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偶然、だった。

先週の金曜日、たまたま学校は午後から休講で。
そういえば、ゆっきーが珍しく衣装作りで煮詰まってたなー、買い物ついでにショップ見て、良い服あったら参考にしてアドバイスしよーっと。そんなことを思い付いて。
んで、偶然入ったショッピングモール内のオシャレなショップに、偶然キミがいたってワケ。
偶然、偶然って言ってるけど、正直オレは、運命の出会いってヤツだと感じた。



「いらっしゃいませ……あ、お客様……」
「おっ!オネーサン、オレのこと覚えてくれてんの!?やっぴ〜!マジテンアゲ!!」


一週間経った今日も、金曜日。またしても、同じショップに顔を出した。
……つーか、実を言うと、あれから毎日来店した。
学校終わったらそのまま出向いて、店内を一周する。
気になる服をチョイスするフリをして、一人一人、店員の顔をチェック。
皆首に社員証下げてるけど、それ見ちゃうと、位置的に胸ガン見してるヤバいヤツになっちゃうから、そこはノーチェック。
てことで、運命的な出会いをした彼女の名前は、まだ知らないまま。


「……あの、先週の金曜日に来て以来、ずっとウチに顔出してらっしゃるんですよね。他の店員達が言っていました」
「あちゃー、もうバレバレな感じ?毎日オネーサンに会いに来てたんだけど、今日やっと会えてホッとした。なーんちゃって!?」


そう、ここ最近オレは毎日通っていたのに、会うことができたのは初めて会って以来今日が一回目。
それまでの間、店員はやはりシフトの関係上入れ替わりがあるのに対し、彼女は一切姿を現さなかった。


「ふふ、それは残念でしたね。この店は姉妹店があって、私はそこから毎週金曜日にだけヘルプに来てるんです。毎日通っていただいて、ありがとうございます」
「あーそゆこと……オレめっちゃ無駄足じゃん!」
「そんなことないですよ。……あ、いらっしゃいませ。何かお探しでしたら、お伺いします」


彼女はオレの気持ちを知ってか知らずか、上手い相槌を打ちながらもヒラリヒラリとかわしていく。
オレを気にしつつも、他の来店客にもさりげなく気を遣っていく。
ヘルプに来てるって言っても、きっとそれなりに偉い位置にいる人なんだろうなーとは、何となく分かっていた。
話し方、立ち居振る舞い、客への接し方、巧みな営業トーク……どうとっても、“上級職”の人だ。


「それで……毎日通って、お目当てのものは見つかりましたか?無いのでしたら、取り寄せも出来ますよ」
「え?あー……ハハ、そうじゃなくて……」


はい、確定。
彼女は、オレの気持ちなんてこれっぽっちも知らない。オレが彼女に会いたくて毎日来てたなんて、知る由もない。
オレは、ただの客なんだ。
こんな時はどうしてたっけ。いつもなら、めっちゃ喋って、LIMEも交換して、遊びに行こ!とか誘ってみたり、つーか彼ぴっぴいる?とか気軽に聞いてみたり。
やべぇ、まだ全然出来てないし、難易度高すぎて出来る気もしない。
でも、これは運命なんだ。偶然の出会いだったけど、オレは彼女に一目惚れってヤツをして、もう寝ても覚めても頭から離れない。
このカズナリ・ミヨシにかかれば、口説けないワケない!!


「あっ!やべー、今日はもう帰んなきゃだ!てことで、またオネーサンに会いに来るから!今度は、ちゃんと金曜日オンリーで狙い撃ちしちゃうよん!」


別に急ぐ用事もないけど、スマホで時間を確認するフリをして慌てて店を出ようとする。


「あら、そうなんですね。またいつでもご来店ください」


やはり最後までオレを客として扱う彼女に、オレは踵を返し、ビシッとかっこよく彼女を指差し決めポーズをしながら言ってやった。


「最後に一つ!オネーサンのお名前は、ズバリ!!?」


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