その一、日中さんさんと輝いていた太陽は傾き、海辺をロマンチックに照らしている。
その二、海水浴に来ていた家族連れなどはもう帰ったのか、辺りに人はまばらである。
その三、繰り返される波の音が静寂を彩って、いい感じのムードを作っている。

…ということで、告白にはうってつけのシチュエーションだと思う。
今日一日かけて心の準備もしてきたはずなんだけど、それでも心拍数は上がるばっかりで、どくんどくんと全身に血が巡る音がうるさい。あぁ、少しでいいから鎮まってくれ、ボクの心臓。


ちらりと隣を盗み見ると、そこにはボクと同じく砂浜に体育座りしたなまえが、水平線を眺めていた。
ここに来る前よりも少しだけ日焼けしたのか、火照って赤くなっている顔がかわいい。
そんな彼女を、今だけはボクが独占してるんだと思うと余計にドキドキしてきて、慌てて取り繕う。緊張は失敗の元というし、万が一ニヤニヤしている所なんか見られたら、せっかくここまで作り上げたいい雰囲気がすべて台無しだ。


…そうだ。もう十分いい頃合いじゃないか。
あんまり先延ばしにしたら、思いも寄らないところでボロを出してしまうかもしれないし、言い出しづらくなってしまうかもしれない。せっかくのチャンスなんだから、そんな失敗だけは何としてでも避けたいところだ。

ボクは意を決すると、相変わらず五月蝿く脈打つ胸を左手で強く押さえながら、ひゅうっと小さく息を吸い、音を繋げて言葉にした。


「ボクは…なまえのことが、好きなんだ」


鼓動は加速するばかりだけど、想像していたよりも自然に言えたんじゃないかと思う。






…が、返事がない。
もしかして聞こえなかったのだろうか。不安になってもう一度隣に目を向ける。

すると、あろう事か、なまえは目を閉じている。

ボクは動揺した。
こういうパターンは想定していなかった。
ボクの声が耳に届かなかったのか、聞こえはしたが反応できずにいるのか…または、眠っているのか。前二つの可能性はほぼゼロだろう。だって寝息が聞こえてくるし。
ああもう、そんなところも可愛いよ…なんて、がくーっと脱力して盲目的な事を思うも、しかし一体この状況をどうしたものか。

発した言葉はすぐに空気に溶けて消えてしまったけど、まだすぐそこに漂っているような気がして、なんだかこの場に居るのがとても恥ずかしくなってきた。
欲を言うなら今すぐ帰りたい。だけど隣で眠る彼女の安息を邪魔したくない。かと言って、彼女をこの場に残したままどこかで気分転換、なんてわけにもいかない。

ボクは頭を抱え、葛藤しながら、刻一刻と時間は過ぎて行った。





結局、ボクはどうしても彼女を起こすことができず…そのまま夜になってしまったので、仕方なく彼女の肩を揺すろうとそっと手をかけた。

…が、いざ起こそうとなったとき、ある考えが頭に浮かんだ。
起こす前にもう一度だけ、彼女の寝顔を見ておきたい。それくらいは許されるはずだ。
起きやしないかとドキドキしながらうつむいた彼女の顔をこっそり覗き込むと…静かに眠っている。
まるで、天使のようだった。すぅすぅと寝息を立てる彼女に、胸がきゅうっとなって、つい口から言葉が零れていた。


「なまえ…すき、だよ……」

「………んっ……?」


あるはずのない返事が、返ってくる。
ゆっくりと顔を上げて目をぱちくりとさせる彼女の様子に、サッと血の気が引くのを感じた。


「………」

「………」

「……なまえ、起き…たの?」

「いっ、いま起きた…けど……」

「………」

「……夢、……かな?」

「………」

「………」

「……夢じゃ、ないと…思うよ?」


ああ、悩んで悩んで悩みまくって立てた計画が水の泡だ。なんてカッコ悪い結末なんだろう。
がっくりと肩を落としていると「嬉しいな…」なんて言葉が降ってきたものだから、聞き間違いかと思って、弾かれたようになまえの顔を見る。


「その………えっとね、わたしも、カミルが…すき、です」


自分のしてしまった事と、思わぬ彼女の反応に思考が追いつかなくなる。
たまらず、「あー…」と呟いて空を仰げば、そこには満天の星空が広がり、それはロマンチックなシチュエーションに違いなかった。






[ END ]



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