「ぎゃっふァァァァ!!ヘッ…ヘルペス!ヘルペスミー!!」

ドガシャッ

「ヘルプミーな」


新八の悲鳴に定春とコタツで寝ていた弥生は目を覚ました。
悲鳴の原因を知ろうと居間へ行くと、廊下で走り回る新八の姿。その背中には


『…でか』

「反応薄いなオイ」


新八と同じ、いや、それ以上の巨大なゴキブリがはり付いていた。


「取ってェェェ!!早く誰か取ってェェ!!」

「ぎゃあああ!!てめっ、こっち来んじゃねーヨ!!殺虫剤口ん中に放射されてーか!」

「そんな事したらゴキブリじゃなくて僕が死ぬんだけどォォ!!?」

「ちょ、オイ新八!暴れてたんじゃ剥がせねーだろっ」


弥生は抱えていた刀を構えると、暴れ回っている新八とはり付いているゴキブリとの間に滑り込ませ、バットを振る様に新八からゴキブリを剥がした。


「でかした弥生!」


そして四人は居間へ逃げ込み、侵入口を遮断した。得体の知れないゴキブリの出現に四人はしばし絶句する。


「なんスか、アレ。なんであんなんいるんスか」

『一家に一匹は必ずいるよ…』

「いてたまるか。あんなデカイの」

「あれ、ホントにゴキブリアルか」

「しらねーよ」

「しらねーよってアンタの家でしょ。あれはねェ、アンタがつくりだした化け物だ」

「君のだらしない生活が、あんな悲しいモンスターを生み出してしまったんだヨ銀時君」

『どーすんの、ぎん君』

「てめーらも住んでるよーなもんだろーが!!」


すると銀時は懐からある物を取り出す。


「こいつァ仮説だが俺ァ恐らくコレが関係してると思う」

「あ、私の酢昆布…食べられてる」

「恐らく、酢昆布を食することによって奴らの中で何か予測できない超反応が起こり、あんなことに」

「マジでか!!」

「ヤバイよ、あんなモン誕生させた上、もしアレが街に逃げたら僕ら袋叩きですよ」

「そうなる前に俺達で駆除する。なんとしてもこの家から出すな。新八、殺虫剤はどうした?恐らく効かねーだろうがないよりはマシだろう」

「あっ、あっち置いてきちゃった」

「お前勘弁しろよ〜お前はホント新八だな」

「だからお前はいつまでたっても新八なんだヨ」

「なんだァァ!!新八という存在を全否定か!!許さん!許さんぞ!とってきてやるよコノヤロー!巨大ゴキブリがなんだチキショー!!てめーのケツくらいてめーでふくよ!血が出るまでふき続けてやるよ!」


言うと新八は静かに戸を開け、奴がいない事を確認すると前転しながら殺虫剤を取りに行った。


『…ね、殺虫剤よりぶった斬った方が早く終わるよ…』

「バカ言ってんじゃねーよ。あんなデケーもん斬ってみろ、なんかエライ事になんぞ、後始末が」

「弥生ゴキブリ平気アルか?気持ち悪くないアルか」

『不快…』

「だろーな。誰も快く思う奴なんているわけねーもん」

『だから早く消し去ろう』

「だから今新八に」

「ぎゃああああああ」


本日二回目の新八の悲鳴。
三人は飛び出すように廊下へ出れば彼の姿はなく、一匹の巨大ゴキブリがいるだけだった。銀時達はスリッパと言う名のゴキブリ叩きを装備すると渾身の力でゴキブリに叩き付ける。暫くしておとなしくなった所で新八を探すが、やはり見当たらない。
最悪な出来事を神楽は想像し、呟くが相手は巨大ながらもゴキブリだ。そんな事はないと銀時は言うが、ゴキブリは眼鏡を吐き出した。一斉に腹部を蹴り上げ、吐くよう訴えているとゴキブリは奇妙な鳴き声をあげた。これが仲間を呼ぶ鳴き声であると、テレビをつけていない万事屋では誰も知る筈もなく、大群で押し寄せてきた巨大ゴキブリの波に驚愕した三人は急いで神楽の部屋へ避難する。
ワラワラ群がる黒光りはおぞましい光景である。


「だー、こっち来るなってーの!一体どーなってんだ?ゴキブリの逆襲かよ、こんなことならもっとゴキブリに優しくしときゃよかったなオイ」


銀時は足で、弥生は刀でゴキブリが登ってくるのを阻んでいた。
だが、この終わりの見えない攻防戦についに弥生は刀を引っ込め、神楽と同じように寝転ぶ。


「何お前まで寝込んでんだよ!」

『もう疲れた…寝る時間』

「おめーこんな時によく寝ようだなんて思えるな!スゲーよ!」


ふと、弥生の耳に不快な音が入る。
顔をあげれば押し入れの壁に普通サイズのゴキブリが這っている。
鞘先で潰そうと弥生は構えると


「オイちょっと待て」

『…何』

「……………なんだコレ、なんで五郎?」


銀時はそのゴキブリを捕えると、背にある名前に首を傾げる。


『潰そう』

「まァ待て。蜘蛛の糸ならぬゴキブリの糸だ。もしかしたら恩返ししてくれるかもしんねーぜ」


そして銀時は巨大ゴキブリの群れにそれを手放した。
その姿はすぐに黒光りの中へと消える。


『…ゴキブリの恩返しって何…ネバネバ的な?』

「んな恩返しきたら俺、地球全てのゴキブリ根絶やしにするわ」

「ぬおおおおお」

「!!」

「銀サァァァン!新八ただいま戻りましたァァ!!」


突然開いた玄関からはゴキブリの腹におさまってしまったと思っていた人物。どうやら新八は超強力な殺虫剤を買いに行っていたらしい。
新八の話によると、このゴキブリ達は外でも大量発生しているみたいだ。おまけに変な噂も流れているとのこと。
その内容は


「こいつらが宇宙から地球のっとるためにやってきた人喰いゴキブリだとか、背中に五郎って書かれた女王ゴキブリを殺さないと地球は滅ぶとか、もう勝手に話が大きくなっちゃって」


思わず新八の言葉を聞き返す銀時。
一匹のゴキブリごときで地球が滅ぶなどと馬鹿げていると新八は笑うが


「俺、地球を滅ぼした魔王になっちゃったよ。アッハッハッ〜もう笑うしかねーや」

「アッハッハッ、え?え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!見たんか!五郎さん見たんか!ここにいたんかァァ!!」

『やっちまったな』

「ホントにな。アッハッハッー逃がしちゃったよ俺。地球滅ぼしちゃったよ俺」

「どどどどどどこぉぉぉぉ!?早く見つけないと…」

「無理無理、もうどっか行っちゃったって。それよりステーキ食いに行こう。死ぬ前にステーキ食いたい。ステーキ食えるぞ弥生」


自暴自棄になった銀時は今だゴキブリを数え続けている神楽をおぶると人生最後の食事をするべく、外へと出て行く。その後ろを慌てて新八は追い掛けて行く姿を弥生は見送った後、押し入れを出てコタツへ戻る。
弥生はやはり、ステーキより睡眠であった。
ふと、眠っている定春の近くに一点の黒を見つける。近くへ寄れば、五郎と書かれたゴキブリが潰れていた。


『………』


弥生は五郎を片付けると定春を一撫でし、自分もコタツへ包まって静かに目を暝った。










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