いつまでもあの状態の万事屋を放置しておくわけにはいかない。
しかし、金がなくては大工は雇えない。
一銭も持たない銀時達は自力で直しにかかるが、さっきから神楽の指が潰れる音と、その八つ当たりで崩壊している家を更に破壊させる音が絶えないでいた。
いつまで経っても直る兆しが全く見えない万事屋。
弥生もまた、自身の寝床を直そうと、睡魔と戦いながら一生懸命釘を叩いているがいつまで経っても埋まらずにいた。


「ぴんぽーん」


不器用な連中に諦めかけた時、突如聞こえた肉声の呼び鈴に転機がおとずれた。















万事屋に届いたのは二通の手紙と二つの荷物だった。
とりあえず、手に取った手紙を読んでみる。
差出人は辰馬からだ。
手紙の内容は、昔、銀時が茨木という人間の名を間違えて呼んでいた事への注意が書かれていた。
自分は文中に銀時ではなく、金時と書いておきながら。
そしてP.S.に家を壊した事への謝罪。続けて「手紙にP.S.って使いたくなるね(笑)」と。


「笑えるかァァァァァ(怒)」


反省のみられない、どうでもいい内容の手紙を銀時は怒りまかせに引きちぎった。


「人の家壊しといてP.S.ですませやがったよ!自分も人の名前間違えてるしよォォ!よしんばP.S.が世界平和を願うという意味だとしても許せねーよコレは!」

「類は友を呼ぶアル」

「友達じゃねーよこんなん!死んでくんねーかな、頼むから死んでくんねーかなスゴク苦しい死に方してほしい」

「おちついてくださいよ銀さん。弥生ちゃんの手紙はなんて書いてあったの?」

「ケッ、どうせまたくだらねー内容だろ死ね」

「まァまァそんなカッカッしないの金ちゃん」

「殺すぞ神楽」


二つのうち、もう一通は弥生に宛てたものだった。
既に読んでいる弥生の手から銀時は紙をひったくり、三人は文面に目を落とす。





―――弥生ちゃん

地球は寒さ厳しい冬ですが、いかがお過ごしでしょうか。
ちゃんと身体を温かくしていますか?風邪には気をつけて下さい。
僕の方は毎日快適に宇宙を飛び回っています。
いつか弥生ちゃんを僕の船に乗せて、宇宙からの地球や色んな星を見せてあげたいです。

さて、本題へ移ります。

先日、金時君に会いに行った時、僕の不注意で弥生ちゃんの大切な物を壊しちゃってゴメンなさい。
お詫びに、宇宙一と称されている物を贈ります。
気に入ってくれるととても嬉しいです。

それと僭越ですが、弥生ちゃんに似合いそうな着物も贈りますね。
いつか、僕が贈った服を着て会える事を楽しみにしています。

では、お元気で。

坂本辰馬


P.S.いつお嫁に来てくれる?―――





「ふざけんなァァァァァ!!!」


人の手紙を自分の時よりも細かく破り捨てる銀時。


「何だコレぇぇぇ!!何だよこの差は!何で弥生にはちゃんとした謝罪文なんだよ!何で俺は俺の名前間違えてる奴に注意されんだよ!いばらぎ も いばらき も大して変わんねーよバカヤロー!!」

「おちついてくださいって銀さん」

「おちつけるかァァ!!しかもP.S.の内容なんだよ!!こんな理不尽な奴に嫁がせるかァァ!!」

「もうすっかり父親面ですね」

「オイ弥生、殺人予告文書け。お前が書いた方が奴の精神崩壊させられっから
その次は肉体滅却だ」

「どんだけ怒り狂ってんの」

『おおおお』


突然の抑揚のない歓声に二人の視線は弥生へ向く。いつの間にか荷物の封を開け、中身を取り出していた。彼女の手にあるのは…


「良かったアルナ弥生、新しい枕ヨ」

『うん』


そう、枕が抱えられていた。前回の枕同様、いや、それ以上の肌触りや感触に弥生はご満悦のようだ。


「…オイ、まさか弥生の大切な物って枕じゃねェよな」

「何言ってんスか今更。命の次に大切って豪語してたぐらいですよ。キャラ崩壊してまで取り返しに行ったほどですよ」

「いやいや違うよ絶対。だってよォ、家と枕、破壊されたらどっちが大変かってオメー、馬鹿でも解るよ」

「解らなかったんでしょうね。だから弥生ちゃんに嫌われないように謝罪文送ったんでしょ」

「マジで死ねばいいのにアイツ。どこか遠い所で」

「やめてください既成ですよソレ」

「見て見て銀ちゃん」

「あ゙?」


不機嫌を声に表しながら振り返れば、そこには何故か警官の制服姿の神楽が。しかもショートパンツが異常に短い。


「似合うアルカ?」

「何だお前そのカッコ」

「ホラ、手紙に書いてあったじゃないですか。弥生ちゃんにって服を…」

「弥生いらないって言って私にくれたヨ。これもこれもこれもみーんなくれたネ!」


次々と銀時達に見せる服はどれも普通の物がない。まるで…いや、完璧コスプレ衣装だ。


「よし、これ売って金にすんぞ」

「賛成です」

「やーヨ!コレみんな私の物アル!何勝手な事言ってるアルカ!」

「オメーにはチャイナ服っつー立派なコスプレがあんだろ」

「たまには違う服も着たいネ。オシャレは女のステータスヨ」

「こんなコスプレでオシャレもクソもねーよ。とりあえず弥生、お前コレ着て見せてみろ」

「何がとりあえずだよ。何自分の好みの服着させよーとしてんだよ」

「せっかくじゃん。見てみてーじゃん。弥生のナース姿」

『いらない』

「いらねーじゃなくて着てみろっつの」

『めんどい』

「お前女なら少しはこーゆーもんに興味示せよ。神楽を見習え」

『神楽、これもあげる…』

「キャッホォウ」

「諦めましょう銀さん」


銀時から手渡されたナース服を神楽へ渡す弥生に、新八は首を振って銀時の肩へ手を置く。気を取り直し、今度はずっと放置していた銀時の荷物の封を開ける。
金持ちの辰馬から送られた物だけあって、期待しながら開けてみれば


「どーも」
「この度はデリバ…」


銀時は勢いよく蓋を閉めた。


「あーコレ夢だなオイ。支離滅裂だもん。ありえねーもん」

「ちっちゃいオッさんが入ってたヨ。ちっちゃいオッさんがしきつめられてたネ」

「いやいや今の人形でしょ?人形ですよ」


箱の中身が意味不明すぎて戸惑う三人。
もう一度中を見るが、やはりちっちゃいオッさんが今度は青筋を浮かべながら睨みつけている様に銀時は箱を蹴り飛ばす。


「ウソウソ、夢だ夢」

「ちっちゃいオッさんの悪夢にさいなまれてるんですよ、僕ら」

「じゃあ解散…目ェ覚ましたらもっかいミーティングな」

『「「うース』」」

「「待たんかィィィ!!」」


去りゆく銀時達へ声をかけたのは、叩き付けられた壁からはい上がったちっちゃいオッさん二名。
彼らは辰馬の依頼で万事屋を直しに来たデリバリー大工のウンケイとカイケイだ。
だがあまりにも小さすぎる身長に本当に大工かどうか疑わしい。
そんな彼らに大工二人はあのターミナルの建設に携わったのだと言う。
もう自分達では修復不可能な万事屋を直して貰おうと新八は提案すると、おもむろに銀時は落ちていた金づちを拾う。


「こんな言葉しってるか?茂吉っていう偉い大工が言った言葉でよォ、よくしゃべる職人にロクな奴はいねーって」


そしてその金づちをウンケイへと投げ渡す。


「口で語る術をしらねェ奴を職人という。ゆえに職人は腕で語る。おめーらはどっちのクチだ?」


そもそも茂吉という人物は今さっき銀時が作った架空の人物なのだが。


翌日。

あの無いに等しい万事屋が一晩ですっかり元通りになっていた。
しかしただ戻っただけでは満足しないのが銀時だ。
次々とありもしない注文をつけ、その度に茂吉の名を出し、即興で作った空想話を聞かせ、ウンケイカイケイの大工魂に火をつける。
そしてもはや万事屋の原形すら留めていない形を注文した結果、爆発して空を飛んでいってしまったのだった。


「…誰か茂吉を呼んでこい」










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