この耳障りな騒音も止む。
そう思えば柄に添える手が無意識に力んだ。
道信を殺した鬼の天人を銀時が倒すと、煉獄関の連中が舞台場に現れる。銀時一人相手に結構な人数だ。
その時、彼らの足元へ銃弾が散った。発射元は客席からで、そこには鬼の面をつけた少年少女が。


「ひとーつ
人の世の生き血をすすり」

「ふたーつ!!
不埒な悪行三昧」

「「みぃーっつ!!」」


面を外した新八と神楽は銀時を指差し、台詞を促す。


「…ったく
えー、みーっつ、み…みみ
みだらな人妻を…」

「違うわァァァァ!!」

「銀ちゃん、みーっつ
ミルキーはパパの味アルヨ」

「ママの味だァァ!!違う違う!みーっつ、醜い浮世の鬼を!!」

「「はい、よーっつ!!」」


今度は客席へ人差し指を向ける。そこには銀時達のやり取りを眺めていた弥生。


『……よーっつ、』


二人に比べ、抑揚のない声で言うと客席から飛び降り、彼らの横へ並ぶ。


『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン…』

「違うよ!!確かに呼んだけどそうじゃなくて!!」

「弥生こうヨ!よーっつ、黄泉の国へと!」

「たっ…退治てくれよう」

「「万事屋銀ちゃん見参!!」」


決めポーズをとれば、呆気に取られていた敵達が攻めてくる。
振り下ろされる刃を砕き、襲い来る敵の急所へ叩き入れていれば、駆け付けた真選組によって敵方は戦意を喪失した。
その様子に弥生は刀をしまうと、隣にやってきた人物へ顔を向ける。


「疲れる事は嫌いなんじゃないのかい?弥生ちゃん」

『受けた依頼は最後までやり遂げるのが仕事ですぞ』

「なーに言ってやがんだ。普段仕事サボるくせしてよォ」

『…今日は、暴れたい気分だったのさ』

「オイオイ、一体何が不満だったんだい?その荒みきった心を銀さんが包んであげるから、思いきって言ってみなさい」

『もっと寝かせろ』

「却下」


ちぇーと、無表情で棒読みな舌打ちをする弥生に銀時は口端をあげると、彼女の頭へ手を伸ばすが


「お前も連行だ!!」

「はァ!!?んだてめーハゲ!!俺が何したってんだコノヤロー!」


その腕は原田に掴まれ、犯罪者のごとく連れて行かれた。
弥生は顔をあげる。
客席のはるか上にある観覧場所には、笠を深く被り口元まで隠れる布を纏った人間の姿がある。
が、すぐにその姿は闇へと溶けていった。


「行こう、弥生ちゃん」


新八の呼びかけに弥生は頷く。
そして、もう二度とこの場所が使われる事がないことを願って、一行は闘技場を後にした。
























雨はいつしか止んでいて、切れ切れの雲からオレンジの空を覗かせていた。
銀時達の話には耳を向けず、一人弥生は空を仰いでいた。
そして会話の相手であった土方と沖田が去ると、帰ろうと万事屋メンバーも腰をあげる。
一人スタスタと弥生は先を行くと、懐から貰った物を取り出し、花を崩さないようちぎっていく。


「弥生?」


弥生の後ろを歩いていた神楽は不思議そうに尋ねれば、彼女はそれを風に乗せる。


『……はなむけ』


空に吸い込まれるように舞っていく花を見つめ、呟く。
安らかな眠りを祈りながら―――。










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