道信を見張っとけ。
目的も理由も告げずに銀時は言うと、沖田に呼ばれ一人出て行った。 言われた通り、新八、神楽、弥生の三人は茂みから道信の家である廃寺を伺う。 …が、これが退屈でしょうがない。 特に何も起こらなければ、動きようがないのだから。
「…暇だね」
「つまんないアル。こーゆう地味な仕事は新八向きヨ」
「なんで僕?張り込みなんて僕以外の人でも向いてるよ。全年齢対象だよ」
「はァ〜ダメ。全っ然ダメダメアルな。お前は張り込みをなんも分かっちゃいねェ。だからダメなんだよ。だから眼鏡なんだよ。だから新八なんだよ」
「意味分かんねーよ。ダメダメ連呼すんな。なんだよ最後の。僕の存在自体ダメみたいじゃん。眼鏡か?眼鏡が悪いのか?つか、お前だって張り込みのことなんも分かっちゃいねーでしょ」
「お前と一緒にすんじゃねーヨ胸クソ悪い」
「ねェ神楽ちゃん、そんなに僕が嫌い?」
廃寺から目を逸らす事なく会話する二人。 最初の3秒で見張りが飽きた弥生は廃寺ではない何処か別の場所へ目をやり、完全に座りこんでいる。 ピクリとも動かない弥生に、目を開けたまま眠るスキルでも身につけたのかと思えば、おもむろに立ち上がった。
「弥生?何処行くネ」
『そこらへん…』
「弥生ちゃん、座ったベンチで寝ちゃダメだよ。せめて此処に帰ってきてからにしてね」
『大丈夫…新八じゃないから』
「あのさァ…僕を悪い例にあげるのやめてくんない?一体僕のドコがダメなのか言ってみろ。10個以上あげてみろコルァ」
「眼鏡、地味、薄い、オタク、凡人、シスコン、普通、ツッコミ、並、平凡、童貞」
「うっせァァァアア!!どこが悪いのさァァ!!全部取ったら僕に何が残るってんだァァ!!」
「消滅アルヨ。微塵も残らないネ」
「消えろってか!お前に存在否定される覚えねーぞチクショー!」
『落ち着いて新八…新八にだって良い所の一つぐらいあるさ…』
「弥生ちゃん…」
『思いつかないけど』
「もうどこにでも好きなトコ行っちまえ」
影の多い狭い道。両脇に建つ古びた民家は、人が住んでいるのかさえ妖しい。 慣れた様子で弥生は歩を進め、ある一軒家の前に止まると断りも入れずに戸を開けた。 昼間だというのに薄暗い室内、鼻につく薬品の匂い。 そして目つきの女がそこに居た。
「…なんだ、生きてたのか。もうとっくに野垂れ死んでんのかと思ったぜ」
弥生を見るなりそう皮肉を吐くと、女は中断していた作業を再開させた。 気にした風もなく、弥生は入口付近に腰を下ろす。 自身の仕事道具である薬品や手術道具等を鞄にしまいながら、女は横目に弥生を伺う。
「何の用だ、一体…」
ぐぎゅるるる…
静かな室内に、なんとも気の抜ける音が響いた。
『朔…お腹空いちゃった…』
「空いちゃった、じゃねーよ。マジ何しに来たんだオイ。飯食いに来たっつったらブッ殺すぞ」
『ええー…じゃ、別件で』
「じゃ、って何だよ。もうおめー帰れ。こちとらガキに付き合ってる程、暇じゃねーんだよ」
苛立っているのか、朔と呼ばれた女は乱雑に物品を入れ始める。 相変わらず短気な女だ。 そう頭の隅で弥生は思った。
『……煉獄関』
そして此処へ来た目的を告げれば、騒がしく鳴っていたガラスのぶつかる音が止んだ。 一瞬の沈黙の後、大袈裟な溜息が零れた。
「煉獄関は奴ら天道衆の庭だ。命が惜しいなら関わらない方が利口だぜ」
『職業柄…ムリ』
「あァ?まさかてめー…」
『万事屋、やってんだ…』
「…うさんくせー。どーゆう内容か知らねェが、んな依頼がくるようじゃ大して儲かってねーだろ。大体てめー、天道衆の奴らに顔われてんだろーが」
『平気…イメチェンしたし』
「んな事の為にてめーの髪切ったわけじゃねーぞ」
『…うん。そう…分かった…』
立ち上がり、座る為に抜いていた刀を腰に戻し、戸に手をかける。
「オイ、煉獄関の事なんざ知ってどーすんだ」
『…近いうち、潰れるかも…そこ』
「はァ?」
『ま、楽しみにしてて…』
ヒラヒラと朔に手を振ると、弥生は去って行った。
「めんどくせー事嫌いなくせによくやる…」
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