テレビから流れる軽快なリズムと歌に合わせ
「カトケンサッンッバァァァ!!」
テーブルにある鍋がひっくり返りそうになる程の勢いで足を乗せ、ポーズを真似る神楽。
「ウフフ、神楽ちゃんいい加減にしなさい。アツアツのおでん顔にあびせられたいの」
穏やかな笑顔で脅しをかける妙に神楽は冷汗を浮かべながら、おとなしくコタツへ戻る。 今年もあと数時間で終わり、新年を迎える。 まだ家が直っていない為、志村家で年を越すのだが
「それにしても遅いな、銀さん。ジャンプ合併号買いに行ったっきりですよ。また事故って記憶喪失になってるんじゃないだろうな」
「どこぞの娘と合併でもしてるんでしょ。ほっときなさい」
「カトケンサッンッバァァ!!」
ガシャン
「神楽ちゃん、アツアツのチクワ鼻につっこまれたいの」
再び踊りだした神楽へもう一度脅しをかけると、隣の部屋の襖を開け、爆睡している人物へ声をかける。
「弥生ちゃん、おでんできたわよ。食べない?」
妙の声に寝返りをうつも、聞こえてきたのは心地良さげな寝息。
「弥生ちゃん、いい加減起きなさい。アツアツのおでん顔にぶっかけられたいの」
鶴ならぬ鬼の一声にむくっ、と弥生は起き上がる。 居間の明るさに眉を寄せながら、神楽の隣へ座りコタツに潜る。
「おはよう弥生ちゃん。今日はよく眠れたんじゃない?」
『ん…まだ寝足りない…』
「新ちゃんから聞いてたけど、ホントによく寝るのね」
今日の弥生は昨晩からずっと寝通しだった。それはこれから行く参拝の為だ。
「新八ィ、そのサンパイって何アル?カンパイの新しい掛け声アルか?」
チクワを口に放りながら神楽は疑問を尋ねる。 天人である神楽は日本で過ごすお正月は初めてなのだ。
「参拝っていうのはこれから行く神社でお参りする事だよ。家族の健康や安全を願ったりね。受験生なんかは合格祈願とかもするよ」
「三食毎日のりたまかけたご飯食べたいって願えば叶うアルか?」
「そうね。でもそれは神様にお願いするより銀さんに頼んだらどうかしら」
『…無理』
「あら?どうして?」
「のりたまは高いからダメって銀ちゃん言うネ」
「しょうがないよ。銀さんは貧乏神に好かれてるから」
そんな他愛のない話に談笑しながら、鍋にあったおでんはいつしか空になっていた。
流石、大晦日というだけあって神社は大勢の人々で混雑していた。 冬の夜は寒さも厳しい為、完全防寒し、歩くカイロこと定春の背に弥生は俯せ賑やかな神社を眺めていた。
「あ」
ふと、新八は足を止め腕にある時計に目を落とす。 そしてゆっくり顔をあげ、微笑んだ。
「明けましておめでとうございます」
「ふふ、おめでとう新ちゃん、神楽ちゃん、弥生ちゃん。今年もよろしくね」
「おめでとうネ!」
『おめでとー…』
「一人いないけど、まァ後でいいよね」
「全く、あのプー太郎は何やってるネ」
一緒に新年を迎えるはずだった人物に悪態をつきながら、賽銭箱の前へ並ぶ。 弥生も定春から降り、ポケットから小銭を取り出すとその中に入れ、皆と一緒に手を叩く。
目を閉じ、願う事は
今年も良い睡眠がとれますように、と。
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