クラウスって、エッチが上手そうだよね。

他にもちゃんと色々な理由があった気がするけど、おおかたそんな理由で告白をした。
恋愛に、体の繋がりを期待するわたしは…これまでの恋愛経験を経て、完全に擦れてしまっている。その自覚はあった。
けれど、エッチだって、人間にとって欠かせない欲望のひとつでしょう?

口元に弧を描いて、わたしはソファでくつろぐクラウスの身体に伸し掛かった。
そうして男の頬に手を添わせれば、必然的に空気は甘くなる。あぁ、なんて簡単。
かがやく金色の瞳でわたしを見つめ返す彼は、どんな風に快楽を与えてくれるんだろう。
期待で胸が震えるのを抑えきれず、甘えた声でねだった。


「ねぇ…キス、して?」

「ああ……」


間近で揺れる、彼の睫毛。
触れるだけのキスが、唇に与えられた。

…こんなんじゃ、足りない。
はやく、私を押し倒してよ。

挑発するような目で、クラウスを見つめる。
すると、ばちっと合った目の奥で、やんわりと彼が微笑んだ。
その瞳になぜか違和感のようなものを感じていると、次に彼が伸ばした手はわたしの意図に反して、わたしの頭を優しく撫でさすった。
頭に触れる手が心地良い。…じゃなくて、わたしが求めてるのは、こういう事じゃないんだけど。


「前から思っていた事を、言ってもいいか?」

「…なに?」

「なまえは…もっと、自分の身体を大事にした方がいい」

「……」


なんで。
わたしはただ、早く気持ち良くなりたい。それだけなのに。そういうの、やめてよ。

今まで付き合ってきた男たちは、わたしが誘えば皆がっついて来たのに。
和やかな顔をして、相変わらずわたしの頭を撫でる彼。なんだか大人の余裕を見せつけられたようで、ものすごく悔しい。
けれど、その指摘は図星でもあって。身の置き所のなさを感じたわたしは、下を向いてグッと唇を噛んだ。


「ハハ…まぁ、そう拗ねるな。今日はなまえに、いいことを教えてやる」

「拗ねてなんか……きゃ!!?」


突然、抱き上げられた体。
わたしの体はくるりと向きを変えられて、何をされるのかと思えば、お姫様抱っこみたいな体勢にされた。
クラウスはソファに座ったままだから、背中と膝裏に手を回されて、ちょうど彼の両腕に抱えられた形になっている。


「あの…?」


わたしがドキドキと戸惑っていると、クラウスは「どうかしたか?」とでも言いたげに目を細めた。
なんでだろう。敏感な場所に、直接触れられているわけでもないのに…今更、こんなことで。彼に包まれているだけで、気持ちいいなんて。

わたしの気持ちの変化を、クラウスはお見通しみたいで。
彼が柔らかく微笑んだかと思うと、愛しげに見つめられてしまった。


彼はそのまま、わたしに何を手出しするわけでもなかった。
柔らかな風が、音もなくカーテンを揺らして。
光の漂う静かな部屋で、ただただ見つめ合って、時間が過ぎていく。それだけなのに。


…こんな風にドキドキするなんて、いつ以来だろう。

とくん、とくんと、胸が鳴っている。
ずいぶん昔に置きっぱなしにしてきた、甘い恋心を掘り起こされたみたいで、気恥ずかしさすら感じてしまう。
本当にどうしちゃったんだ、わたし。

戸惑う気持ちは、行き場が無いけど、不思議と嫌じゃなくて。
しばらくそうして、夢のような、甘くもどかしい時間を味わっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…さて、今日はここまでだ」

「え…?」

「…十分、気持ち良かっただろう?」

「……うん…」

「分かってもらえたか。なら、良かった。」


甘やかな空気にすっかりと絆されてしまったわたしには、もう、その余裕の笑みを崩す気もなくて。
ほわんと、穏やかな気持ちで、彼がわたしの体を抱き起こすのを、されるがままに受け入れていた。
まるでお姫様みたいに扱われて、柄にもなく、夢みたいだと思ってしまった。
そうしたら、自然とクラウスの顔が近付いて…。

キスをひとつ…された。
優しい口づけに、心が解かされた…その瞬間。

唇を割って、ぬるりと舌が入り込む。


「〜っ!!?」

「…、は…っ」

「あ…、ぅ、ん…!!!」


なにこれ。なにこれ。
しばらくしてようやく解放されたけど、いったい何が起こったのか、すぐには分からなくて。
涙目になって、肩で息をするわたしを、それは楽しそうに眺めているクラウス。…やられた!!


「…はは、どうした?こういう事には、慣れていると思ったが。」

「ば、ばか……!!な、慣れてるわよ!悪い!?」

「その割には、ずいぶんウブな反応をするんだな?」

「…っ…!!!」

「心配するな。今日は、ここまでにしておくから。」


フッと笑うクラウスは、完全にこの状況を楽しんでいる。最低だ。
わたしは…もしかしたら、すごく危険な人を選んでしまったのかもしれない。

けど、それに気付いたところで、いまさら彼から抜け出せるわけもなく。

クラウスと過ごす今後に、一抹の不安と、多大な期待を抱きながら…わたしは、反抗の意を込めて、彼の胸をぐっと突き放した。





[ END ]





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