テイルズオブゼルダリア
・いきなり最終決戦。
・ザビーダ=ナビィーダ。なのでちまい。
・ヘルダルフ=ガノンダルフ。適役。
・スレイ=時の導師。緑衣ではない。
・アリーシャ=ゼルダ姫ポジ。ゼルダのテーマ→アリーシャのテーマで変換。
・術技だいぶ盛ってる。
・漫画版準拠なんだけどあちこちスレアリ要素加えて付け足してます。
・時オカの話わからないと多分「?」。




 乾いた空気。一瞬で朽ち果てる草木。濁り、死の水が流れる川。各地を徘徊する、生ける屍。
 緋く染まった空は、ハイランド王国の終焉を告げようとしているのだろうか。黒雲が流れ生温い風が吹く空を裂くかのように、強大かつ巨大な獣の咆哮が響き渡る。
「ヘルダルフ……そんな、まだ……!」
 野望を打ち砕いた時の導師への憎しみが、宿した”力”を暴走させ、彼を人ならざる姿へと変貌させてゆく。
 流した血がそのまま流れ込んだかのような、深紅の瞳。本来の容姿からはかけ離れた、鋭利な牙と禍々しい二つの剣で獲物を狙う、その姿。
 ”化物”。そう言い表してもいいそれと対峙したスレイは、聖剣を握る手に力を籠めた。

 欲のままに、この世に災厄を齎した男ーーヘルダルフは、ハイランド姫君であるアリーシャを連れ去り、ラウドテブル王宮を己の居城としてスレイを待ち構えていた。自身が持つ”力”、アリーシャに宿っていた”知恵”、そしてスレイの左手の甲に刻まれた”勇気”。それらの紋章すべてを手に入れ、完全なる世界の支配者として君臨する為に。
「しつけぇ野郎だな。……スレイ! 俺様も戦うぜ」
 一度は打ち倒した。王宮を揺るがす激戦の末、満身創痍になりながらもスレイはヘルダルフを倒し、それが地に伏して動かなくなるのを確かに見たはずだった。
 だが、そこで終わってはくれなかったようだ。低く唸るヘルダルフを見て、ザビーダがペンデュラムをひゅん、と振る。先程は闇の波動に阻まれて近付く事さえ出来なかったが、今度はしっかりサポートしてみせるーー。頼もしい小さな相棒の言葉に、スレイは短く礼を言った。

「スレイッ!」

 隔てるように現れた炎の向こうで、アリーシャが声を上げる。隙を見せてはいけないからと彼は振り返らなかったが、彼女がどんな表情をしているかはすぐに分かった。
「アリーシャ! 大丈夫。信じて待ってて!」
 その言葉が強がりだという事は、彼自身が一番分かっていた。気を抜けば周囲に満ちる穢れに飲まれてしまいそうで、身体中に痛みを与えてくる傷の数々も、決して無視できるようなものではない。

 それでも、負けるわけにはいかない。きっと不安気な面持ちを浮かべているアリーシャを、笑顔にしてあげる為に。影で支えてくれていた彼女を、助ける為に。

 目を閉じ、スレイは息を吐く。手にした聖剣からは光が迸る。
「……行くぞ! ヘルダルフ!」
 そう言い切り、駆け出したスレイ。二つの剣を携えたヘルダルフは彼を迎撃すべく、鈍い光を放つそれを構え直す。
「正面から力で押し合おうと思うな! どこかに弱点があるはずだぜ」
 スレイとヘルダルフでは、あまりに体格差がありすぎる。まともに正面からやり合えば、スレイが押し負けて吹き飛ばされる可能性は十分にあった。力の暴走に飲まれたヘルダルフが持つ攻撃の威力は、おそらく、スレイのそれを遥かに上回っている。
 浄化の聖剣は折れる事はなくとも、その時に取り落としてしまうかもしれない。ザビーダはそう危惧して、駆けるスレイに助言をした。
「分かった!」
 応えながら、スレイは振り下ろされる刃を横に飛んで避ける。地を裂く一撃。受けてしまえば命はない。
 受け止めるんじゃない、受け流さないとーー。亀裂が走った地面を一瞥して水流を纏った斬撃を繰り出すも、幅広の刃に防がれる。甲高い音。弾かれた腕に走る微かな痺れ。反動を利用して距離を取れば、即座に放たれた炎が追撃するように地を這ってくる。
「冷気よ、砕けろ!」
 スレイは青白い光を宿した聖剣で炎を斬る。現れる氷。一瞬で溶かされたそれは水溜りを作り出し、ヘルダルフの炎がスレイより後ろへ行くのを防いだ。
 ちりりと身を僅かに焦がした炎を払って、スレイは左腕を抑えた。ただの炎ではなかったようで、動かす度に激痛が走る。おそらく、全身に受ければ動けなくなるだろう。
 歯を食い縛り、右手に聖剣を持ち替え、ヘルダルフを見据えるスレイ。深紅の瞳を更に憎しみに染めるヘルダルフ。二発目を放とうと、刃を振り上げる。

「よそ見してていいのか? 俺様も忘れちゃ困るぜ」

「!」
 ペンデュラムを振り、ザビーダが光球を飛ばす。小さい故に威力は心許ないが、注意を引き付けるのには十分だ。彼の思惑通りヘルダルフはザビーダへと視線を向け剣を振るうが、ひらりと巧みに避けられてしまう。
 今のうちだ。スレイが再び地を蹴り、ヘルダルフへ迫る。それに気付いたザビーダが風の槍を放ち、ヘルダルフの視線を誘導した。
「スレイ!」
「ああ!」
 素早く背後へ回り込み、腕を狙い斬りつける。せめて一つでも得物が減らせればーーそう思っての攻撃だったが、予想以上に分厚くなっていたヘルダルフの皮膚は聖剣でさえも通さない。弾かれはしなかったものの、傷は浅く、その腕はしっかりと柄を握って離しそうにない。ダメか、と、突き付けられた剣を体を捻って回避する。
 体勢を立て直し、スレイは聖剣を軽く振った。ならば次だ。ヘルダルフが完全にこちらを向く前に、弱点となりそうな箇所をーー。

『ス……レイ……』

 地獄の底から呼ぶような、ヘルダルフのおぞましい声。ぞわり、と背筋が粟立つような感覚に陥るがすぐにそれを振り払い、スレイはザビーダに襲いかかろうとしていた長い尾を地面へ縫い止めるように刃を突き刺した。
 ヘルダルフの動きが一瞬、止まる。ペンデュラムをぶつけたザビーダがすかさず叫ぶ。
「間違いねえ。そこが弱点だ!」
 深い傷を与えれば弱るはずだと、彼は言う。勝機が見えた気がした。
 よし、いけるーー光明を掴みかけた、そう思った瞬間。

『おのれ、ス……レ……イ!!』

「これは……!?」
 そこから噴出したのは、血ではなく濃い穢れだった。黒と紫が混じり合った、毒々しい色の煙。ヘルダルフの内部で蓄積した負の念が、スレイに傷付けられた事によって噴出してしまったようだ。
 避けきれず、禍々しい気そのものを直に浴びてしまい、スレイは思わずその場に膝をつく。体から力が一気に抜けてしまったかのようだった。負けじと光を放つ聖剣を握る手からも、握力が奪われてゆく。
「穢れを溜めてやがったか……! スレイ、逃げろ!」
 ザビーダの叫びも虚しく、ヘルダルフの剣がどうにか立ち上がろうとするスレイへと振るわれる。
 鈍い音と共に刃を受け止めるが、スレイにとって何もかもが不利だ。死の予感が近寄るのを感じながらも、彼は脱力し震える手で聖剣を握り続ける。
「っ! こんなところで、終われなーー」
『……消し去ってやろう……!』
「うわぁっ!」
 ヘルダルフはもう片方の剣もぶつけ、闇を纏った一撃を放つ。きん、という弾かれる音がして、スレイの聖剣が空を舞った。遅れて吹き飛ばされた彼の体は少し離れた場所へ叩き付けられ、地に伏したスレイはぴくりとも動かない。
「ス、スレイ!」
 スレイへと歩み寄るヘルダルフ。
「くそっ、起きろスレイ! ヘルダルフが来るぞ!」
 ザビーダが気を逸らそうとしても、その目はスレイから外される事はない。
 彼にあの幅広の剣が突き立てられてしまえば、すべてが終わりだ。過った最悪の結末を振り払い、アリーシャはすぐ近くに突き刺さった聖剣を引き抜いた。
 燃え盛る炎から少し距離を取る。もう突っ切るしかない。息を吸って、全力で走り出す。
「……私がやらなければっ!」
 着ている王家の服が焦げようと、姫だから大切にしろと言われてきた身が傷付こうと構わなかった。
 アリーシャは炎の中へ、勢いよく身を投じる。一瞬の灼熱。焼けるような痛みに表情を歪めるも、次の瞬間には通り抜け反対側へ出ていた。
 投げ出された体を起こして顔を上げれば、ヘルダルフはもうスレイのすぐそばまで来ている。

「スレイ、聖剣を!!」

 精一杯の力で、持ってきた聖剣を彼の前へ放り投げる。弧を描いて地を滑った聖剣は、倒れるスレイの目の前でぴたりと止まった。
 ちょうど手元に届いて安堵したのも束の間、アリーシャに気付いたヘルダルフがぎろりと彼女を睨み付ける。
「……!」
 深紅に自分が映され、アリーシャはぎゅっと胸元を握った。
 標的が自分へと変わり、スレイが目を覚ますまでの時間が稼げれば、たとえ自分が死のうとハイランドの未来は守れるかもしれない。この場でヘルダルフに太刀打ち出来るのはスレイしかいないのだから。

 それに、巻き込んでしまった彼への、せめてもの。

 刃が振り上げられる。避け切れるだろうか、万が一当たってしまっても立ち上がれるだろうか。長引いた場合を想定して、何か武器を持って来ればよかったと悔いる。
 拳を握って、アリーシャがヘルダルフと対峙したーーその時だった。

「ヘル……ダルフ。……間違えるな」

 小さいけれど、確かにアリーシャの耳に届いた声。はっとして彼女がその方向を見れば、聖剣を手にして立ち上がったスレイが、口元の血を拭ってそれを一旦鞘へと収めた。
「お前の相手は……この、オレだ!」
 力を振り絞って駆け出したスレイは、刃が振り下ろされようとしていたアリーシャを横抱きにしてその場から離れる。抉れた地面を飛び越すように回避し、そっと岩の近くに彼女を降ろして、聖剣を抜きヘルダルフの方を見遣った。
「ありがとう、アリーシャ。聖剣を届けてくれて……」
「スレイ……!」
 少しだけ振り向きながら、スレイはアリーシャへ笑いかける。彼女を安心させたい、その一心で。
「ここで待ってて。もう……オレは倒れないから」
 こくりとアリーシャが頷いて、スレイも応じるように頷き返す。これ以上の言葉は不要だった。互いに言いたい事はきっと、同じだったからだ。
 翠に宿る静かなる闘志。ひゅん、と、聖剣が風を切る音。聖剣を構え直して駆け、大きく跳躍したスレイはヘルダルフの前に降り立ち、再び対峙する。
 スレイの横に、必死で時間を稼いでくれていたザビーダが飛んでくる。
「ごめん!」
「ったく、心配させやがって。ハエみたいに潰されるところだったぜ」
 身体が小さいザビーダは、一撃でも受けてしまえば致命傷になりかねない。持ち前の俊敏さを生かして回避出来ていたが、万が一当たってしまっていたらーーと考えかけて、スレイは頭を振る。過ぎた事だ。考えても何の意味もない。”今”自分がいるのは、”現在”なのだから。
 スレイが聖剣を掲げる。
 呼応するかのように発光した刀身が、青白い雷を纏った。



 何度、アリーシャは目を瞑りかけただろう。
 何度、スレイはふらつきながらも踏ん張って立ち向かっただろう。
 吹き飛ばし、吹き飛ばされ、岩を砕き、地を抉り、雷が舞い、炎が這いーー。二度目の戦いが始まった時よりも随分と凹凸が多くなった地面は、あちこちに焦げ跡が残り、導師と災禍の顕主の戦いの激しさを伝えている。
「まだ、まだっ……!」」
 ヘルダルフによって岩に叩き付けられたスレイが、刃から逃れるようにどうにか転がって立ち上がる。直後に繰り出された一撃は、ヘルダルフの片方の腕からとうとう剣を弾き飛ばした。
 翻る白い外套。時の導師を象徴するもの。土埃と深紅で汚れてしまっていても、それは誇り高き”勇者”である証だ。
 繰り返される剣と剣の激突。終わりのない、永遠のもののようにも思える戦い。攻撃を受けた衝撃で意識を飛ばしかけた時、スレイは外套を強く握って、それを保っていた。
 その導師の外套は、アリーシャから貰ったものだ。共に戦えずとも、アリーシャは確かに、彼の支えになっていたのだ。
 息を吐いて、顔を上げるスレイ。

「……終わらせる!」
 
 より強力な雷を纏った聖剣が、空を覆う暗雲を斬り裂けそうなほどに眩い光を放つ。
 駆け出すスレイ。打ち付けて見えなくなってしまった右目を瞑り、襲いくる炎を飛んでかわし、隙が生まれたヘルダルフの懐へと飛び込んだ。
「剣よ吼えろーー」
 雷と共に斬り付け、振り抜いた聖剣をそのまま返してもう一度斬る。頬に付く深紅。これで終わらせるーー否、終わらせなければいけない。
 すべての力を集中させ、スレイは雷そのもので生成されたかのような刃を手にする。
「雷迅、双豹牙!」
 下から上へ、一直線に。
 飛び上がりながらの斬撃は浄化の炎を伴いながら、災禍の顕主を青き軌跡で一刀両断した。




ーーーーーーーーーーーーーー




 雲間から差し込んだ陽光が、ハイランドの大地を明るく照らし出す。
「ようやく終わったんだね……」
「ありがとう……スレイ。ヘルダルフは、闇の世界に封印されたよ」
 スレイが各地で目覚めさせた賢者たちの力で、ヘルダルフは別の世界ーー闇が支配する、底のない深淵のような場所へと飛ばされ封印されたという。
 聖剣を鞘に戻して、スレイは青空へと左手を伸ばす。その先を白い鳥が滑るように飛んで行ったのを見て、ほっとしたように表情を緩めた。アリーシャはそんな彼の様子を見て安心しながらも、弱々しい力で自身の服を握る。

『スレイ……聖剣が言っている。君に今、最高の力を。そして、災禍の顕主にとどめをさせ、と……』

 動けなくなったヘルダルフへ止めを刺す際、スレイはほんの一瞬だけ戸惑いを見せた。ヘルダルフの瞳を見て、何か思う事があったのだろうか。世界を混乱に陥れた存在とはいえ、どこまでも心優しい彼にとって、止めとして剣を突き立てなければならないのは辛い事だったのかもしれない。
「これからハイランドの再建だね、オレ、協力するよ」
 荒れ果ててしまった城を修復し、人々が元の暮らしに戻れるよう住居を建て直し、未来へ続いていくように穢れのないハイランドを守っていかなければならない。
 何からやればいいかな、とスレイがアリーシャへ問うが、彼女は僅かに俯いてしまう。
「ハイランドが再び平和な時を刻み始めるとき……それが……私たちの別れのときでもあるんだ」
「!」
「私はヘルダルフに紋章が奪われる前に聖地を制御しようとした。だが、それはとても愚かな事だったんだ。その結果紋章はヘルダルフの手に渡り、そして君までこの争いに巻き込んでしまった」
 スレイはただ、アリーシャが言葉を続けるのを待つしか出来なかった。
「争いが去った今、私は七人目の賢者として、聖剣を眠りにつかせ……”時の扉”を閉ざさねばならない。けど……そのとき、時を旅する道も閉ざされてしまうんだ」
 彼は聞いているうちに彼女が言いたい事がなんとなく分かって来たが、言葉が詰まって発せない。
 握っていた手を開き、アリーシャがスレイへとそれを伸ばす。
「スレイ、オカリナを私に……。今の私ならば、時のオカリナで君を元の時代に帰してあげられる」
「元の時代……」
 時の扉を再び通り、七年前へ、帰る。それはつまり、この時代から”スレイ”がいなくなるという事だ。
 思わず、スレイが半歩詰め寄る。先ほどのアリーシャの言葉に対しての否定を、滲ませながら。
「ちょっと……待ってアリーシャ! オレは何も巻き込まれて戦って来たわけじゃない」
 導師の外套を握り締めて、スレイは言う。
「オレが戦ったのは、アリーシャ、君を……」
 敵の懐に潜り込んで、スレイを支えてくれていたのはーーやっと会えたのに離れてしまって、助けようと魔城へと突入し、激闘の末に掴んだその手は、誰のものか。考えずとも分かっている。
 だからこそ、今ここにいる”アリーシャ”を助けたいと、スレイは思っていたのに。
「……」
「……」
 ザビーダが頭の後ろで腕を組んで、背を向ける。彼は初めから分かっていた。スレイが時の扉を通り、七年前から姿を消し、訪れた未来でアリーシャと出会った時点で、薄っすらと。
 故に何も言わず、沈黙を保つ二人には介入しようとしなかった。
「私は……父の跡をついで、ハイランドを統治していくよ」
 ぽたり。と地面に一滴、透明な何かが零れ落ちる。
「スレイ、いつまでもこの国の……平和を……」
 別れたくはない。別れたくは、ないのだ。それは二人とも同じだったが、決して、口には出さない。
 スレイが七年前へ戻らなければ、きっとまた、繰り返してしまうから。止められるはずの悲劇がまた、ハイランドを襲ってしまうから。
 救えるものは救わなければならない。止められるものは、止めなければならない。戻せるものは、戻さなければならない。

「さあ、帰るんだ。君がいるべき場所へ、君があるべき姿で……」

 アリーシャの涙を見て、スレイはそれ以上何も言えなかった。
 ぐ、と拳を握る。それをそっと胸に当てて、誓いを立てる騎士のように、アリーシャの前に跪く。
「オレは時の導師。いつどこにいても……ハイランドのため、アリーシャのために、戦うから」
「……」
 阻止を望んだ彼女のために、七年前へ戻っても戦う、と。どれだけ遠く離れていても、越えられない壁で隔てられようと、目の前にいる”アリーシャ”のためにもーーそう誓って、スレイは立ち上がる。
 手渡されたオカリナ。添えられたアリーシャの手を、スレイが握る。寂しさが隠しきれていない顔で、彼は笑ってみせた。
 
「ありがとう……スレイ」

 アリーシャによって奏でられる、王家に伝わる優しい旋律。空色の光の中、ふわりと浮き上がったスレイの体は、時の扉へ吸い込まれるようにして消えていった。
 遠くなる未来の世界。確かに存在した”可能性”の、その一つ。込み上げた寂寥感を押し込んで、スレイは光の中を飛んで行く。
 
「スレイ……もう立派な導師なんだよな。俺様、安心して森に帰れるわ。……スレイとの旅、悪くなかったぜ」

 あるべき世界へ着く寸前に聞こえたザビーダの言葉は、いつものように冗談などではなかった。
 静寂だけの神殿。聖剣の間。そこへと降り立ったスレイは辺りを見回すも、どこにもザビーダの姿は見当たらない。”導師のサポート役”という役目を終え、言った通り、森に戻ってしまったのだろう。

 一歩踏み出せば、彼の足音だけが反響する。一回り以上小さくなった体は、”十歳のスレイ”へと戻った事を告げていた。
 台座へと戻された聖剣を見上げる。何度も激戦を潜り抜けたというのに、その刀身には錆や傷一つついていない。天窓から差し込む光に反射して、聖なる剣は穏やかに眠っているようにも見えた。
「…………」
 踵を返して、スレイが神殿の扉を静かに開く。
 吹き込んだ風が、出迎えるかのように彼の羽根飾りを揺らしていった。








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Q ヘルダルフ戦終盤、ナビーダさんいなくね?
A ヘイ! リスン!

Q 導師の服、戻ったならぶかぶかだよね?
A 縮みました。



明日お誕生日の某方へ。
お粗末様でした。

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