「おー、おつかれー!なまえ、会いたかったぜー!!」

「お疲れさま。どうしたの、何か用ー?」

「別に用なんて無くたって、会いたいものは会いたいんだからいいだろ♪レーガ、俺ホットケーキな!」

「はいはい、了解。」


レストランに入ってくるなり、フリッツのテンションは高かった。カウンター席の私の隣に座り、いつも以上の笑顔で絡んでくる親友の様子に、なにか良い事でもあったのかなと、微笑ましく穏やかな気持ちになる。


「…にしても、今日はやけにテンションが高いな。なにか、良い事でもあったのか?」


私が聞こうと思っていた疑問は、レーガによって代弁された。うん、やっぱり気になるよね。普段から彼はテンションが高いけど、今の彼の周りには音符が漂っているようにすら見える。いくら彼でも、ここまで上機嫌なのも珍しいかもしれない。


「ふっふーん、聞きたいかー?」

「…なんだよ、ニヤニヤして…」

「そうだなー、レーガには教えてやってもいいかなー」

「勿体ぶってんなよ、まったく…」

「……」

「……」

「………やっぱやーめた!簡単に教えちゃつまんないもんなー!」


…あ、レーガが「めんどくせー」って顔してる。
たぶん、今かき混ぜてるホットケーキのタネには何の感情も込められてないんだろうな。いや、むしろ怨念とか込められてるかも。

そんな彼らの様子を、兄弟のやりとりを見守る親のような気持ちになって眺めていたら、相変わらずニコニコしていたフリッツが突然こっちを向いた。ちょっと不意打ちだった。


「なぁなぁなまえ、今日この後ヒマかー?」

「…え、あ、うん。とりあえず仕事はひととおり終わってるよ…?」

「じゃあさ、俺、行きたい所があるんだ!」

「うん、いいけど。どこかな?」

「山!っていうか山頂だな!たまにはのんびり、寝っ転がったりしたいなーって思ってさ。」

「そっか、うん。私で良ければ付き合うよ。」

「やったー!デートだぜ♪」


デート。


………デートか?

レーガも私と同じ点が引っ掛かったらしい。ちらりと窺えば、やっぱり彼も首を捻っていた。
まぁ、私もリーリエちゃんと二人で遊びに行く時は、デートだ!なんて言って浮かれてたりするから、それと同じようなものなんだろう、きっと。

レーガもあまり気にしないことにしたらしく、手元のフライパンに目を落としていた。いつの間にかフライパンに広がっていたタネは、ふつふつと気泡を作っている。


「…でさ、その後なんだけど…もし、時間があったらさ…」

「……?」

「……あー!やっぱダメだ!そういう話は二人っきりになってからしよう!!」

「えっと、フリッツ…?」


今になって、フリッツがこんなにテンションが高い理由が、よく分からなくなってきた。
デートだとか、二人きりだとか、普段の彼なら言わないような言葉がぽんぽん出てくるのはなんでだろう?しかも、どうやらその対象が私みたいだから、余計に突っ込みづらい。
この状況をどう扱ったものかと、私が困惑していると、そこへレーガが助け舟を出した。


「あのさ…違ってたら悪いんだけど、もしかして、あんたら付き合い始めたのか?」

「フリッツと?…ううん、そんなことないけど…」


「……………え?」


空気が止まった。
今の今まで、あれほど幸せそうだった満面の笑みが、フリッツの顔から一瞬にして消え去った。


「……うそだろ……まさか、あれって、夢?」


「……」

「……」


私は言葉を失った。
いつもならこのタイミングで笑い出すなり、からかいの言葉をかけるなりするレーガも、さすがに声が出ないらしい。


「っっ、オレ、めっちゃ恥ずかしいじゃん…!!わるかった、忘れてくれっっ!!!」


フリッツはそう言い放って、ガタッと立ち上がると、ドアを開けっ放しにして走り去ってしまった。
…これ、追いかけなきゃダメなパターンだよね?

レーガに目配せをしたら、お代はまた今度でいいから、って頷いてくれた。感謝。

レストランを飛び出た時には、フリッツの姿は既に遠く、牧場のある山のほうへ向かっていた。
…いつだったか、誰かが言ってたなぁ。フリッツはしょうがない奴だな、って。
正直、その通りだと思う。でもやっぱり、そんな所が私もレーガも放っておけない、彼の魅力なんだろうな。

(ああ…追い付いたらなんて言えばいいんだろ)

フリッツのこと、今まで友達としてしか見てこなかったけど。彼が私を見る目は、そうじゃなかったのかもしれない。そう思うと、あるべき場所に整然と収まってた立場とか感情とかが、ぐるぐると無造作に掻き混ぜられるようだった。
一日やそこらじゃ結論を出せそうにない、難解な壁にぶち当たってしまったけど、仕方ない。
たまには細かい事は考えずに、とにかく今は彼を追いかけようと、地を蹴る足に力を込めた。




[ END ]



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