(スカートよし、肩紐も…よし!変なところ、ないかな…?)

念のためパットとサポーターももう一度チェックし、鏡の前でもう一回転。
…よし、我ながら完璧だ!鏡に映ったビキニ姿の自分を、頭のてっぺんからつま先まで最終チェックし、うんうんと頷く。

なにせ、今日は大勝負の日なのだ。
ちょっと大胆な水着を選んで、色気が出るように髪型にもこだわって。出来る事は全部やったから自信がないわけではないけど、それでもちょっと不安だったりする。
だって、超が付くほど鈍感なフリッツのことだ。似合ってんなーアハハ的な感じでアッサリ流されてもおかしくない。
…というかたぶん町じゅうの人に私の恋がバレてる感じなのに、当の本人だけが気付いてないってある意味すごいと思う。
だから、今日こそ…この勝負下着ならぬ勝負水着で、私のことを意識してくれますように。それが、今日一番の目的だった。


よし、いざ出陣。意気込んで更衣室から出ると、フリッツは既にベンチに座って、スイカのビーチボールに空気を入れて膨らませているところだった。
当たり前だけど、彼も水着なのだ。普段よりも露出度の高い格好に、ドキドキしながら声をかけた。


「ごめん、お待たせ!ボールありがとうね」

「…うぉっ!なまえ!?いきなり声かけられてビックリしたぜー……」


顔を上げたフリッツと目が合って…一瞬、離せなくなってしまった。
なんだこの空気は。なんだこのドキドキは。慌てて目を逸らしたけど、いくらなんでも不自然すぎたかもしれない。


「あ…じゃあ、早速だけど、う…海入ろうぜ!海!!」

「そ、そうだね!暑いしね!!」

「もー、あっちーな!夏ってカンジだな!」

「そ、そうだね!夏真っ盛りだしね!!」


海水浴場に溢れる人の波を縫って、そのまま海にドボン、といこうとしたら、フリッツが大声で「あっ!!」て言うものだから、反射的に立ち止まってしまった。


「やべー忘れてた!準備運動しねーとな!!」

「あ、そっか!足つったりしたら怖いもんね!!」

「いくら天才なオレ様でも足がつったらな!犬かきで生還できるけどな!!」

「さすがフリッツ!!」


人間、テンパるといつもよりツッコミのキレが増すものなのか。初めて知った。
フリッツもたぶん、私のこと意識してるみたい…だけど、それ以前に自分に余裕がない。まさか自分がこんな風になるなんて、思ってもいなかった。

準備運動を早々に終わらせた私たちは、今度こそ海に入った。
ようやく水の中に身体が隠れて、密かにホッと胸を撫で下ろす。

…けど、気まずい。
フリッツはフリッツで極力私の方を見ないようにしてるみたいだし、私も私でさっきから気を紛らわすために水面を手でぱしゃぱしゃと泳がせている。
当たり前だけど、今日一日ずっとこんなのは…嫌だ。
元通りになってもいいから、何とかしたい。そう思ったけど一度意識してしまったものは変えられず、いいアイデアも出てこない。

出口のない迷路に入り込んでしまったような感覚に俯いていると、突然フリッツが声を上げた。


「あー!!やっぱだんまりとかオレの性に合わないから正直に言わせてもらうぜ。」

「えっ、あ、うん、」

「なまえがさ…その、すげー綺麗でびっくりしたんだ。普段、こんな格好なんてしないしな。」

「……」

「だから俺、緊張しちゃってさ。なんだかよく分かんないけど…でも、せっかく海に来たんだし、オレ、なまえとたっぷり遊んで帰りたいんだ!」


そういうわけだから…なんだ…とモゴモゴ言うフリッツを見てたら、やっと肩の力が抜けてきて。
こんな素直でまっすぐなフリッツだから好きになったんだなぁと、微笑むくらいの余裕が出てきた、その時だった。

背中に衝撃が走る。
人がぶつかったのだと気付いたのは、押されてフリッツの胸に飛び込んだ後だった。

ぶつかってきた男性が「スンマセン!!」と、割と申し訳なさそうに声を上げるのを、どこか遠いところで聞いているような気がした。



「あ…えと、その……」


見上げれば、間近にフリッツの顔があるわけで。
突然の至近距離で、肌が、その…密着してて、ありきたりな表現だけど、心臓がばくばくと爆発しそう。


「ご、ごめん。いま、離れるね…」

「お、おう…」


一体なんなんだ今日は…。
と思ってふと気付く。今のアクシデント以外は、元はといえば自分で仕組んだことじゃないか。

そう考えたらなんだかおかしくなってきてしまった。
フリッツに意識させる!なんて意気込んでたのに、いざこの場に来てみたら私だって緊張しまくりで。
私もまだまだだなぁ、と思って笑いがこみ上げてくる。


「…ふふ」

「…?」

「なんでもないよ。ねぇ、フリッツ、さっきフリッツも言ってたけど、今日はたっぷり遊んでいこうよ」

「…お、おー、そうだな!そうと決まりゃ、さっそく波打ち際まで泳ぎで競争だ!」

「えっ、ちょっと待って急展開だよ。競争ならとりあえずそのボールは置いてこなきゃ」

「こいつはハンデでいいぜ!!オレ様の華麗な泳ぎを見て驚くなよ!!とりゃー!!」

「あっ、ちょっと、フライングだっっ!!」



気を取り直した私たちは、夕暮れまでたっぷりと海を満喫した。
結局、告白とかそういうロマンチックな展開にはならなかったけど…。
この日を境に、フリッツからの視線がなんとなく熱っぽくなったように感じるのは、私の努力の賜物って事にしてもいい、よね?





[ END ]



[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -