みんなの父
 王の盾。それは、フォルス能力者の集団。大半がガジュマによって構成されている。
四星。その中でも秀でた四人の事を指す。四人中、ガジュマが二人、ハーフが一人、そして、ヒューマが一人。その実力は計り知れない。
「……」
 脳内の情報を整理して、ヴェイグは深い溜め息をつく。カレギア城に突入すれば、これら全てに立ち向かわなければならなくなる、という事だ。
 特に四星。個々が強力な技を使って来るのに、四人一度に相手にしたらどうなるのか。確かに、スールズで何も出来ずクレアを攫われた時と今の自分は、違う。仲間も居る。けど、相手の実力は未知数だ。油断は出来ない。
「ヴェイグ」
 ベッドに腰掛け槍を研いでいたユージーンが、顔を上げる。同時に、槍の先端が鈍く光った。よく研がれている。
「……何だ?」
「城に突入した後は、おそらく……いや、間違いなく戦いの連続だ」
 出来れば見つかりたくはないが、城を警備・巡回する兵の数からして、穏便に事を進められるはずがない――彼はそう付け足した。そこまで聞いて、ヴェイグはユージーンが言いたい事を察したが、何も言わず黙っていた。それを、ユージーンの方も察したらしい。
「ケケット街道で、俺が言った事を覚えているな? ……クレアさんが心配なのも、一刻も早く、彼女を助け出したいのもわかる」
「……」
「だが、万が一サレ達と鉢合わせして戦いになった時に倒れてしまったら、それは叶わなくなる」
 港を出て、バルカへ辿り着くまでの間に何度剣を振るった事か。ヴェイグだけでなく、全員その疲れは抜けきっていない。
 ユージーンの言うとおり、本当は今すぐにでも城へ突入したい。クレアを解放してやりたい。けど、無茶をすれば、己自身を傷付けるばかりか、仲間達にさえ迷惑を掛けてしまう。サレ達の無慈悲な力の前に、ねじ伏せられてしまう可能性だってある。
「……わかっている」
 ヴェイグは無意識に視線を向けていたカレギア城から目を逸らし、宿屋のベッドに潜り込んだ。


「おれ思ったんだけどさ」
「ん?」
「なんかユージーンって父親みたいだよな、みんなの」
 こんな時に言うのもなんだけどよ。
 そう言って、ティトレイは隣のベッドの上で頭から布団にくるまっているヴェイグを見た。らしくないのに加えて、時々もぞもぞと布団の塊が動いているのが妙におかしくてちょっとだけ悪戯してみたくなったが、今はそっとしておく事にした。――大切なヒトが心配で心が逸って眠れないのが、ティトレイには痛いほどよくわかるからだ。
 寝なくていいのか、そうユージーンが問うと、みんなが買い出し行ってる間にたっぷり寝たから平気平気、とティトレイが返す。
「父親? 俺が?」
「マオを見る目なんて、まさに父親のそれだと思うぜ」
「……父親、か……」
 ユージーンの猫に似た耳が、僅かに下がる。ティトレイはすぐに、しまった、と内心で思った。アニーとの事があるのに迂闊だった。
「す、すまねえ、ユージーン」
「? ティトレイが謝る理由は無いだろう」
「え……違うのか?」
「おまえがどう思ったのかはわからんが……。……マオにもきっと、本当の親が居る」
 どうやら、僅かに落ち込んだのはバースの事を思い出したからではないらしい。また余計な事を言ってしまってはいけないなと、ティトレイは口を閉ざし、ユージーンの言葉の続きを待つ。
「いつか、俺と別れる日が来るかもしれん。それが少し、寂しいと思ってしまってな」
「……そう思うのは、マオの事、本当の子供みたいに思ってるからだぜ」
「そう、だろうな……。否定はしない」
 先ほどまでヴェイグが目を向けていたカレギア城を一瞥して、ユージーンはベッドの横のランプを消した。つまり、そろそろ寝ろ、という合図だ。
 もちろん、そう言いたい相手はティトレイ一人ではない。
「起きているのはわかってるぞ、マオ」
「……き……」
「マオ?」
 体を起こして、ユージーンを見上げるマオ。何か言ったが、小さすぎて聞き取れない。
 ユージーンが彼のベッドの横に屈んだ瞬間、マオはユージーンに思い切り飛び付いた。
「ボクもユージーンの事、お父さんみたいだって思ってるヨ! ユージーン、大好き!」
「こら、マオ。もう夜中だから静かにするんだ」
 そう言いつつも満更でもなさそうなユージーンを見て、親子って良いよな、と呟きながら、ティトレイは端っこのベッドの布団の塊を突っついた。
 しばらくして、布団の中から声がする。
「……そうだな」
「やっぱり起きてたのか」




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