06

「……かまかけただけなんだけど、お前彼氏いたんだな」
「失礼じゃない?」
 一応私にだって、彼氏くらいいたのだ。
「さらに言うと、現在進行形で私のこと好きって言ってくれる人だっているからね!」
「ふうん」
 嘘じゃない。見栄でもない。共学に移ってから、ちゃっかり告白されているのだ、私だって隅に置けない女なのだ。
「痴女に告るってどんな猛者だよ」
「ひどい!」
 こうして言い争いをしていると、どんどん望みが薄くなってくる。秋吉はどうせ私のほうを振り向いてなどくれないのだ、どうせ今頃、副会長室を根城に男の子を連れ込んでいろいろなんだかんだやりたい放題なのだ。
「そうだ、亜衣は思い出したくないかもしれないけど」
「え?」
 秋吉がふと歩みを止めて、真剣な顔をして私のほうを見た。思い出したくない、という言葉に、不意にとある人の顔が頭に浮かんだ。
「寮長な」
「……」
 やはり、だ。危ない目に遭ったこともあり、たしかに思い出したくないことではある。ふたりでショッピングモール内のスツールに腰かけて、秋吉は私の顔を見ないまま続けた。
「比呂がえぐい復讐しといたから、安心しろ」
「……えぐい復讐……」
「知らないほうが幸せだと思う」
 苦笑いして、そのえぐい復讐とやらを思い出しているのか、秋吉が口角を引きつらせる。秋吉には悪いが、だいたい想像はつく。
「どうせ寮長にえげつない仕打ちをしたんでしょ?」
「まあ、その……たぶんいろんな意味でしばらく再起不能だと思う」
 中学生、まだ彼が日本にいた頃私がこっぴどくふられたことがある。そのときも兄は相手にえげつない報復をしたのだ。筋金入りのシスコンである。ちなみに私はと言えば、兄が誰かにこっぴどくふられようが、彼女との初体験に失敗しようが鼻で笑っていたタイプなので、釣り合いは取れてはいない。けれど彼がそれで納得しているならいいのだ。
 そのまま、そこで座ったまま世間話をする。主に兄の素行の悪さについての悪口で盛り上がっていると、不意に秋吉が言った。
「そういえば、告白されたってマジ?」
「そうだよ! 私だって隅に置けないんだよ!」
「ふうん……まあ、黙ってればそこそこ可愛いもんな」
 にやり、と笑ってからかうようにそう言うもので、私は思わず頬に手をやった。黙っていれば、とはどういうことかと思うものの、可愛いと言われたのは事実だ。
「可愛いと思う?」
「思う思う」
 なんとなく適当でぞんざいな扱いを感じるが、まあいいとしよう。
「ほかに店見なくていいの?」
「あ、うん、見たい」
 立ち上がり、秋吉は辺りを見回して店を物色している。
「好きな店とか……」
「あそこ!」
 またも、少女趣味な可愛いお店を指差す。秋吉は軽く眉を上げて、頷いた。
 店で服を見ながら、ちらりと彼の表情をうかがう。つまらないわけではないと思うけれど、決して面白くもないのだろうこんな店でいいのだろうか。
「あの、秋吉は服見なくていいの?」
「え? ああ、俺は今日はいいよ」
「そう……?」
 可愛いカットソーを広げて見つめながら、秋吉が呟いた。

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