哮を上げる。あれは帝都ヘイムダルの地下で交戦した、ゾロ・アグルーガだろうか。
 見回せば、周りには《Z組》がいる。その中には俺≠煖盾ス。
 ――妙だ。ゾロ・アグルーガと交戦した時は、《Z組》は全員は居なかったはず。俺の記憶とは繋がらない、これは一体何なのだろう?
 それに、目前の存在は、記憶の中の同一の存在よりもはるかに強くて――

「さあ――君達には、この帝国をあるべき姿に戻す為の、尊い犠牲となってもらおう!」

 地響きは衝撃波と共に襲いかかり、吐き出される灼熱の炎は命を焼き尽くそうとする。
 強固な尾の一振りに当たってしまえば、軽々と体は吹き飛ばされて地や壁へと叩き付けられる。
 刃は弾かれ、銃弾は通らず、アーツも効果がない。
 暴れ回るそれに敵わず、次々と倒れていく《Z組》の面々。どうにか抗おうと立ち上がっても、得物を取り落としてその場に崩れ落ちてしまう。

『力もなく、この世の理も知らず、ただ声を上げればそれだけで何かが変わると思っている』
「……違うっ……」
『大いなる力の前には、青い理想も夢も、儚く散っていくだけ……貴方達もまた、忘れ去られ……消え去っていく存在――』
「ッ、違う――!」
「アリ、サ……?」

 振り絞った声で、アリサは叫んだ。何も知らない無知な子供だった自分が強くなれたのは、トールズ士官学院に入ったからだと。
 そして、《Z組》の皆と出会えたからだと。
「アリサ……やめろ……」
 得物を手にして、アリサは皆の前へと進み出る。
「リィン……貴方はいつも、誰かを庇ってばかり……私だって、貴方を守りたい!」
「駄目だっ、アリサ……逃げろ……!」
「逃げないわ……敵からも、自分自身からも!」
 アリサが弓を構えた直後、再び響き渡る笛の音。
 迫る業炎と、真っ直ぐにそれを見据えるアリサ。

「アリサ――――ッッ!!」

 決死の叫びと共に、俺≠ヘ駆ける。一番前で攻撃を受け続け傷だらけの体を張って、命懸けで守ろうとする。
 そのまま俺≠ヘアリサを突き飛ばして、庇うように攻撃を受けた。
 動きたくとも、俺は動く事を許されていないらしく、ただ傍観している事しか出来ない。目を覚ます事は出来ず、目の前で傷付けられている仲間を助けられないのだ。
 あまりの歯痒さに、拳を作りかけた――その時。

「…………ぐ、っう……あああああああッ!」

 突然満ちた、赤の気配。最後の気力を振り絞って振るわれていた太刀が、からんと落ちる虚しい音がした。
 胸元を押さえて苦しみ始めた俺≠ヘ、仲間の声も受け止められていないようだった。
 力に飲み込まれてしまう、という委員長。自分の痣もちくりと痛んだような気さえしてしまう。あれは、まさか。
「リィン!」
 そんな俺≠フ様子にハッとしたアリサは、顔を上げてふらつきながらも立ち上がる。
 苦しげな声を漏らし、呼吸を荒げながら力に抗う俺≠ヨと、彼女は傷口を押さえながら駆け寄った。
「リィン……貴方言ってたわよね、自分を見付けるんだ≠チて!」
 アリサが強く、強く倒れ込んだ俺≠抱き締める。力に飲み込まれそうな俺≠フ名を呼びながら、引き戻そうとするかのように。
 内側から痛みを伴って襲いかかっているであろう力と、燃え上がるかのような激情と、消し去られそうな自我――苦しむ俺≠ノ、アリサの声は届いているのだろうか。
「お願い……っ、自分に負けないで……! リィンッ!」
 アリサは俺≠ノ呼びかけ続ける。
 その声を聞いて、《Z組》の皆も体を起こした。きっと、自分自身と戦う俺≠ヨと、想いを届かせる為に。

「リィン……一人で、戦うな!」
「僕も……僕たちも、戦い抜くよ!」
「ええ……! 私達ならきっと、乗り越えられます!」
「我ら《Z組》に……風と、女神の導きを!」
「わたしも戦う……大切なものを、また失いたくないから!」
「ああ……仲間と鍛え上げたこの剣は、決して折れぬ!」
「貴族と平民という枠組みを超えた、僕たち《Z組》の力――見せてやろうじゃないか!」

 魔導杖を握り直して、エリオットと委員長が立ち上がる。
 ガイウスが槍を掲げて、力強く叫ぶ。
 フィーの言葉に応じるように、ラウラが大剣を持ち上げる。
 踏ん張り直したマキアスが、再びショットガンを手にする。
 ユーシスが剣を握り直して、風を切る。
「この俺が居る《Z組》が負ける事など――あり得んのだ!」
 胸に熱いものが流れ込んできて、視界が一瞬だけ揺らいでしまう。俺はただ、見ているだけだというのに。
 震えていた俺≠ヘ、ぴたりとその動きを止めた。そしてゆっくりと、顔を上げる。
 その目と、俺の視線が重なる。水面のように揺らめいたその向こうにあるものは、きっと、深く考えなくとも分かるものだ。
「……みんな……っ」
 応じる声は、震えていた。その頬を静かに伝うものを見て、自分の心に何かが落とされたのを、俺は確かに感じた。
 それは勿論俺≠燗ッじようで――その瞳に光を取り戻しつつ、取り落としていた太刀へと俺≠ヘ手を伸ばす。
 あたたかな光が、舞い降りる。それは《Z組》みんなを繋いで、強大な存在も打ち倒す力となる。
 結集した七色の想いが一つになって、暗闇に閉ざされかけた道を照らし出し――蒼焔が、立ち上がった俺≠フ太刀に宿る。
「滅びよッ――!」
 同時に振るわれた武器から放たれた力は暗黒を消し去り、骨の竜はその場に崩れ落ちて砂塵と化した。打ち倒す事に成功したのだろう。
 目を合わせて笑い合う《Z組》を見ていると、次第に、その光景が遠ざかってゆく。


 ――世界が白くなっていく。目が覚めるのか。


 一面の白となった世界の中、どこかへ歩いていく事もせず、その場にぼんやりと佇む。このまま何もしなくても、目は覚めるだろうと思ったからだ。
 まだ、心の中にあたたかなものがあるのを感じる。そっと胸元へ手を当ててみれば、自身のものともう一つ、名前の分からない何かが、そこで鼓動していた。

 未来からの手紙にあった不思議な夢≠ニは、あれの事なのだろうか?

 ふと思い出したあの手紙も、よくよく考えれば不思議なものだった。常識ではあり得なさそうな事だったが、悪戯だとはどうしても思えなかったのだ。
 それに、何故か、先程の夢を――――

「まさか、こんな形で会えるとは思ってなかったよ」 

 唐突に掛けられた声。
「――え?」
 振り返ってみると、そこにはいつも鏡で見ていた姿があった。
「初めまして……なんて言うのも、変だよな」
「君は……」
 どうして、そんな事をわざわざ尋ねてしまったのだろう。見れば分かる事だというのに。
「俺もリィン・シュバルツァー≠セ」
 頭を掻きながら俺≠ヘ、どこか照れ臭そうに笑ってみせた。つい同じ仕草をしそうになってしまって、苦笑する。
「なんというか……その。君は俺であって、俺じゃないんだな?」
「うーん……そうだな。説明が難しいけど……多分、そっち側ではやってない事も俺たちはやっているんだ。また違った形の――という感じだと思う」
「やってない事?」
 腕組みをして、考え込む俺=B
「例えば……戦いの合間に、アリサやみんなと歌ったり」
「戦いの合間に、歌?」
「あと、踊ったりもしているよ」
「踊る……?」
 想像がつかない言葉の数々に俺はどう反応していいのか分からず、脳内で思い浮かべようとしたその光景はどんどん広がっていく。
 そんな俺に気が付いた俺≠ヘ、小さく咳払いをした。
「とにかく、だ。俺は、俺のままで生きていくよ。続くか分からない世界だけどな」
「続くか分からない、って?」
「はは、深くは考えなくていいさ」
 そんな風に言われると、余計に気になるんだが――。
 俺が言葉を続けようとすると、肩に手を置かれる。
 正面から向けられた瞳。自分のものと同じはずなのに、そこにはまた違った輝きが秘められているようにも思えた。

「気張ってくれ、リィン・シュバルツァー。リィン≠ゥらの頼みだ。そっちの《Z組》やみんなが作った世界を、俺達も俺達なりのやり方で追いかける」

 自分と交わした握手の事を、そして、同じでありながらもどこか違っている暁の光を、目を覚ました後の俺は覚えていられるだろうか。
「はは……なんだか、変な感じだな」
「ああ、俺も同じ気持ちだよ」
 くるりと背を向けた俺≠ヘ、振り返りながら、手を振って笑った。


「また会えたら――その時は、きっと……」




――――――――


閃ミュで自分の中の何かが燃え上がったので、突貫工事で書きました。
あっさり塩味な感じの話になりましたが、出来たらいつかコンソメ味にしたいです。

「8p orihon」というサイト様の作成メーカーをお借りして作ったのですが、文字がヤバいくらいに小さくなってしまい……文字数はおかしくなかったんだけどな? おかしいな? と思いつつも置いておきましたが、ほとんどなくなりました。持って行ってくださった方々、ありがとうございました!

パソコンがなくともタブレットを駆使すれば作れる事が分かったので、良い収穫になりました。コンビニと通信環境があればスケブ代わりに出来る……かもしれない。いつも手書きで汚い字を晒しているので、ちょっとした救世主になってくれそうです。(機会が来るかは置いといて)

豆本作ってて楽しかったので、また機会があったらお世話になろうと思います。


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