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―side **―



『千秋楽観に来てくれてありがとう。**が客席にいるの、ちゃんと見つけた。まだ先の話だが、次回公演も必ず観に来てほしい。皇天馬』



「て、て、てが……手紙が、下駄箱に入ってた時って、ど、どうすれば良いの……?」
「は?それってラブレター!?」
「じゃないけど!そうじゃないけど!そのくらい価値のあるものなんです!!」


いつも通り登校して、教室に入って、仲の良い友達と話す。
の前に、今日はもう一段階あった。
今まで一度も経験したことのないもの。
学校の、自分の下駄箱の中に、手紙。
もしそれがとある男子生徒からのラブレターだったら、こんな私でも頬を赤く染めて「キャーどうしよう!」等と言っていたかもしれない。
けれどその手紙は、そんなものではない。私の憧れで、学校でも、芸能の世界でも人気のあるあの皇天馬からの手紙!!
しかも直筆!私の苗字まで書いてある!!
手紙を広げて見た瞬間、あまりにも衝撃的すぎて、外国人もびっくりするくらい本物の「oh……」が口からこぼれ出た。
これはどうするべきかと一人思い悩んだ結果友達に相談したが、書いた人物のことや書かれている内容等、とても私の口から言えるようなものではなかった。


「まぁ、よく分からないけどそんなに貴重なものなら……その手紙は、とりあえずなくさないように大事にするよね」
「はい、おっしゃる通りで」
「あとは……直接返事を本人に言うとか、同じように返事を手紙に書いてみたら?その位経験あるでしょ」
「ないし出来ないよ……!」


両手で顔を覆い、わぁぁ……!と泣くような真似をすると、目の前で頬杖をついて話を聞いていた友達は「ふーん、じゃあ知らないよ〜」とあっさり冷たくあしらわれてしまった。


「まぁまぁ!そんなことより、今度の日曜日はちゃんと参加するんだよね?」
「うん、それとこれとは別だからもちろん行くよ。楽しみにしてたし」


何とも話の切り替えが早いが、今度の日曜日、というのは以前からこの友達と約束していた、とある企画に参加する日のこと。
楽しみで心待ちにしていただけあって、この皇くんからもらった手紙の存在がちょっとだけかすれてしまう程、私にとって特別な事なのだ。

――しかし、この企画に参加したことによって、まさかあんな出来事が起こることになってしまうとは、思いもしなかった。



「いや〜やっぱ**かっこいいね!惚れる!」
「ちょっと!何の為にハンドルネームあると思ってるの!」
「あ!ごめんごめん!」


楽しみにしていた、週末日曜日。
私と友達を含め、約10名程で、とある廃墟へと来ていた。
廃墟と言っても未だ取り壊しの予定は立てられておらず、尚且つ管理している会社がきちんとあるのだ。
その会社の許可を得て仲間内で集まり、“絶好のロケーション”として撮影を行う。
そして今企画で最も重要なポイントは、『背景に合わせて自身の好きなキャラクターに仮装してなりきり、いかに素晴らしい写真が撮れるか』。
そう、これは“廃墟”をテーマにしたコスプレ企画である。
等と具体的に詳しく説明している私自身、実はそれなりに経歴のあるコスプレイヤー。
普段の生活や学校では地味で大人しくしているただの女子高生だが、こちらの界隈ではまぁまぁ名の知れる人物である。
でも、名の知れている存在だからこそ、惜しまずにやらなければならない努力があるのだ。
その努力をする為に、私の中には“憧れの皇天馬”が存在する。
私はいくら衣装で着飾ったり、皆が見惚れるように完璧なメイクをしていても、地味で大人しいという内側の私は変わらないままなのだ。
それは、表面上“コスプレ”がきちんと出来ていても、“なりきり”は出来ていない。
過剰だと言われるかもしれないが、コスプレをやるからにはちゃんと自信を持って、キャラ通りの立ち居振る舞いをしなくてはならない。
それが、コスプレイヤーとしての私の信念だと考え、その点をばっちり踏まえている皇くんを“お手本”にする理由。
……こんな考えを持っているところや、そもそも趣味でコスプレをしている時点で、皇くんに知られたら引かれてしまいそうだけど。


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