03

「これくらいふつうだよ!」
「いや、短い」
「似合うって言ったじゃん!」
「似合うのとスカートが短いのは別」
 じろじろと足を見られて、なんだか居心地が悪くなる。その視線を振り払うように、パスケースを手早く取り出し改札に向かって歩きだす。
「亜衣」
 名前を呼びこそすれ追いかけてはこない秋吉に、一抹のさみしさが胸を突いて、名残惜しく身体ごと振り返って手を振った。
「またね!」
「おう」
「ちゃんと、電話とかしてね!」
「亜衣もな」
「……またね!」
「さっき聞いた」
 苦笑する秋吉に、私は更に言葉を探す。
「えっと、ええっと、浮気したら駄目だよ!」
「それもさっき聞いた」
 たしかに、言った。けれど、ほかにかける言葉が見つからなくて、どうしよう、ともじもじして秋吉を見つめる。
「亜衣も、浮気すんなよ」
「しないよ」
「どうだかな。さっき変な奴にくっつかれてただろ」
 青井氏のことか。
「やきもち?」
「……そんなんじゃない」
 にやにやと緩む頬を抑えて秋吉の顔色をうかがうと、不機嫌そうに一蹴された。ふふ、けっこう可愛げもある秋吉が好きだ。
 そのまま立ち尽くしていると、電車が到着したのか人がぱらぱらと階段を下りてきた。あまり乗降人数が多い駅ではないみたいだけれど、改札を通る人たちがちらりと私たちを見ては逸らしていく。そのまま、また人がいなくなってしまい、私はまだここにいられるように適切な言葉を探していた。
 私の別れがたい気持ちを察したのだろう、秋吉の顔がだんだんと意地悪そうに緩んでくる。少し離れた場所で、お互いに立ち尽くしながら、私はこの距離のままでいいのでせめてもうちょっと一緒にいたくて、なにか伝えることはないかと頭を絞る。脳みそがつるつるになりそうなくらいに考えて、そして、もうなにもない、と思って秋吉から身体は逸らさないまま一歩後ずさる。高いヒールが地面を擦って、さみしげな音を立てた。
「じゃ、じゃあね……」
 仕方ないのだ、父にさっき「今から行く」と言ってしまったし、私にはあんな展開はまだ早い。けれど秋吉は来週には寮に戻ってしまって、そうすると簡単には会えなくなってしまう。門限があるし、私の住む町から学園のある町までは遠いし。だから、たしかに秋吉が言うように今日の父との約束を破るのが賢いのかもしれない。
 そういう葛藤をきっと秋吉は全部分かっていて、それで、ふわりと新芽が綻びるように鮮やかな笑みを浮かべて私の名前を呼んだ。
「亜衣」
「……」
「おいで」
 そんなふうに優しい顔で、やわらかい声で、両腕を広げられてしまったら。
 私には拒否する手段も理由も権利も、なにもないのだ。

「父さんごめんね、やっぱりスイーツ食べ放題行けなくなった」


END-20160229 eco miyasaki

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