02

「なんか今日、可愛いね? 休みの日っていつも化粧してるの?」
「そうだね」
 嘘だ。今日は秋吉とデートだったので気合いを入れたまでで、普段はこんなにがんばらない。こんなに高いヒールのある靴なんてそうそう履かないし、メイクだってこの間秋吉と放課後デートのときに友達に教えてもらったのがほぼ初めてだ。
 しかしそんなことを青井氏に言っても仕方ない。それに、秋吉のため、とがんばったことが裏切られてしまった今そんなことを言うのは惨めこの上ないのだ。
「ジェラート食べたくない?」
 駅ビルを入ってすぐのジェラート屋の前で、青井氏が足を止める。じっと看板を睨みつけるように見つめる。暑いし食べたいのはやまやまだが、とてもそんな気分になれない。そもそも私はなにがしたいのだろう。今頃秋吉は私を探しているかもしれないし、なんだあいつ、と思って帰ってしまったかも分からないけれど、どちらにせよ秋吉を放ってこんなところでほかの人とのんきにアイスを食べている場合ではないような気がする。
 走っていた息も整ってきて、やや冷静になってくると、どんどん秋吉のことが気になってくる。私はいったいなにをしているのだろう。
 俯いて秋吉と、彼と仲良く話していた様子の先輩の顔を思い浮かべる。私のこの行動に呆れて、彼らは彼らで歩き出しているかもしれない。
「ジェラート食べる」
 青井氏がぱっと笑顔になって、何味にしようか、と物色しだす。私は正直何味でもよくて、ただし抹茶味のお菓子が苦手なのでそれだけは避けようと思いケースの中を覗き込む。きれいな色のジェラートがところ狭しと並んでいて、とてもつまらない気持ちになる。
 ほんとうなら秋吉とここでジェラートを食べていたかもしれなかった。
 携帯を見ると、秋吉からの着信が三件入っていて、一気に現実に帰ってきた。
「……やっぱり、私、帰る」
「え?」
 カップを注文しようとしていた青井氏が声を上げた。私のほうを振り返るその顔は驚きと混乱に彩られている。
 携帯を握りしめて泣き出しそうになっている私はたぶん、滑稽に映るのだろうな。青井氏が戸惑うように眉をひそめた。
「どうしたの? なんか、泣きそうな顔してるけど……」
「……帰る」
「なんで?」
「青井くんと遊んでも、おもしろくないと思う」
 我ながらひどい言い方だとは思うけれど、こんな気持ちのまま遊んだって私も楽しくないし、青井氏だってつまらないだろう。鼻白んだ青井氏に背を向けて歩き出す。今日はもう、秋吉にも会わずに帰ろう。それでそのあとどうするかなんてまるで考えていないけれど、とりあえず兄に愚痴を聞いてもらう。すべてはそのあと考えよう。
「吉瀬さん」
 青井氏が追ってくる。それを無視して駅前に戻ると、秋吉の姿も、先輩の姿も消えていた。安心とむなしさが襲う。
「吉瀬さん!」
 腕を力強く掴まれて、身動きが取れなくなる。そのままそこですったもんだを演じていると。
「亜衣!」
 反射的に声のしたほうを振り返ると、秋吉が息を切らして立っていた。もしかして私をずっと探していたんだろうか、と思ったあとで、はっとして彼を睨みつける。そうしないと泣き出してしまいそうだったのだ。みっともなく潤んだ目を見て、秋吉はなにを思ったのか、私の腕を掴む青井氏の腕を掴んだ。
「こいつになんか用」
「あんた誰だよ」
 なんでこんな人通りの多い駅前で微妙な三角関係を演じなければならないのだ。そう頭の冷静な部分がため息をつくも、私の頭は次に秋吉が紡ぐのだろう言葉が気になってしかたなかった。あんた、誰だよ。それに対する答えが気になった。

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