ノンレム睡眠継続中の真夜中。 何時からだったろうか、急に寝苦しさを覚えたのは。 何故か苦しい。圧迫感がある。けれど、この圧迫感は初めてではない。 これはよく神楽が遊びに行こうと自分を起こす為にのしかかってくるそれと同じだった。 ついに弥生は目を開ける。 月明かりで薄暗く映る天井を見つめた後、腹部の違和感に身体を起こせば自身を枕がわりに寝転んでいる銀時がいた。
『………』
酒臭さに弥生は顔をしかめる。 自分の陣地から追い出そうと、玉転がしの要領で退かそうとするが
「…う、う〜ん…」
がっしりと、弥生の腰に銀時の腕が巻き付いた。 睡眠を邪魔され、尚も妨害を続ける銀時に弥生の怒りのパラメータは限界突破を迎えた。 その気持ち良さげな寝顔に掛け布団をかぶせる。しばらくして、苦しくなってきたのかモゾモゾと動きはじめる。 が、弥生は手を退けない。 今度は声が聞こえてくるが、くぐもっていて何を言っているのか分からない。 微動せず弥生は手を退けない。 ついには暴れだした銀時の肢体。弥生の手首を掴むと、ようやくその手は布団から離れた。
「死ぬゥゥゥゥゥ!!!」
『うるっさい』
「うるせーじゃねェェ!!なんだテメー危うく窒息死になるとこだったじゃねーか!!」
『人の睡眠邪魔する奴は毒にまみれて死んじまえ』
「毒じゃないからね、コレ!布団だからね、コレ!ったくなんだよ…人がせっかく気持ち良く寝てたっつーのに」
『……ぎん、今度私がよく眠れる場所に連れて行ってあげる。布団は土で枕は石…よく眠れるよ』
「お前の頭ん中には俺の暗殺計画でもあんのか」
『楽しみにしてて…』
「楽しみにできるかァァ!!」
弥生は自分の枕を脇に抱え、掛け布団を引きずると部屋を出てソファーへと寝床を移った。
出勤してきた新八は定春とまだ寝ている弥生だけの居間に溜息を零した。
「ほんとにグータラな連中だな。起きて弥生ちゃん、此処一応仕事場だから。つーかちゃんと布団で寝なきゃダメでしょ」
そう声をかけた後、押し入れの戸を開けて神楽を起こし、銀時の部屋の戸も開け、起きるよう声をかけたが何故か新八は戸を静かに閉めた。 様子のおかしい新八に神楽が声をかけるが、来るなと叫ぶだけ。 銀時に何か異変があったとみた神楽は、新八の制止も聞かずにその戸を開ける。 目に入った光景は銀時の上に忍び装束の見知らぬ女が乗っているものだった。
「………で、誰この人?」
「アンタが連れこんだんでしょーが」
銀時の隣で納豆を練る女。 全く見覚えのない女だが、銀時は昨夜の記憶をたどっていく。
「…昨日は……あ、ダメだ。飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ。…気が付いた時は、弥生に殺されかけてたな」
「何があったのアンタら」
「つか、その時には俺と弥生以外いなかったんだけど、確か。な、弥生」
『話かけんな』
「何この娘、めっさ不機嫌じゃん。まだ根にもってんの?言っとくけどアレ、安眠妨害されたの俺の方だからね。危うく夢じゃない別の世界へ旅立つところだったからね」
『そのまま別の世界の住人になって幸せに暮らしてればよかったのに〜』
「アレ、なんだろ。鼻がツーンってする。しかも視界が悪いな…眼科行くようかよオイ」
「ホント、何があったのアンタら」
脱線しかけた話をもとに戻す。 とりあえず、納豆を練っている女へ間違いを起こしていないか確認すると、何もないと答えてくれた。 その答えに心底安心した銀時だったが
「夫婦の間に間違いなんてないわ。どんなマニアックな要望にも私は応えるわ。さっ、アナタ納豆がホラッ、こんなにネバネバに練れましたよ。はい、アーン」
言うと女は箸を銀時の口ではなく、目へ運ぶ。
「いだだだだ。そこ、口じゃないから。そこ、口じゃないよ。目は口程にものを言うけど、口じゃないよ。え?何?夫婦って」
「責任とってくれるんでしょ。あんなことしたんだから」
「あんなことって何だよ!何もしてねーよ俺は!」
「何言ってるの。この納豆のように絡みあった仲じゃない。いだだだだだ」
「だからそこ口じゃねーって言ってんだろ!」
女もまた、自分で口ではなく目に箸を運んでいた。
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