あれから数日が経った。
家が壊れてから、弥生と神楽は新八の家で寝泊まりしている。
居心地が悪い、というわけではないが


「弥生〜」

『ん…』


半壊した万事屋の中で、酢昆布を口に入れながら応答する。


「銀ちゃん…何処にいるアルか」

『…さあ』

「銀ちゃん…今何してるアルか」

『…さあ』

「銀ちゃん…戻ってこないかな…」

『……』


訪れた沈黙を埋めるのは、ポリポリと酢昆布を噛む音だけだ。


「弥生ちゃん、神楽ちゃん」


声をかけたのは新八。名を呼ぶも、二人の反応はない。


「またここに来てたの?この家いつ崩れるかわからないから危ないって言ったろ。
さっ、ウチに戻ろう。姉上も定春も待ってるよ」


二人は動かない。返事もなく、ただ酢昆布をかじる音だけが響く。その音が新八のカンに障った。


「いい加減にしろォォ!!ポリポリポリポリポリポリぃぃぃ!!ダブル堀さんかお前らはァ!!
こんなに酢昆布買いこんで何するつもりだ!!」


弥生が座る机の中心には大量の酢昆布。その量を新八は暫く見つめ


「銀さんが帰ってくるまで、ここで待ってるつもりなの?」


答えない。相変わらず酢昆布を食べる音が途絶えないが、それが肯定を意味している事を新八は理解していた。


「…お医者さんが言ってたよね。人の記憶は木の枝のように複雑に入り組んでるって
だから木の枝一本でもざわめかせれば、他の枝も動き始めるかもしれないって…
でも…もし、木そのものが枯れてしまっていたら
もう…枝なんて…落ちてなくなってしまっているかもしれない。
僕らみたいな小枝なんて…銀サンはもう…」

「枯れてないヨ」


いつもの声色で、でも強く、神楽は新八の言葉を否定した。


「枯れさせないヨ。
私達、小枝かもしれない…でも、枝が折れてしまったらホントに木も枯れちゃうヨ
だから私、折れないネ。冬が来て、葉が落ちても、風が吹いて、枝がみんな落ちても、私は最後の一本になっても折れないネ
最後まで木と一緒にいるネ」

『…私達、そう簡単に折れるような小枝じゃない…』


二人の言葉に新八は微かに溜息をつくと、弥生と同じように机に座り、酢昆布をかじる。


「…ハァー
ホントに戻ってくるんだろーな、あのチャランポラン
早くしないと僕ら緑色のウンコ出るようになっちゃうよ」


次の瞬間、酢昆布を勝手に食べた報いから神楽の鉄拳が飛んできた。
新八を助ける事も、神楽を止める事もせずに弥生は傍観していると


「オヤオヤ、うるさいのがようやく消えたと思ったらまだいたのかィ?」


やって来たお登勢はくわえていたタバコを取ると溜息に似た形で煙を吐き出した。


「困るんだけどねェ。こんな事になった以上、さっさと二階とりつぶしちまいたいからさァ」

『…お登勢』

「待ってヨ。私達、必ず銀ちゃん連れ戻してくるから」

「連れ戻すって、野郎の居場所もしらないのにかィ?」


もっともだった。何も言えず、目を伏せる神楽と新八に一枚の紙がふってくる。


「そこの住所にある工事で、最近白髪頭の男が住みこみで働いてるそうだ

さっさとひきずって来な

たまった家賃、払ってもらわないと困るんでね」

『…ありがと、お登勢』


去り行く彼女へ感謝し、書かれた住所と地図を頼りに訪れた場所は爆撃の止まない工場。
大きく穴の開いた壁からは巨大な砲筒が飛び出し、それから発射された光線は地面をえぐり、辺りをさら地に変えた。


「見たか、蝮Zの威力を!
これがあれば江戸なんぞあっという間に焦土と化す
止められるものなら止めてみろォォ
時代に迎合したお前ら軟弱な侍に止められるものならよォ」


撃ったであろう人物の罵声を嫌でも耳に入れながら、探していた男のもとへ彼女達は足を動かす。


「さァ来いよ!早くしないと次撃っちまうよ
みんなの江戸が焼け野原だ!
フハハハハ、どうした?体がこわばって動くこともできねーか
情けねェ…」


そして彼の前に庇うようにして立つ。


「どうぞ撃ちたきゃ撃ってください」

「江戸が焼けようが煮られようが知ったこっちゃないネ」

「でもこの人だけは撃っちゃ困りますよ」


突然やって来た二人に男は、そして銀時は驚愕する。
看板に縛り付けられ、地面に俯せる銀時は二人の背中に疑問を投げかけると、双方から踏んずけられる。


「オメーに言われなくてもなァ
こちとら、とっくに好きに生きてんだヨ」

「好きでここに来てんだよ」

「「好きでアンタと一緒にいんだよ」」


銀時には分からなかった。
記憶を失う前の、不真面目な自分が好かれ、注目されることに。
一緒にいたいと思われることに。








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