Devil, human, and brother.6




 神も何が不満なのか異様な程のどしゃぶりである。どこを歩いても靴底が沈むほど地面は水たまりに溢れ、一メートルも離れれば打ちつける雨音で人の声も聞こえない。厚く張った雲は風もないのか留まったままで、明日までこの天気は続くだろうとローカルニュースが伝えていた。
 そのどしゃぶり地域の中に、デビルメイクライもすっぽりと収まっていた。
 扉を開けてみる。
 玄関前の床は水滴が染みており外から誰かが帰ってきたと見受けられる。更に奥に進むと真正面に事務机が置かれているのだが、その一帯は争った跡がそこかしこに残っていた。今でこそ片づけられているが、小さなガラスの破片や血痕がポツポツと散っている。事務机もよく見れば上に置いてあるものが雑多に積み上げられていて、「一回落としたがどんな配置か覚えていないのでテキトーに戻した」と言った感じで、その中には何の写真も入っていない割れたフォトスタンドもあった。
 現在デビルメイクライには気配が三つあり、一つは二階から、もう二つはキッチンから感じ取れる。
 キッチンに足を向けてみよう。
 黄ばんだ蛍光灯がじりじり鳴っている。その下で初代が重ねたトースト二枚をまな板に置いて耳を切り落としている。大雑把にマスタードを塗りたくり、あらかじめスライスしておいたトマトとレタスとベーコンを挟む。サンドしたトーストを三角にざっくりと切り、皿に載せるとダイニングに向かった。
 椅子の上であぐらを掻いて沈んだ顔をしている若の前にずいと差し出し、
「食え」
 若は目だけでBLTサンドを一瞥し、
「……さっき飯食った」
「いいから食え。こんなんでも気が紛れるだろ」
 それでも若は嫌そうな顔をしたが初代がそのまま動かないのを見て観念したらしい。だるそうにサンドイッチを取ってもそもそと食べ始めるのを確かめると、初代も残りのサンドイッチを手にして行儀悪くテーブルの上に足を組んで座った。
 雨足はまだまだひどいが雷は去ったようだ。バージルが事務所から出て行こうとしていたあの時はガンガン鳴ってたのになと初代は思う。まるでバージルの行動に連動しているかのようだった。妙なものだ。雨が足止めをしているというのはあながち間違っていないのかもしれない。
 時計はまだ正午にもなっておらず、電話も鳴る気配が全くない。
 静かだ。が、どうもジメジメしているのは否めなかった。湿気もそうだが若が特に陰気臭い。伸びたあげくあちこち破けたインナーもそのままだし、顔だって固まった血がこびり付いたままである。むくれているというか擦り切れたオーラがどんより漂っていてこっちまで気分が下がりそうである。
 こいつらしくもないと思う反面、無理もないと思った。
 レコードでも掛けるかとテーブルから降りたそのとき、
「……あいつ、怒らなかった」
 初代は振り返って若を見下ろした。
 若はサンドイッチの食べ口にぼんやり視線を向けている。まだ半分も食べていない。
「……あいつって、髭のことか」
 こくりと若は頷く。
「俺だったらぶん殴ってたし、おっさんもそうすると思ってた」
「……まあ、意外といえば意外だったな」
 自分があの立場だったらどうしていたかは分からないが、少なくとも経緯を問いただすくらいはしただろう。若は事務机のほうに目を移すと、つい数十分前までそこに居た自分の幻に向かって吐き捨てるように言った。
「――いっそぶん殴ってくれたほうがまだマシだった」
 初代は何も言わなかった。残りのパンを口に放り込み、好みの曲がないかジュークボックスをいじり出す。


 何故事務所に三人しか居ないのか。時間を少し戻そう。事務所の住人すべてが一階にいたあのとき、散乱した物の数々が床に散らばり、閻魔刀が母の写真に突き刺さったあのとき、髭が帰宅し殺伐とした空気が瞬く間に消し飛んだあのとき。
 肝が冷えるとはまさにこの事だと思った。世の中タイミングが悪い瞬間というのは幾つも起こり得るが、あれほどぞっとしたのも珍しい。
「何してるんだ」
 髭の問いに答える者はいなかった。彼以外の時が止まっていた。髭は片眉をあげて周りを見回し、すぐにそれに気がついた。何に対して気がついたかは誰の目にも明らかだった。表情に変わりがないのが逆に恐ろしい。
 髭は持っていた傘をおろすとゆっくり畳み、その場にドスンと突き立てた。手を離しても倒れないほど先端が床板にめり込む。それが怒りを表しているようで益々皆は凍る。主は玄関を開け放したまま歩き始め、ネロを通り過ぎ初代を通り過ぎ、落ちているフォトフレームの前で足を止めた。双子が人とは思えないようなものを見る眼で髭を凝視している。
 髭は刺さった閻魔刀を左手で握り、傷つけないように真っ直ぐ写真から抜くと、誰も見ずにこう呟いた。
「降りろ」
 それが若とバージルに放たれた言葉であるのは明白だった。二人は黙って事務机から身体をどかす、もみくちゃにされてボサボサの髪と血が飛んだ顔には悪夢から覚めたような表情が張り付いている。髭はさっきと同じように閻魔刀を床に突き刺すと片膝をつき、手が切れそうなガラスの破片に構わずフォトスタンドから丁寧に写真を抜き取った。
 一線の穴が胸に空いた母を見つめ、そのまま髭は数秒動かなかった。
 やがて写真を手にのっそりと立ち上がり、髭は棒のように立ち尽くしている双子に近づいた。見てるこっちにも緊張が走った。髭が何をするかまるで分からないし、分かったとしても止めようとはしなかっただろう。偶然とはいえ大事な写真に傷を付けた。バージルは言わずもがな同じダンテ同士なら尚更理解しているだろうし、それに対する報復が重いものになるだろうことは至極当然の考えである。次の瞬間には事務所が消えてなくなってるかもしれない、最悪そんな未来も予想した。
 髭の左手が伸びる、誰かが息を飲む。
 本当に意外だった。
 髭は二人の前に立つとぶん殴るでも懇々と怒りを伝えるでもなく、若の頭の上にポンと手を置いただけだったのだ。
「――、え」
 若が手の下で目を丸くしていた。しかしそれは皆同じである。特に、ネロと初代は髭の後ろ姿しか見れなかったので確認は出来なかったが、双子は髭の顔を見て更に驚いた様子だった。
 髭は今度はバージルの頭に同じように手を乗せると、片手に持っていた写真をバージルの胸に押しつけて強引に手渡した。戸惑った様子で促されるままバージルがそれを受け取るのを確認すると、髭はぐるりときびすを返し、
「ネロ」
「え」
「ちょっと付き合え」
「え」
 返事も待たずに髭はスタスタと玄関に戻り、傘をズボッと抜くと開け放された扉の前で広げながら、
「初代」
「え」
「しばらく頼むぞ」
「え」
 返事も待たずに髭は外に出て行った。
 何ともいえない空気に包まれた
 ネロと初代は顔を見合わせる。想像していた展開とまるで違う、とお互いの表情に書いてあった。どうすればいいのか、髭の言う通りにしたほうがよいのか。自然とすがるような目つきになるネロに初代は迷った挙げ句「行け」と顎でしゃくって促した。ここは俺がなんとかするから取りあえず追いかけろ――そう目で言うとネロは外と初代を選ぶように交互に見て、最終的にはわずかに頷くとフードを深く被りながら外に向かって走って行ったのだった。


 なので、事務所には今現在意気消沈な若と再び引きこもったバージルと双子を持て余している初代しかいないのだった。バージルに関して言えば、ネロが出て行ったすぐ後に憑き物が落ちたような雰囲気でまた二階にフラフラと戻ってしまってそれきりである。写真を持ったままだった。様子を見に行こうかとも考えたが、へたに刺激してまた暴れられても困る。結局、後片づけは初代一人がほとんど済まして、沈んだ若とサンドイッチを肴に暇を潰しているのだった。
「髭の真意は定かじゃないが…」
 ジュークボックスのつまみを回す。好みの曲が見つからない。
「あいつは俺より気分屋だからな。帰ってきたら気が変わってワンパン入れてくるんじゃないか?」
 後ろの若から嫌そうな声、
「……今更やられても嫌だ…」
「お前どっちなんだよ。殴られたかったのか? それとも延々と説教されたかったのか?」
「どっちもお断りだけど、どっちかにしてほしかった」
「は?」
 話が見えない。若が何を言いたいのか把握しかねて初代は今一度振り返る。若はあぐらから足首を組んだ体育座りに姿勢を変え、膝の上に腕を乗せて顔を半分隠していた。
「あんたのほうがどうだったか知らないけど、」
 一秒の間。
「ガキのとき、母さんが大事にしてた花の形した陶器の置き物を持って来いって言われて、バージルと一緒に運んでたんだけどさ。そんとき運びながらくだらない口喧嘩になっちまって、――どっちが先に手滑らしたか今でも分からないけど、なんかの拍子に落として割っちまったことがあったんだ。絶対に母さんに怒られると思って、すぐに見つかって、怒鳴られると思った。でも母さんは何も言わなくて、ただ頭に手を置いただけだったんだ。今までそんなことなくて驚いたからよく覚えてる」
 怒らないの? とおそるおそる聞くと、母は少し悲しい笑みを浮かべただけだった。それは普通に怒鳴られるより何倍も罪悪感を感じた。母を傷つけたのだと幼いながらに悟った。傷つくと、人は逆に怒らないのだ。
「おっさんもあのとき笑ってたんだよな……別に悲しんでたりとかそんな感じはなかったけど」
「?」
「頭に手置かれたとき」
 ああ、だから二人揃って驚いていたのかと初代は思う。
「その場で面と向かって怒られたほうがマシなんだよ、後々引きずらないからな。あんな態度取られると逆に困るんだ。後腐れなく終わればそれに越したことなくね?」
「その前に怒られることしなければ………いや、どの口が言うかって話だな」
 なるほど話が見えてきた。要するに若は、モヤモヤさせるなと主張したいらしい。言いたいことがあるなら言え、悪いのはこっちなんだから身構えるし何を吐かれようが気にしない。だが何も言ってこないのでは自分は身の置き場がない。そんな宙に浮いた状態のまま放置されるくらいなら一発ドカンとぶちかましてくれたほうがいい。――そして、そんな状況になった原因を作ったのが自分にもあるので、少なからず己に腹が立っている。
 若は正確に言えば過去の初代ではないし、初代は昔の頃の自分がどんな奴だったか詳細に覚えているわけでもない。根本は変わっていないと思うが、表面的な感情が年月と共に少しずつ変化していくのは仕方ないし、あのときこう考えていたことが今も変わらず同じままというのは経験が長くなるとどうしても食い違ってきてしまう。頑なに拒否していた事に寛容になったり、好きだったものが嫌いになったり、憎くて仕方なかった相手を許せるようになったり。何のために今まで生きてきたかを思えばダンテにそんな心変わりが出来るはずもないのだが。
 もしも自分が髭で、あのときあの立場にいたら――もう一度初代は思考を巡らせたが、改めて考えれば分かるはずもなかった。
 なので、
「取りあえず、髭が帰ってきたら謝っとけ」
 若が顔をあげてこちらを見た。サンドイッチの最後の一口を放り込んで初代はパンパンと手を払いながら、
「俺達は違う『ダンテ』だ。見た目も性格も好みも違う。が、それでも同じなんだよ。髭がなんで母さんの写真を今でも飾ってるか考えれば推して知るべしだろ。俺たちは次元が変わっても根っこは変わってねぇんだよ。写真があんなことになって髭が何も感じてないと本気で思うか?」
「じゃあなんで怒んなかったんだよ」
「そこは当の本人にしか分からんとこだが、俺が思うに、あぁ見えて年長だからじゃないのか」
「………」
「怒らない叱り方、ってのも世の中あるだろ。お前にはそれが効くと思ったんだろう。とにかくモヤッとしてんならさっさと自分で解決しろ。時間経っちまったから今更謝りづらいとか女々しいこと考えてんなら俺が今ここで代わりに殴るぞ」
 目に力を込めて言った。もし若がそう思っているなら本気で殴るつもりだった。
「………」
 若は腑に落ちないと言いたげな表情をしつつ瞳に葛藤の色があった。意地っ張りめ、と初代は思う。
 しばし二人とも無言でお互いを見ていたが、先に視線を逸らしたのは若だった。ポツリと、
「考えとく」
 そう呟いて食べかけのサンドイッチをパクパク食い始めた。さっきよりも食べるスピードが速い。話をして整理がついたのかなにがしか自分の中で折り合いを付けたのか、少しは調子を取り戻したらしい。それを見てとって初代はやれやれと力を抜いた。
 もう一度ジュークボックスに向き直り、そして、こっそり苦笑する。
 自分もお人好しなもんだ、ネロの性格が移ったのかもしれない。
 そこで、ふと思い出したように時計を見上げた。
「――つーか、あいつらどこまで行ったんだ…?」
 髭とネロが事務所をあとにしてから、軽く一時間は経とうとしていた。



********



 二秒でずぶ濡れになった。
 当たり前である。こんなどしゃぶりの中フード一つでカバー出来るほうがおかしい。しかしながら傘を取りに行く余裕も隙もなかったし、髭はお構いなしにバシャバシャ先に進んでしまうものだから事務所に取りに帰ることも難しかった。ちょっと待ってろの一言で済む話だが、それすらも言えない空気があったのだ。
 が、十分歩いても二十分歩いても目的地に着く様子がない。
 気迫に負けて黙って後ろについて行っていたネロもそろそろ限界だった。相合い傘などまっぴらごめんだが、近場じゃないのならせめて傘の下に入れてやる素振りくらいはしてもいいのではないのかと思う。おかげでブーツの中までぐっしょりである。ブランド物の傘だか何だか知らぬがそんなところに金を掛けるな、人一人も入れてやらない狭い心の持ち主には骨の折れたビニ傘がせいぜいお似合いだクソ野郎め。
 ついに口を開いた。
「おっさん! おい、どこ行くんだよ!」
 張り付く前髪を分けながら大声で前を歩く髭に向かって叫んだ。こうでもしないと雨音に掻き消されてしまうのである。
 髭は歩みを止めず無言で横顔を向けて左手を前方に指差した。まるで何も見えない。
「ジェスチャーじゃなくて! 口で言えよ!」
「もうすぐそこだ」
 大声でなくとも雨音の中をスッと通る声とあっさり返ってきた答えに思わず口をつぐむ。ここまで髭は全く喋っていなかったのでどうせ無視されると思っていたのだ。事務所での一件で奇妙な言動をした髭であるからしてその尾がまだ引いてるのかと思いきや、その口調はいたって普通だった。髭は続けて呆れたように振り返り、
「なんで傘持ってこなかったんだ?」
「ぐ」
 おっしゃる通りであるが気迫と空気に負けたとは死んでも言えない。
「いいからさっさとナビしろ!」
「我が儘なおぼっちゃまだな。ではもうすぐ着きますので今しばらく我慢願いますよネロぼっちゃん」
 振り返ってワザと恭しく胸に手を当てる男は普段と変わらぬ髭だ。傘が邪魔で微妙に表情が見えなかったがその態度にどこかホッとしている自分がいるのがまたムカつく。誤魔化すようにネロはフードを被り直し、ブーツのつま先で雨水を蹴るように進む。
 髭について更に歩くこと五分。ついに先頭が足を止めた。
「着いたぞ」
 剥き出しのコンクリートベースのビルだった。窓はあるが人がいないのか明かりは一つも付いていない。正面玄関の扉に入ると思いきや、髭はそこには入らず何故か裏手に回った。いぶかしみながらネロも後を追う。裏路地は一層暗く、隣合うように並ぶ建物が影になって、目をこらさないと自分の足元が見えないくらいだった。一体こんなところに何の用があるのか。当の髭を見れば、何かを探しているのか先程のビルの壁をあちこち触り始めていた。
「何してんだ?」
「いや、確かこの辺りに……おっ」
 髭は濡れた壁のとある部分に手を置くと、そのままグッと押し込んだ。四角い形に壁が数センチ奥に行き、どこかでカチッと音がする。
 瞬間、ネロの目の前の壁が重い音を立ててシャッターの如く上にスライドした。
 地下へ続く階段が伸びていた。
「………。用心だな」
「そういう輩向けのところだからな」
 髭は傘を畳んで石造りの階段を降り始めた。やっと雨よけになる場所に着いたとネロは思う。フードを外し、髭の後に続きながら水が滴るコートを雑巾絞りしつつ周りに首を巡らす。低い天井付近には紐に通されたランプが等間隔に左右にぶらさがっていてぼんやりと明るい。コンクリート壁の独特なツンとしたにおいが鼻につく。一番下にはチョコレート色の安っぽい扉が物も言わず行く手を塞いでおり、そこに掛けられたこれまた安っぽい木の看板には金のインクでこう書かれていた。
『ROYAL LION』
「何かの店なのか? ここ」
「入れば分かるさ。お前にはまだ早いかもしれんがな」
 そう言って髭は扉を大きく開けて中を見せるように横にどいた。途端にアルコールのニオイが漂う。どんな曰く付きな店かと思えば、光量を抑えてうっすら暗く演出されているそこは至って普通のショットバーだった。壁際に幾つかガラステーブルが並んでいるし、カウンターの後ろの棚には数々のボトルが鎮座している。が、ただのバーではないのだろうことは一般の目に触れないよう隠されているところからして容易に想像できた。
 カウンターの中でカクテルグラスを拭いていた店員らしき中年の男が来客に顔を上げ、髭を見て無言で眉を寄せた。髭はよおと軽く手を上げ、
「さっきぶりだなマスター。悪いがこいつにタオル貸してやってくれないか」
「……」
 マスターはちらりと後ろのネロに目をやると、グラスを置いて店の奥に引っ込んだ。そこでようやく客が自分達以外いないことにネロは気づく。不気味だ。
「…ただのバーじゃないだろ」
「裏の仕事を公にくっちゃべりながら酒が飲めるのを除けば、ただのバーだな」
 成る程。そういう店なら納得である。しかし、
「なんで連れてきたんだ?」
「今俺が言ったこと聞いてたか坊や? 仕事って言っただろ」
「そうじゃなくて……」
 ネロは髭から視線を外す。前髪から水滴がしたたり鼻筋を通る。緊張の一瞬。躊躇いながら、
「あんた、何でなにも訊かないんだよ」
 仕事の話なら事務所でも出来るだろうに。
 やはり先ほどのことがあって何か思うところがあったに違いない。母の写真のことがありながら、仕事云々の方向にいきなりシフトするのは絶対におかしい。わざと避けているとでもいうのか、こいつらしくもない。そんなことを思いつつ髭を直視出来ないのは、自分にも多少なりと罪悪感があったからだ。
 あのとき、否が応でも二人を止めればよかった。
 髭が何か言おうと口を開こうとし、そこでタイミングよくマスターが奥から出てきた。両手に白いバスタオルを三枚も持っており、ホテルの従業員のように丁寧にネロに差し出した。
「どうぞ」
「……どうも」
「悪いなマスター。ついでにジントニックも頼むわ」
「かしこまりました」



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