04

「仕方ないだろ。勘弁しろよ」
 エスカレーターで、私を先に乗せた秋吉と、ちょうど視線が重なる。はたいたチークのせいだけじゃなく、きっと私の顔は赤い。
「……あのさ、比呂、ちゃんとやってる?」
「うん、だいたいうまくやってると思うよ」
「薫と、仲良くできてる?」
「なんで?」
「私、秋吉とはこうして連絡取ったりできるけど、たぶん薫とはもう会えないから、ちょっと心配」
 兄を介して会えたとしても、初対面のふりしかできないんだろうな。そう思うと、ちょっとだけさみしい。そう伝えると、彼は少しむっとしたような顔つきになった。
「会いたいの?」
「そりゃ、まあ、会いたいよ」
「あ、そ」
「……?」
 なにか怒らせたらしい。普段の無表情とは明らかに違う、不機嫌そうな表情にくるりと変わり、秋吉は黙ってしまう。薫に会いたいと思うのはいけないんだろうか。
「比呂はさ、ちょっとちゃらんぽらんだし、悪ノリしちゃうとこあるし、そういう意味では薫とはうまくやれると思ってるんだけど、もしなにか困らせたりしたら、私に言ってね。説教しておくから」
「……うん」
 無口になった秋吉が、エスカレーターの終わりを私に示した。慌てて降りると、続けて降りた彼はちょうどエスカレーターのすぐ近くにあった店を指差す。
「こういうのとか、好きってこと?」
「あ、うん。好き」
 けっこう少女趣味な、いわゆるフリルとかリボンがふんだんにあしらわれている服を多く取り扱っている店だ。秋吉が若干不機嫌なのは気になるが、好きな店に入ると気分はよくなる。
「可愛い……」
 一枚ずつ確かめるように服を手に取っていくのを、秋吉は微笑ましそうに見ている。そういうことをされると、どうも聞きたくなる。
「これ、どうかな」
「いいんじゃねえの」
 適当じゃなく、私の手元を覗き込んで言ってくれる秋吉に、なんか恋人っぽい、と顔が緩んでしまいそうになるのをこらえる。けれどやっぱり顔に出ていたようで、怪訝そうに眉をひそめられた。
「なに、にやにやしてんの」
「ふふふ」
 にやにやしたまま持っている服を揺らす。気味が悪そうに私を見ていたが、やがてため息をついた。
「痴女の考えることはよく分からん」
「痴女じゃない!」
「共学で男の乳首当てゲームをしてないと言えるか?」
「言えません」
 ぺろりと舌を出す。もちろん、女として学校に通えるようになったからには、いかんなく趣味を発揮している。そこを我慢したって仕方がない。そして嘘をついても仕方がない。
「お前はほんとに……」
「あっ、これ可愛い! どうかな!」
「……試着してみれば?」
「え、いいの?」
「買ってみてからなんか違った、とかなるの嫌だろ」
 せっかくなので試着室に入る。秋吉は、試着室の手前にあるスツールに浅く腰かけて足を組んだ。男前だ。
 大胆な、白地に夏らしい淡い水色と黄色の花柄が圧巻の、袖が短くてノースリーブに近いようなデザインのワンピースを身につけてからはたと思う。この格好、やはり秋吉に披露せなばならないよな。いよいよ恋人同士みたいで恥ずかしい。
 そっとカーテンを少しだけ開けて様子をうかがうと、それに気付いた彼は少し腰を浮かせてこちらを見た。
「着替えたの?」
「う、うん」
「見せてみ」
 やはり。カーテンの隙間からそろりと足を踏み出して、ローファーを履いて秋吉の前に立つ。目を合わせられなくてうつむいていると、剥き出しの肩に触れられた。
「な、なに」
「鏡見て自分で気に入ったかどうかチェックしたほうがいいんじゃね?」
 他意はないのか、意識しすぎて恥ずかしい、穴があったら入りたい。
 大きな、全身が映る鏡を見ると、秋吉に肩を抱かれたまま顔を赤くしている自分と目が合った。髪の毛がまだ短いままなので、あまりこういうぶりぶりな服は似合わなくなってしまったな、と少し悲しくなる。どうしても、女性向けの雑誌で取り上げられるいわゆる甘辛ミックスになってしまうというか、髪の毛と服のテイストが違うというか。

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