「相変わらずの死んだ目と眠そうな面下げてんなァ」


街中を歩く銀時と弥生の二人にそう声をかけてきたのは土方だ。
他にも、彼と同じ服装の人間が至る所で目につく。
視界に入れないよう、入っても見なかった事にしていた銀時だったが思わぬ人物との遭遇に顔をしかめた。


「そーゆう土方くんは相変わらず瞳孔全開だなァオイ。何で開いてんの?恋か?恋でもしちゃってんのか?」

「何で恋限定なんだよ。うるせーほっとけ」

「じゃあほっときまーす」


だるそうにそう言うと二人は土方の横を通り過ぎる。が、何故か弥生は道着を引っ張られ、制止される。突然止まった弥生に銀時は振り返ると、心底不快そうに眉を寄せた。


「ちょっと何〜土方くーん。ナンパなら他の娘にしてくんな〜い」

「昨日の夜。総悟が桂を見つけたらしいが逃したみてーでなァ。この辺りにいるらしいが、なんか知ってっか?」

「知る訳ねーだろんな事。俺達は一般市民ですよォ?テロリストの動向なんざ知るかバカ」

「テメーは桂と関わりがあったからな。おまけにコイツは意味もなく刀ぶら下げてるしよォ。お前保護者ならこんなモン持たすなバカ」

「うるせーないいじゃねーか刀の一本や二本ぐれー。てめェの腰にもついてんだろ。それにどっかのチンピラ共がテロリスト逃したとか言うし?近頃物騒だから女の子はこのぐらい武装させといた方がいいんだよ死ね」

「俺は幕臣だからいいんだよ。だがコイツはどーだ。幕臣でもなけりゃ攘夷志士でもねェ。そんな奴が無意味に刀持ってたら質の悪ィ浪士に絡まれて斬られんぞお前が死ね」

「平気だろ今こうして生きてんだから。つか、いい加減弥生離してくんない?俺達に絡んでる暇があんならその質の悪ィ浪士しょっぴいてこいマヨ方」

「土方だボケ。テメーに言われねーでもやってらァ。どっかの営業屋と違って年中無休で仕事詰めだからな」

「ったりめーだ。市民が税金支払ってやってんだから当然だろーが」

「テメーに当然とか言われたくねーんだよ。大体テメー税金支払ってんのか?払ってねーだろ。そんな奴が俺達に指図すんな」

「なんだと?こっちだってなァ…」

ごぎゅるるるぅ…


終わりの見えない言い争いにピリオドを打ったのは二人の間にいる弥生の腹の音だった。


『お腹空いた…』

「ホレ見ろ。てめェが離さねーから弥生が腹空かせちまったじゃねーか」

『ぎん、ラーメン食べに行かないの』

「もともと飯食いに行く途中だったんじゃねーか。俺のせいにすんじゃねェ」

『早く行こ』

「…弥生ちゃん少しは空気読もーぜ。お前ホント自由すぎるわ」

「自由すぎんのはテメーも同じだろ」


ようやく土方は弥生の道着を手放すと懐からある物を取り出し、弥生へ手渡す。


『…マヨ』

「そいつは詫びだ。腹減ってる所引き留めて悪かったな。これから飯食いに行くんだろ?それぶっかけて食ってみ。新境地開けっから」


弥生の手の中にある物を銀時はわし掴むと、遠く空の彼方へと投げ飛ばす。


「てめェェェ!!なんて事しやがんだゴルァァァ!!今スグ拾ってこいお前ェェ!!」

「うるせェェ!!おめーの偏食を弥生に押し付けてんじゃねェよコレステロールの塊がァァ!!」

「ただ美味い食い方教えてやっただけじゃねーか!!マヨネーズはなァ!何にでも合うよう作られてんだぞ!!バカにすんじゃねェ!!」

「バァァアカ!!お前がバァカ!!それバカの考え方っ!てめェの舌が勝手にベストマッチしてるだけだろーが!全員がおめーとおんなじ味覚だと思うなボケ!」

『お腹…空いた…』


もう一度鳴った腹の音は二人の怒声で掻き消され、北斗心軒に辿り着くのは数十分後の事だった。










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