失恋してから、一週間が経った。

あの日を境になまえの恋人になった、あいつにだけ向けられる笑顔を見るたびに、俺の胸はズキズキと痛んだ。
俺の方が彼女を想っていたのに。なんて子供じみた負け惜しみを頭に浮かべてた頃もあったけど、余計みじめになるだけだと気付いてからは、精一杯忘れる努力をするようにした。

そもそも、幼い頃から色々なことを我慢してきた自分にとって、気持ちを抑えるのは造作もないことだと自負していた。
だから、今回だって何てことはない、はずだったのに。

…おかしい。この感情を完全に消し去ることが、どうしてもできなかった。
原因はすぐに分かった。恋人ができたというのに、俺に接するなまえの態度が、今までとなにひとつ変わらないからだ。
消しても消しても、上から書き込まれる。一体どうしろって言うんだ。
もういっそ消すことをやめてしまったら、またこの想いが積もっていくのかな、なんて考えたけど、それができない俺は今日も律儀に忘れる努力を続けている。


「こんばんはレーガ、今日も一日お疲れさま」

「…おつかれ。こんな時間にどうしたんだ?」

「ごめんね、もしかして寝るところだった?すぐ帰るけど、これだけ…」


そう言って差し出されたのは、深紅色の包装紙でラッピングされたプレゼントだった。


「今日、レーガの誕生日だったよね?昼間は渡せなかったから。これ、よかったらもらって。」

「…サンキュ」


俺の好きな色。俺の好きな笑顔。覚えてくれていた誕生日。
なまえが俺のためにしてくれたことがたまらなく嬉しくて、それだけで心臓が甘い痛みに包まれるのに。次の瞬間には、彼女がもう手に入らないという事実に気付いて、崖から突き落とされるような気持ちになる。こんな事を繰り返してたら、心が滅茶苦茶になりそうだ。
頼むから、これ以上、上書きしないでくれ。俺はもう手一杯だ。限界だ。

目の前のなまえは、そんな俺の苦しみなんてこれっぽっちも知らないような無垢な笑顔で、俺がプレゼントを開けるのを、期待の眼差しで見つめている。

もういい加減、やめにしたいと思った。
…たとえばなまえに嫌われたとして、彼女がオレを避けるようになれば、キリのないこの想いに終止符を打つことができるんだろうか。


「…なまえ」

「レーガ、……っ!?」


逃げられないように、なまえの腰を腕で捕まえて、もう片方の手で頭を押さえ寄せて、噛み付くようにキスをする。
薄く開いていた咥内に舌を捩じ込んで、欲望のままに貪り尽くす。蜜のように甘い彼女に心が震えた。抗うように胸を押されたけど、そんな事は気にならない。
当惑する彼女の反応に満足しながら、あぁ、これで全部終わりなのかと、どこか遠い所で漠然と考えていた。

どれくらいの間そうしていたか分からず、気付けば彼女は息を荒くして目に涙を浮かべていた。


「………ごめん、なさい…、私……。」


ようやく解放したなまえの顔は、反省と後悔からか青ざめていた。
自分の行いに気付いた彼女は、きっともうここに来ることもないだろう。

…ああ、でも。

このまま手放したくない。一度我慢をやめて欲望に片足を突っ込んだ俺はもう、そうとしか考えられなくなってしまった。
俺は、抵抗する力の抜けたなまえをそのままベッドへ押し倒した。


「キスのこと、あいつに言われたくなかったら、大人しくしてろよ」


なまえの顔が絶望に染まる。
ひとたび踏み込んでしまった場所は、どうやら欲望を湛えた、底無しの沼だったらしい。



[ END ]


[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -