我らが父は大変なボールを打っていきました





・去年の12月28日に開催した絵茶にて、深夜(ここ重要)のテンションで発生したネタ。
・「もしもネロがGo ●low yourself!の意味を実は知らなかったら」
・公式小説で盛大に意味言ってるけど気にしない。
・同時にもらった二代目のネタも混ぜてみた。
・若干キャラが違う(サイト設定的に)
・会話の一部が直球でR指定です。

・閲覧は自己責任ですよ!

















 その爆弾は、昼メシも食って腹休めにのんびりしているときに突如降って来た、と後にダンテ達は語っている。
「なあ、Go blow yourselfってどんな意味なんだ」
 ダイニングテーブルでネロの斜め向かいに座っていたバージルが危うくカップを落としそうになり、隣りの二代目は真正面にいるネロを瞬きふたつで見つめ、
「……どっちに聞いてるんだ?」
「どっちも」
 俺も入るのか、とバージルは思う。ただならぬ予感である。そして、こう言う事に関しては地獄耳のダンテ達が聞き漏らすはずもない。ソファーで野球を観ていた若がおもむろにリモコンを手に取って実にさりげなく音量を落としていき、初代はキッチンを出ようとしたところで回れ右して忍者の如く柱に隠れ、髭は雑誌から顔さえ上げなかったが耳はバッチリロックオンである。
 二代目とバージルの向かいに座っているネロは居心地悪そうに視線をさ迷わせて足の間で手を組み、
「下品な言葉ってのは分かってるんだ。でもそれがどんな意味かは分かってなくてさ」
 バージルは呆れて、
「知ったかぶりで使ってたのか」
「う、うっせーな、だからちゃんと知ろうと思ったんじゃねーか。でもおっさんとか若に聞いたらなんかマズそうな気がしたからさ、あんたらならちゃんと答えてくれるかなって」
 良い勘をしている。確かにダンテ達に聞いたら格好の餌食であるが、すでに周囲にモロバレなのにネロは気付いていないらしい。
 意外だな、と外野の髭は思う。
 フォルトゥナのお堅い雰囲気と閉鎖的な環境の中で、どうしたらあんな放送禁止用語を手に入れられるのだろうかと疑問には思ったこともある。が、世の中つくづく穴だらけなので、その穴にうっかり手を突っ込んで入手してしまった可能性はおおいにあり得る。ネロならなおさらだ。かつてフォルトゥナの鎖国的な空気を嫌っていた節もあるネロなら、そこから一度は抜け出して外の世界の何がしかに触れてみたいと思ったことの一度や二度はあるはずだ。
 が、ファックは分かるくせにXXXXしてな!が分からないところから、どうやら中途半端に穴に手を入れてしまったらしい。
 ネロは本気で知らないようだった。なぜなら、
「で、どういう意味なんだよ。結構有名なんだろ? 前クレドに聞いたときにいきなりブッ飛ばされて『二度と口にするな!』って言われてさ。てことはあのクレドでも知ってる言葉ってことだよな」
 バージルは顔も知らぬクレドという男を不憫に思った。ネロは真面目に聞いているのが嫌でもわかる。昼間からこんなお下品な言葉の意味を聞いてくるなんて普段のネロならあり得ない。つまり、「多少下劣かもしれないがそうでもないだろう」くらいの認識しかないのである。
 ピュアなのかそうでないのか線引きが難しいが、一応は純情な青年の真面目な質問なのだ。ここはオブラートに包んで柔らかく答えたほうがベストだろうとバージルは何だか真剣に考え、物凄くツッコミたそうな雰囲気のダンテ達に「余計な口出しはするな」と目線で牽制しておき、前置きをするために一度コーヒーに口を付けてから、
「――ネロ、それはな、」
「オナってろって意味だ」

『打ったあああああああ!! ジャッキー選手渾身の振り! ボールは伸びる! まだ伸びる! いけ! いけ! おおおおおおホーーーーーームランっ!!!! 場外ホームラン!!! やりましたジャッキー選手!! 怪我の復帰からようやくホームランで復活を果たしましたあああーーーーーー!!!』

 テレビで実況レポーターが叫んでいる。音量は若が下げたせいで小さいが、それは事務所中に響いた。
 それくらい、劇的に静かだった。
「………、え?」
 ネロはきょとんとして愚かにも疑問を返す。
 先ほどの答えを言った二代目は無表情にネロを見て言葉のボールを返す、
「自慰とも言うな」
「じ、」
「あとはマスターベーションか」
「ま、」
「オナニーは旧約聖書の創世記にオナンという人物がいたことから由来するらしいが、まあこれは置いておこう。適当に性器を握って適当に上下にこすったりしてれば射精できるがな」
 テレビから『デッドボーール!!』とまた実況が響いた。ピッチャーのボールが股間に当たってバッターが悶絶、大事なところを押さえてのたうち回っている。
「あまりやり過ぎると遅漏になるから止めたほうがいいという意見もある。その辺り個人差があるからまずは一回やってみろ、難しそうなら教えるぞ」
 バージルはついにカップをテーブルに落として信じられない者を見る瞳で隣りの二代目を見上げ、あんぐり口を開けたまま固まっているダンテ達の中で髭だけが「ぶっふっふ」と肩で笑い、そんな視線を一心に受けて二代目は周りを見渡し、
「……なんだ?」
 と首を傾げた。
 その瞬間、向かいのネロがようやく事を理解したらしい。呆けた表情から一気に羞恥心とショックがない交ぜになった顔になり、髪の毛が逆立ち首から頭のてっぺんに掛けて凄まじい勢いで肌が真っ赤になっていく。
「ばっ」
 たちまち噴火。
「ば、ばばばばばっ、ばあーーーーーーーーーーーーーーーっか!!!!」
 まるで言い足りなそうだが混乱で言葉が出ないのだろう。真正面から罵倒を食らって面食らった二代目を尻目に、ネロは椅子を引き倒しながら立ちあがると物凄い勢いでダイニングを駆け抜けて事務机を通り越し、階段をガンガンガンと三段飛ばしで上がっていくと自室に一直線。壊れるんじゃないかと思うほど強く扉を閉める音がダイニングまで聞こえてきて、そのまま沈黙した。
 あっという間だった。
「――、どうしたんだ」
 二代目がポツリと呟いた。
 まずい、ツッコミが追い付かない。バージルは肘をつくと額を押さえて、テーブルに広がるコーヒーの海よりまずは二代目に眼を向ける。
「………貴様、さっきの質問どういう意味で捉えた」
「? だから、自慰を知らなかったんだろう?それで教えてほしいって言ってきたんじゃないのか」
 違う。根本的なところが違う。ネロは普通に言葉の意味だけ知りたかったのだ。あの歳で自慰が分からないほうがどうかしている。いやまずはその前に、
「スットレートだったなあ」
 若がそう言いながら背もたれに腕を乗せる。
「なんか学校のセンコーみたいな言い方だな」
「こういう事はハッキリ告げたほうがいいだろう。はぐらかすのは逆に悪いと思ったんだが」
 二代目なりに思春期のハートを考慮した結果らしい。が、ネロにはまったくの逆効果だったようである。というよりウブにもほどがあると二代目以外の全員が思う。なんださっきの反応は、今どき真っ向から言われてあんなに顔を真っ赤にする青少年なんて初めて見た。ある意味からかわれるタイプには違いない。
「あいつ結構繊細なのか、若っけえなあ」
 初代が苦笑しながら柱にもたれて腕を組み、笑いの収まった髭はアダルト雑誌でパタパタと顔を仰ぎながら、
「フォルトゥナにはそこんところをズバッと教えてくれる大人はいなかったみたいだな。ま、一匹オオカミだったみてーだし聞ける相手もいなかったんだろうが……随分と複雑かつナイーブに育ったもんだ。天然記念物もんだぞありゃ」
 若もこくんと頷く。
「つーか意外だよな。てっきり知ってて使ってるかと思ってた」
 初代も肩をすくめて、
「バージルと二代目に聞いた辺り何となくは予想してたみたいだけどな。でも結果がこれだ」
「ネロかわいそ。今日部屋から出てこれるか?」
「さあな。それはわかんね」
 そこでダイニングからポツリと、
「……違った、のか…?」
 皆は一斉に二代目を見る。
 二代目は未だに状況を把握しかねている表情でダンテ達を見返す。
 隣りの席のバージルが痛みをこらえるような溜息をつき、
「……二代目」
「なんだ」
「悪いことは言わない。十代からやり直せ」
 ネロは、夜になっても部屋から出て来なかった。




 クレドに「Go blow yourself」の意味を聞いてブッ飛ばされた話には続きがある。あそこまでして意味を教えたくないということはよっぽどの言葉なんだとネロは好奇心をたくましくさせ、実はあのあと教団員の数人かにこっそり聞いたことがあるのだ。しかし誰もがそれを聞いた瞬間ブッと吹きだしてぶんぶんと首を振り、「それを教えたらクレド団長の命令に逆らうことになるから言えない」とのたまわれたのである。団員に伝えるほどに教えたくないことなのかと今より若かったネロは首を傾げ、それからは無闇に訊くことはなくなった。
 しかし真相を知ったいま、あれはどう考えても公開羞恥処刑にひとしい。
 つまり、教団のはぐれオオカミこと不信心者ネロは、例の言葉の意味をティーンなのに知らない童貞ボーイであると教団中に知れ渡ってしまったのである。どうりで訊くたびに笑われていたはずだ。あのM字野郎教団中にバラしやがったのか――思いだすだけで「ぐあああああ」と悶絶してしまう。
 酷い、酷過ぎる。自分の無知さをこれほどまでに愚かに思ったことはない。自室のベッドの上でネロはごろごろとのたうち回り、シーツを頭から被って足をバタバタさせた。今は夜中の一時だ。とっぷり夜になっても明かりさえ付けず、今晩は夕食担当だったのに思いっきりすっぽかしたのだがそんなの些細なことだ、いまでも恥ずかしさで余裕で死ねる。
 しかもダンテ達にまで知られてしまった。
「………終わった…」
 もう一生この部屋から出ない。決めた、この羞恥心は墓場にまで持っていこう。そしてクレドに花畑の中で会ったらまずはドロップキックとジャーマンスープレックスだ。
 ノック音がした。
「…ネロ、いるか」
 二代目の声が扉越しにした。ネロはガバリとシーツから顔を上げ、反射的に昼間の出来事を自動で脳内再生してしまい顔を赤くする。
「晩飯食べないのか?風呂は?」
 正直腹の虫が鳴っているのだがとても開けれる気がしない。廊下の明かりが扉と同じ枠のかたちで隙間から細長く見える。ネロは扉越しに二代目がいるのが透視能力がなくても分かった。
「…二代目、悪いけど俺を一人にしてくれ。マジで頼む」
 一秒の間。二代目はどこかためらったような声で、
「……昼間は悪かったな」
「……」
「勘違いしてた。あと直球過ぎだとバージルに怒られた」
 思わずシーツで覆った口元に笑みが浮かんだ。容易にその様が想像が出来る、角を生やしたバージルと眼を白黒させている二代目の姿だ。ネロはわざと不機嫌な声で返す。
「あのな二代目、俺だってもうそれくらいは分かる歳なんだ。あれがどういう意味の言葉か知らなかったのは俺が悪いけど」
「そうだな、予想外だった。お前も大変だな」
「……、おっさん達は」
「心配しなくていい。今日の事でネロを突っつくなときつく言ってある」
 さすがだ。以心伝心の気分である。やっぱり二代目は頼りになる。ネロがホッとしていると、返事が返ってこないのを何か勘違いしたのか二代目の声が小さくなり、
「やっぱりまだ怒ってるか…」
「! ちが、怒ってねーよ! ただ、」
 そこでネロは口をつぐむ。まさか自分の犯した過ちが恥ずかし過ぎて出て来れないとは言えない。別の言い方をしようと言葉を探しあぐねているとふいに二代目の気配が扉越しから消え、無言で去ろうとする足音が廊下に響く。ちょっと待て、まだ話は終わってない。ネロはシーツを頭から被ったままベッドから滑り降りると急いで扉を開け放ち、背を向けて自室に戻ろうとする二代目に向かって叫ぶ、
「怒ってねーーーから!!」
 多分一階にまで響いたと思うが気にしない。ぴたりと足を止めて二代目は振り返り、眼を丸くしてネロを見つめる。風呂に入ったのか服がラフだった。
「あのな、あんたいっつも勘良いくせに16かそこらのガキの心情は読めねえのかよ!察しろよこんくらい!」
 自分でガキとか言ってしまってるがいっそ開き直ったほうが楽である。二代目は途端に苦笑いし、
「…難しいな。やっぱり十代からやり直したほうがいいか?」
「あんたどんな思春期送ってたんだよ」
「悪いが覚えてないんだ。色々あったからな」
 それから二代目はこちらに全身を向けると、困ったとばかりに首を傾げて両腕を軽く広げる。
「今度はこっちの番だ。教えてくれネロ、俺はどうすればいい?」
 ネロは口をへの字にしてむっつりと考え込む。まさか本当に十代からやり直させることなど出来ないし、かと言って今更二代目にティーンエイジャーとは何たるかを語るのもお門違いである。
 たっぷり一分沈黙しても二代目は黙ってネロの答えを待っていた。
 さらにネロは二分考え込み、ようやく、
「…あんたは事務所の中で最年長だ」
「そうだな」
「でもって父親ポジションだよな」
「よく言われる」
「つまりでかい息子があと五人いるわけだ」
「…、恐ろしいな」
「その息子のうちの一人が深夜になっても起きてる。父親はこういうときどうすればいい?」
「そうだな、寝かしつけるんじゃ、」
 そこで二代目は口を閉じた。理解の色がパッと顔に浮かび、少しの距離を隔てて立つシーツを被った「でかい息子」の言いたげな視線を受け止めて、このちょっとした騒動が幕を下ろすのを感じとった。
 苦笑して「父親」は腕を広げ、
「――おいで、ネロ。一緒に寝るか」
 息子はもごもごと口の中で返事をすると、ずるずるとシーツを引きずって父親に向かっていく。端がホコリですっかり汚れてしまっていたので、二代目の部屋に入ると扉脇に捨て置いた。明日洗濯しよう。
 綺麗に整っているベッドに先にもぐりこむと途端に睡魔が襲ってくる。やっと一安心できて気が抜けたせいか、横になるとじわりと頭の隅から眠気が浸透していく。
 電気を消して真っ暗になった部屋で二代目が後からベッドの中に入り、こちら側を向くと腕をまわして背中をポンポンと叩かれた。引き寄せられるようにネロはもぞもぞと二代目に寄っていき、胸板に額をくっつける。超あったけー。
「おやすみネロ、いい夢を」
 父親ってこんな感じなのかな、とネロは思いながら眼を閉じる。
「おう、おやすみ……」
「明日の朝食は作れよ」
 そうだな、晩飯作らなかったもんな。心の中でそう思った瞬間、ネロはあっという間に眠りについたのだった。


(…親子……)
(親子だな…)
(ほほえましいな)
 そして三人のダンテ達が二代目の部屋の扉越しに呟き、遠くでバージルが「三馬鹿トリオだな」と呆れていたのを幸運にもネロは知らないのである。




―――――――――――――



\(^q^)/
元ネタは「もしもネロがGo blow yourself」を知らなかったらと「それに直球で答える二代目」と、「二代目が『おいで』って言ったら萌える」でした。
強引に混ぜた結果がこれだよ!

深夜の絵茶でのテンションで出来あがったので大目に見てください……キャラ違うのは御愛嬌。これ昼間に見るのくっそ恥ずかしいです(笑)

改めまして、この二つのネタが生まれた席にいた方々、有難うございました!!




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