家に帰ったら嫁が裸エプロンでした
【レーガ】
「ただいま、なまえ。」
「おかえりなさい!」
「…こら、なーにしてんだ。」
「何って…裸エプロン?」
「ったく…なんでまた突然そんな事を思い付いたんだ?」
「町を歩いてたら、ジョルジュさんとマリアンさんがそれなりに熱く語ってるのが聞こえて。なんかよく知らないけど、男のロマンなんだってね、こういうの」
「あの人たちは…そんな事まで語り合ってんのか…」
「まぁ、たまにはこういう新鮮な感じなのも楽しいかなと思ったんだ。」
「そっか…色々考えてくれたんだな。サンキュ。」
「レーガにも楽しんでもらえたみたいだし、やってみて良かった。…さ、服着てご飯作らなきゃ!」
いざ台所へ、と振り返ろうとしたが、なぜか私の上半身はがっしりと固定されていて動かない。
「…あれ?レーガさん?いつから私の肩抱いてたの?」
「さぁ、いつからだろうな?」
「そしてなんで私はベッドの前にいるの?」
「なんでだろうな?」
にやりと笑っているレーガ。
…まずい。これは悪いこと考えてる時の顔だ。
「わたし、ご飯作らないと…」
「オレはまだ全然、楽しみ足りないんだけど…男のロマン、付き合ってくれるんだろ?」
「目が据わってる…!男のロマン怖い!!」
【クラウス】
「ただいま……ぶふッ!!!??」
「あっ、おかえりなさーい」
とてとてとこちらへ駆けてくるなまえは、可愛い。可愛いのだが…何故、裸…エプロンなんだ?
驚きのあまり、思わず噴き出してしまった俺は、口元を拭い、とにかく動揺を隠して聞いてみることにした。
「…どうして今日は、その…そんな格好なんだ?」
「イリスさんの本棚で読んだんです。裸エプロンは男のロマンだって。」
「…っそ、そうか…。でもな、急にそんな格好で迎えられると、びっくりするだろう。」
「急じゃなきゃいいんですか?」
「イヤ、そういう訳でもないんだが…」
「じゃあ何ならいいんです?」
…困った。
本当に何も知らずに聞いているのだろうか。
だが、彼女は俺の反応を楽しむためにわざとそんな質問をするような女性じゃない。
つまり、俺がちゃんと教えてやらないといけないのだ。こういう事が頻繁にあっては困るし。…そう、いわばこれは俺に課せられた義務だ。
「…俺は、まぁ別になまえが家でそういう格好をしていても構わない。だけどな、そんな格好だと、なまえ自身の身に危険が及ぶかもしれないぞ」
「えっ、どういう事ですか?」
「いや、その…悪い狼に…ッゴホン、つまり、そういう事だ」
「ええと…すみません、そういう事っていうのは、一体…?」
「わ、分からないか…。なら、俺が教えてやってもいいのだが…」
「……なんか、変な事考えてます?」
「いやそんなことはないぞ」
「じゃあなんで私のこと抱き上げようとするんですか」
「これは…義務なんだ!!」
「あっちょっとどこ連れて行くんですか!!っていうか義務って何!?」
【ミステル】
「お、おかえり…ミステル」
「ただいま。…しかしその格好は、一体どういう風の吹き回しです?」
「えっと、これは、その…話せば長いんだけど…。」
「…あぁ、なる程。ボクの事が待ちきれなかったんですね。」
「えっ、ちょ!そういうわけじゃなくてね…!ちゃんと理由があるから!話を聞いて!」
正直あまり聞く気は起こらず、できればこのままなまえを連れてベッドへと直行したかったのですが…裸エプロンという姿で恥じらいながら懸命に身振り手振りをするなまえがあまりにも可愛かったので、今回ばかりは仕方ない。彼女に免じて、話を聞くくらいはしましょう。
ボクがこくりと頷くと、なまえは慣れない格好に身を縮めながら、話を始めた。
「今日、リーリエちゃんの部屋でね、イリスさんとか、メノウちゃんとか、女の子みんなで集まったんだ。そうしたらさ、何して遊ぶ?ってなるじゃない」
「……」
「それじゃあ、みんなで簡単に楽しめるゲームって事で、いつ誰がどこで〜ってやつ。あれ、やってみたの。」
「…ああ、あの…紙切れに、『いつ』『誰が』『どこで』『何をした』を各々何枚かずつ書いて、シャッフルするゲームですね。」
「うん。説明ありがとう。…それでね。引いたらなんて出たと思う?」
「まぁ、この時点でなんとなく予測は付きますが。」
「『今夜』『なまえが』『自宅で』『裸エプロン姿になる』だよ!?ひどくない!!?」
「ひどいというか、すごいクジ運ですね。」
「『裸エプロン姿になる』とか書いたの、絶対イリスさんだよ!しかもなんで私だけ実行しなくちゃいけないの!?」
「…仕方ないでしょう。自分の運の無さを恨んで下さい。」
「『毎週金曜日』『ミステルが』『レストランで』『リンボーダンス』とかも出たのに!なんで私だけ!」
「……」
「……」
「…話は終わりですか?では、ベッドへ行きましょう。」
「あっいや、ミステルは別に実行しなくてもいいんだけどね!…ってちょっとタンマ!やだ、連れてかないでー!!」
【ナディ】
「……」
「あっ、おかえりー」
「…だッ……お前!!何考えてるンダ!?馬鹿か!!」
「たまにはこういうのも楽しいかなと思って。駄目?」
「だ、駄目に決まってるダロっっ!!大体、女がそんな格好で…ッ!!」
「じゃあ男だったらいいの…?」
なまえの目が好奇で染まる。
コイツ、まさかオレの裸エプロンを想像してるのか?
…やめろっオレをそんな目で見るナ!!
「…うん、やっぱり楽しい。ナディの反応」
「ったく、面白がるんじゃナイっ!サッサと服を着ろ!!」
「えー、残念…。」
「…あーもう、疲れた…!…分かったんナラ、いつまでもこっちを見てんなよ…」
「はいはい、分かりましたよ。まったく注文が多いんだから…」
ようやく諦めたなまえが、くるりと後ろを向く。
「…ッ尻を見せんな!!」
「どうすりゃいいの!?」
【フリッツ】
「あ、おかえり、フリッツ」
「ただいまー…ってなまえッ!?なんだその格好!?」
「えっと、裸エプロン?」
「っいや、そーじゃなくて!なんでそんな格好してるんだ!?」
「ああ、これはね。マリアンさんに教えてもらったんだよ。」
「…っ、あのオッサン……!!」
GJ!
…と言いたいところだけど、これはさすがのオレ様でも心臓に悪いぞ!
いやまてよ、もしかしてなまえはオレのこと誘ってるんじゃないか?
だって普通、いくら教えてもらったからって、なんの目的もなくこんなことしないよな。
うん、そうだ。そうに違いない。…だとしたら、その気持ちを汲み取ってあげるのがオレの役目なんじゃないか。
…よし、わかった。オレも男だからな。男に二言はないぜ!
「フリッツ、鼻血出てる」
「えっ」
【カミル】
「ただいまー…」
「あっ、おかえりなさい!」
「……」
ボクは何も言わず、一度開けたドアを丁寧に閉じた。
今、なにか目に映った気がしたんだけど…ここ、ボクの家で間違いないよね?
「…疲れてるのかな」
ふるふると軽く頭を振って、もう一度開けてみる。
「おかえりー、どうしたの?」
間近まで駆け寄ってきたなまえがボクの顔を覗き込んでくる。
…その、裸エプロンという出で立ちで。
「……」
「……」
「……ちょっと待って、これホントに現実なの?」
「うん…っていうか大丈夫?顔真っ赤だよ。」
「いや…大丈夫っていうか、何がなんだか、もう……」
「あれー、おかしいなぁ…レーガに教えてもらった通りにしたのに…」
「教えてもらったって…何を?」
「えっとね、旦那さんを癒す方法」
あの人はボクの嫁にいったい何を吹き込んでるんだ。
「…頼むから、今後なるべくレーガに近付かないでくれると嬉しいんだけど…いいかな?」
「うん、わかった」
「それから…とりあえず、服着よう?」
「はぁい」
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