01

 甘ったるい関係なんて望んでいない。そんなのは嘘だ。
 私は仁さんに愛されたいって思っているし、それが無理なことだともちろん分かっているけれど、願うことはやめられない。
 仁さんは相変わらず、一週間に二度ほどのペースで私の血を吸う。一週間に二度ほど、私は仁さんの家を訪ねていく。ママのおかずを持って。
 仁さんの部屋に女性の気配があることが嫌だ。それがたとえ、仕事関係の人の何気ない痕跡でも、だ。
 紅茶のカップのふちについた赤い口紅。そんなものを私はじっと睨みつけながら、仕事にこんな赤い色をつけるなんて馬鹿みたい、と心の奥でなじる。
 その赤さも、ほんのわずかに残った冷め切った紅茶も、仁さんへのアピールのように感じてはらわたが煮えくり返りそうだ。

「美麗?」
「……仁さんのお仕事って」
「え?」
「具体的には何をしてるの?」
「……文章を書いてる」

 何を当たり前のことを、と言わんばかりの口調で、仁さんの手が私の座るテーブルの上にあったティーカップをすっと持ち上げて台所に持っていく。そのまま、それらを洗う音がする。

「どうしたの、急に。今まで俺の仕事に興味なんかなかったくせに」

 笑い混じりに仁さんがそう言って、私は、見えていないけれど唇を尖らせた。

「別に。ちょっと気になっただけ」
「そう?」

洗い終えて、手を拭きながら仁さんはこちらへ戻ってきて、さて、と言う。

「宿題、どれ?」
「これ。なんか、私英語苦手なのかなあ……」
「うん、それは前から知ってた」
「嘘っ」

 くすくすと笑いながら仁さんが私の頭を撫でる。こども扱いされている、と思うけれど、よく考えれば、私自身、仁さんの前でちょっとこどもっぽく振る舞っているような気がする。
 甘えたら甘えた分だけ、それに応えてくれるのを確認したいのかもしれない。私の甘え方がこどもなせいで、返ってくる反応は期待したものではないけれど。

「高校入ったら、急に難しくなった」
「でも、美麗にはちゃんと基礎は教えたはずだよ」
「……」
「拗ねないの……」

 ふと、首筋を押された。緩慢に振り向くと、仁さんの目はどことなくうつろで、そしてほんのりと赤く染まっている。

「……仁さん」
「美麗」

 麻薬のような、彼の私を呼ぶ声。もう抜け出せないところまできている。そのまま彼の唇が首筋に落ちて、身体に手を這わされる。宿題、と言おうと思ったけれど。
 私はただされるがままになっている。溺れて、もがくこともせず。

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