深海魚のまなこ





※悪魔の攻撃にあって髭の眼が見えなくなってしまう話。
※触りで書いたのですっっっごい短いです。


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「――、ちょっと俺を見てみろ」
 おかしいと思ったのだ、さっきだって何もないところでコケそうになってた。髭に限ってそんなことはあり得ないのだ。それにアダルト雑誌を読んでるときだってページは捲っていたがまるで機械的だったし、眼がまったく雑誌を追っていなかった。そしてついにネロは確信したのである。電話が鳴って髭がいつもの如く足で机を打ちつけて受話器を浮かせたとき、
 髭は全く見当違いのところに手を差し出して、受話器を床に落としてしまったのだ。
 ネロの胃に、重くて冷たい石が落ちた。
 間違いなかった。
 初代が「何やってんだよ髭」と言って落ちた受話器を拾い上げた。が、ネロは素早く受話器を初代から取り上げて電話にガチャンと戻す。その行動に初代や周りの奴らは驚くが、髭は何が起こっているか図りかねているようだった。もう明らかだった。ネロは机を大回りして髭の目の前に立つと、いきなり両肩を掴んでシャーペン一本分の距離まで顔を寄せる。
「ちょっと俺を見てみろ」
「…どうしたんだよ坊や」
「いいからっ、ちゃんと俺の目を見ろ!」
 髭は口をつぐんでネロを見つめる。
 確かに、髭はネロの顔を見ていた。
 が、「ネロの眼」は見ていなかった。それどころか探すかのように視線を動かしている。まるで焦点が合っていない。傍らの初代の表情が曇っていき、ネロの心には真っ黒な確信が満ちていく。
「………見えてないんだな」
「……、そうだ」
 観念したかのように髭は息を吐いた。
「いつから」
「二時間くらい前だな。心当たりはあるんだ。お前と昨日悪魔退治に行っただろ、そんときに変な液体掛けられてな」
 覚えてる。路地裏での戦闘だった。そのときにストリートの子供が知らずにこちらに来てしまって、自分がその子供に気を取られた瞬間悪魔が割って入ってきたのだ。髭がフードを引っ張ってネロを後方に投げ出し、悪魔は髭に向かって何か黒い液体を噴射した。本人は大丈夫だと言っていたし、確かにあの時はちゃんと見えていたはずである。
 肩に置く手から力が抜けた。
「全然、見えないのか」
「明るいか暗いかまではさっきまで分かってた。今は全然だな」
 誰もが言葉を探しあぐねていた。
 誰もが言葉を探しあぐねる中で、髭がおもむろに手を伸ばした。
「ネロ、お前どの辺にいるんだ?」
「え…」
 答える前に髭はネロの胸に触れた。確かめるように触りながら上に登っていく。その盲目丸出しの手つきに胃の腑がねじれそうになる。手は肩までたどり着き、首を撫でて耳を掠め、頭のてっぺんまで到着すると髭はポンポンとなだめるように頭を叩いた。
 ポツリと、
「――悪い」
 大丈夫、
 お前のせいじゃない。

 髭はそう言って、笑うのだ。




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あくまで「触りで書いた」ので前後関係とかは無視してくださいね(笑)




091106









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