人生、何が起こるか分からないとはよく言ったものだ。 それは自分自身に限らず、身近な人にも言えること。 まさか銀時が事故を起こすとは。いや、常日頃事故だらけのようなものだが。
「弥生ちゃん…大丈夫?」
銀時が運ばれた病院で、彼をはねた男をボコるお登勢と神楽を眺めていると、何故か自分にいたわる言葉をかけてきた新八に弥生は首を曲げた。
『今日も眠いよ…』
「いや、そうじゃなくて」
本人が言う通り、今にも閉じそうな紫の瞳。だがその色は不安気に揺らいでいるように新八は感じた。 やがて手術中のランプが消え、看護士の怒声を合図に四人は一斉に銀時のいる病室へと押しかける。 その後を弥生はマイペースに続き、ベッドの上で茫然としている銀時の姿を視界に入れる。
それぞれが銀時へいたわりの言葉をかけていると
「…誰?」
「え?」
「一体誰だい君達は?僕の知り合いなのかい?」
誰もが言葉を失った。
医者の話によると、怪我はたいしたことはないが頭を強く強打したのが原因で記憶喪失になってしまったらしい。 皆の事はおろか、銀時自身も忘れているみたいだ。 人の記憶とは木の枝のように複雑に絡みあっているとのこと。 その枝を揺らすべく、幸いにも退院できた銀時を連れ、家へ帰る。 職業である万事屋の看板を見上げるが、やはり思い出せずにいた。 続いて銀時という人間の事を話せば、記憶を取り戻す意欲を削いでしまった。 どうしたものかと新八はお登勢に提案を求めると、江戸を回ってこいと彼女は言う。 きっかけはそこら中にあると。
「それにしてもホント、別人アルな」
「うん…口調も顔つきも違うからね」
「あんな銀ちゃん、銀ちゃんじゃないネ。変な気ィ使いすぎてストレス溜まるアル」
「ストレスって…ってゆうかさっきから何だろ?」
「何って何アルか」
「銀さん…さっきからずっと弥生ちゃん見てるんだけど…」
自分達の後ろを歩く銀時は、一心不乱に弥生の背中を見つめている。
「弥生、銀ちゃん見てるヨ」
『何…ストーカー?』
「違うよ!銀さんだってば!あっ、もしかしたら弥生ちゃんの事覚えてたり!?」
「弥生!銀ちゃんに何か言ったげて!」
力任せに後ろを向かされ、銀時の前へ立たされる。 いつものけだるそうな表情はない。 突然弥生と向かい合わされ、目を瞬く彼へ弥生は口を開く。
『…何言えばいいの』
「スイマセン。僕に聞かれても分からないです…」
『分からないって』
「そりゃそーだろーよォォ!」
「まず相手の事を知るには好きな事とか趣味を聞くアル。気が合えば会話は弾むヨ」
『趣味は何ですか』
「趣味ですか…僕は記憶がアレなんでこれから探そうと思っています。君はどうなんですか?」
『寝ることです。睡眠さえあれば地球は回ると思っています』
「んなもんなくても地球は回るわ!!なんだコレ!なんだこの路上見合いみたいなの!!」
「お、弥生ではないか」
声をかけた桂は暴れん坊侍と書かれたハッピを着用し、旗を持っていた。 桂は銀時の友人でもある。銀時の記憶を取り戻すきっかけを何か持っているかと期待したが、自分が働く店でさらに忘れるよう促したり、記憶を改竄したりと散々。 と、突如桂目掛けて突っ込んだ車。それは真選組のものだが桂が放った爆弾で爆破される。 桂はというと、その車に乗っていた土方と沖田に追われ、逃げていった。 この騒動の被害を受けた銀時の記憶が、ふりだしに戻ったとも知らずに。 今度は妙のもとを訪れる。 ストーカーゴリラ・近藤が持ってきたアイスに記憶を取り戻しつつも、妙が作った卵焼きを口に突っ込まれ、それを食べた近藤と共にまたもふりだしに戻った。今度は目つきも変わって。 甘いもの。これが一番記憶を取り戻すきっかけとなるはずだったのだが。
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