05

 部屋に入ってテレビを見ると、セーラー服を着た女の子が男の人になにやらいろいろと質問されているところだった。バラエティにしてはテロップもないし撮り方が安っぽい。などと思っているうちに質問内容がどんどん際どいところに飛び始め、最終的に女の子が脱ぎだした。そこでようやく気づく、これはちまたに聞くエロDVDというものだと。
 質問していた男と女の子が絡みだす。私はそれを興味津々で見つめた。こんなものを見るのは、当然ながら初めてなのである。兄のオカズはエロ本だったし、そもそも兄の部屋にはテレビもパソコンもないので、そんな代物を見ることができるはずがないのだ。そして私はパソコンを持っているからと言ってエロ動画など見るわけもなく、ひたすらネットという広大な海をさまよっているのである。
 私が熱心に画面に見入っているのに気づいた薫が、にやにやと笑って肘で私のわき腹を小突いてきた。
「お子ちゃまには刺激が強いかな?」
「お子ちゃま言うな! 別に平気だし!」
「ふうん?」
 薫が私をからかっている横で、秋吉は不機嫌そうに画面を睨んでいた。ところで、ふと思う。
「俺の部屋にテレビなんかないんだけど」
「こいつが持ち込んだんだよ。ふつうはない」
 私のパソコンと一緒か。小さくて薄型のそのテレビは、たしかに持ち運びには便利そうだなと思う。こいつ、と親指で示された和泉氏が、私に向かってピースサインをつくる。
 さて、テレビの中はクライマックスを迎えている。私は特に興奮するでもなく、というか飽きてきてしまい、ぼんやりと膝に頭を乗せて座り込み画面を眺めていた。
「比呂ってこういうのに免疫あるほう?」
 私がまったく興奮しないのを不思議に思ったのだろう、薫が聞いてくる。免疫、という言葉について少し考える。
「免疫っていうか、すげえヤラセっぽいじゃん」
「ヤラセでもいいんだよ。つうかこんなん全部ヤラセだ」
「そういうもの?」
「ほんとだったら困るだろ。女子高生はこういうのに出ちゃいけないんだから」
「えっ、これ女子高生じゃないの?」
 薫が呆れたと言わんばかりに、これ見よがしにため息をついた。
「なんか法律であるだろ、十八歳未満は〜とか青少年育成なんちゃら〜とかいうの」
「……じゃあ、薫たちもこれ持ってたらいけないんじゃ……」
 ふん、と鼻を鳴らされる。なんだ、間違ったことは言っていないぞ、と気丈に薫を見つめると、ふいと視線を逸らされた。
「比呂はそんなだから童貞なんだよ」
「う、うるさいな」
 秋吉がくすっと笑ったのが目の端に映る。ちくしょう、馬鹿にしやがって。ところで。
「こんなもの、どっから持ってきたの?」
「ああ、山ピーからせしめてきた」
 お世辞にも可愛いとは言えない山内氏のあだ名が山ピーか。
 秋吉が前に言っていた、女を連れ込んで賄賂がどうのこうのの話を思い出す。つまり、山内氏が女の子を連れ込む代わりに、これを掠め取ってきた、というわけか。呆れて声も出ない。
「もっと楽しいの見ようよ、アニメとかさ」
「お前ほんとにお子ちゃまだな」
「むっ、アニメ馬鹿にすんなよ、最近の深夜帯はなあ」
「はいはい、俺たち大人はこれが楽しいの」
 いつの間にか終わってしまった画面を指差して、薫が肩をすくめる。
「この、童貞集団め!」
「お前もだろ!」
「俺は違う」
 ぼそりと秋吉が自己主張する。その呟きにとたんに非難の声が集中した。
「男とやるのは数に入れねえんだよ!」
「ちくしょう!」
 何がちくしょうか。
 免疫と言えば、比呂のものを見慣れているというか、通常の状態のものならよく目にする機会があったからというか、今更恥ずかしいとは思わない。そういう意味では免疫があるのかもしれないな。

prev | list | next