再び外に出ると弱々しく降っていた雨は止んでいた。
灰色の空を見上げていた弥生は湿気を帯びた一陣の風に瞼を閉じてやり過ごす。次に瞳が映した光景は九兵衛と四天王、そして彼らの後ろに控える大勢の門下生である。


「では、勝負の内容を説明しよう。
君達の側から無理矢理押しかけてきたんだ、ルールは柳生流に従ってもらう。異存はないな?」


九兵衛の主張を銀時達は素直に呑む。勝負と聞いて何故かオセロの話をする近藤と神楽だが、九兵衛は相手にせず淡々と語り始めた。
勝負の内容はこうだ。
柳生の敷地を舞台とした七対七のサバイバル戦。首級に見立てた小皿を身体につけ、割り合って競う。皿が割れた者はその場で合戦から退くこととなる。
この一戦で勝敗を決するのは大将となる者の皿である。いくら多くの皿を割ったところで大将が生き残っている限り勝利とはならない。反対に、多くの仲間が残っていようが大将の皿が割れてしまえば敗北となる。
以上がこれから行う合戦勝負の規則だ。しかし九兵衛が説明した中には戦法に関する縛りが一切ない。


「大勢で一人を囲もうが逃げ回ろうがいいってわけかィ。まるで喧嘩だな。
いいのか?型にはまった道場剣法ならあんたら柳生流に分がある。俺達ゃ喧嘩なら負けねーよ」

「これは柳生流に伝わる合戦演習。我々は年に一度これをとり行い、士気を高め、有事の際幕府がため戦にはせ参じる準備を整えているんだ。
柳生流がただの道場剣法でないところをお見せしよう。君達の誇るその実戦剣法とやらを完膚なきまで叩き潰して全ての未練を完全に断ち切ってやる」


攻撃的な九兵衛の発言に銀時達の苛立ちは募っていく。ここでも近藤と神楽の二人が負けじと九兵衛に食って掛かる。二人の異論は人数にあった。自分達が七人に対し、柳生側に見えるのは五人。もともと勢いだけで喋っている二人はこちらが優位であると気付けば、威勢は空回りに終わる。


「先に宣言しておこう。僕とこの柳生四天王、ここにいる門弟のうち一人の中に大将はいない。我等の大将は既にこの屋敷のどこかにいる。我々を相手にせずそいつを倒せば勝てるぞ」


思いがけないカミングアウトは銀時達を大いに優勢とした。
敵に示唆など、あまりに浅慮すぎるのではないか。


「なにを…」

「あっと君等は教える必要はないですよ。精々私達にバレないよう気を配ってください。
どのみち私達はあなた方の皿を全て割るつもりなので大将が誰でも関係ありませんから」

「「「あんだとォォコルァァァ!!」」」


東城の言葉で苛立ちは頂点に達した。
彼らは己の剣の腕に絶対的自信があるのだ。天下の柳生流に勝る剣術などありはしないと。それが彼らの余裕にも繋がっているのだろう。
どこまでも自分達を見下げている柳生の面々に腸が煮え返る思いを抱えて銀時達もその場を後にした。


*****


結城はちらりと背後を見遣る。
同じように背中を向けて歩いていく弥生は亜麻色の髪の少年と戯れていた。少年の腕と胴体に首を挟まれている彼女は歩きずらいのか、抜け出そうともがいている。そこへ白髪の男が少年の頭を叩いて押しやり、追撃でチャイナ服の少女が蹴り飛ばすとようやく弥生は解放され、少年は近くを歩く黒髪の男にぶつかった。両手で首をさする弥生を最後に結城は視線を戻す。
かなり離れた所まで来たというのに、鼓膜は未だに彼らの怒鳴り声を捉えていた。


「血気盛んな連中だねェ、後で吠え面かくことになるっつーのに。オイどうだ?誰が一番多く皿割るかバトるか?」

「またお前は幼稚なことを」

「ならばケチャップ一週間分を頼むぞ全身男性器」

「当たり前のようにそう呼ぶのやめろ!つーか何お前が一番多く割って俺が最下位みてーな感じで言ってんの!?始める前から勝手に位置づけてんじゃねェ!!西野、お前も何か言ってやれ!」

「北大路、一日の消費量を教えとかなければどのぐらい買っていいか南戸も困るだろ」

「一日三本の計算でいいぞ」

「だから俺が下位前提で話を進めてんじゃねーよ!いらねー世話焼いてんな!」


軽快に言葉を交わしながら前を行く三人は、これから決闘を行うようには見えない程に自然体である。自身の胸中は乱れっぱなしだというのに、落ち着き払った彼らの態度は流石だと結城は称賛する一方、不安に駆られる。
彼らは強い。柳生に仇なす者は女子供だろうと容赦しないだろう。それがひどく結城を焦らせていた。


「ところで若、私達の他にあと一人は如何いたしましょう?」

「そうだな…」


稽古場の前に戻って来た所で東城が九兵衛に問うと、周りにいる仲間が次々に名乗り出る。勇猛な男達に益々急き立てられた結城は人垣をぬって九兵衛の前に出ると地に膝をつき、勢いよく頭を下げた。






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