04

「俺は……たしかに、なに考えてるのか分からないってよく言われるけど……。けっこう亜衣に対しては頑張ったつもりだったんだけど。姉ちゃんの買い物付き合わされても一緒に店なんか入らないし、荷物持ちするだけだし、あんな、恋人っぽいことしねえし……。俺だって、初めてだったんだからな、女の服選んで似合うとか似合わないとか喋るの。ついでに言うと亜衣はあのワンピースすげえ似合ってたし、可愛かったし、てか今日それ着てくんのちょっと反則だし、それで、なんかお前が俺の門限気にしてさみしそうにしてるのとか見たらついキスだってしたくなるし…………分かるだろ?」
 分かるだろ、というその言葉が何を示しているのか、理解できないほど馬鹿ではないはずなのだが、まるで納得はできない。だって肝心な言葉がない。
 言わなくても伝わるとか思っているならその考えは改めるべきだ。私は自分が優柔不断なわりに言葉が欲しいタイプの人間だ。
「ちゃんと言って」
 やっとのことでそれだけ言葉を絞り出す。勘違いして悶々とするのは嫌だし、それに確証は持てないし、なによりそういう曖昧なかたちで切り抜けようとされているのが腹が立つ。秋吉は、ぎくりと表情をこわばらせた。
「…………だから、その……」
 うろ、と視線をさまよわせ、彼は所在なく私の腕を掴んでいないほうの拳を握ったり開いたりした。それから、諦めたように浅く息をついて、目を少し伏せ気味にした。
「俺は亜衣が好きだよ」
 細長い睫毛が震えて、視線が重なる。拗ねたこどものような顔をした彼が、不機嫌そうに呟いた。
「痴女に告るなんて正気の沙汰じゃねえ……」
「……いやだ?」
 唇を尖らせて、ふいと視線を逸らされる。その横顔、目尻が少しだけ赤く染まっているのを見て、私はようやくわずかばかり安心する。ほっとしてまばたきをしたら、瞳に表面張力でへばりついていた涙がぼろりと数滴落ちた。
「なんで泣くんだよ!」
 慌てふためいて秋吉はおどおどと私の剥き出しの肩に触れた。夏の蒸し暑い時期なのにひんやりとした指は心地よくて、それでいて心臓が高鳴って、どうしたらいいのか分からずに戸惑って、手首を握りしめた。細いけれど、それでも私よりはずっと太くて私の指は回りきらない。指は冷たいのに、手首は少しあたたかい。
 それからしばらく、彼は私の涙が落ち着くのを待っていてくれた。鼻が緩んで鼻水が出そうになったのを必死でハンカチで押さえる。まぶたを痙攣させて涙をこらえようとすればするほど、雫は落ちていく。
「なあ……亜衣はどうなの」
 ややあって、秋吉がそう問いかける。私に手首を握られたままの彼の指が今度は首筋を這って、それから頬に伝う涙を拭う。くすぐったくて口元を緩めると、下唇に親指をかけられた。
「どうなの」
「……」
 もう一度、そう問われて、けれど彼は私の答えを待たずに顔を近づけてきた。目を閉じてそれを待ち受けながら、私は吐息のように小さく、ささめいて告げた。その音はたぶん、彼の口に吸いこまれてしまったけれど。
「すき」

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