夏の風物詩といえば海、祭、花火と様々。
近々ターミナルでは鎖国解禁二十周年の祭典が行われる。
江戸一番の発明家と言われている平賀源外はその祭典でカラクリ芸を披露するよう幕府から命が下っているのだが、お登勢をはじめとしたかぶき町町内会の要望で場所移動をさせられた際、全てのカラクリがバラされ鉄クズの山と化していた。
祭典には将軍も来るとのこと。間に合わなかったら切腹だと嘆く源外に多少の罪悪感とお登勢からの頼みで手伝ってきたがとうとう祭典の日を迎えてしまった。


カチャカチャ

「………」

『………』

ガチャ…カチ

「…………」

『…………』

ガチ、ポキッ

「あ゙あ゙ああああ!!!」

「んだようるせーな。暑さで頭沸いちまったか」

「んなわけねーだろ!!オメーが連れてきた嬢ちゃん何なんだ!!工場見学じゃねーんだよ!あんまりガン見してくっから気が散っちまって部品折っちまったじゃねーかァァァ!!」

「間に合いそうにねェから人連れてきてやったのによォ」

「来てから今まで何一つ手伝ってねーけどこの嬢ちゃん」

『…ね、やんないの』

「嬢ちゃん耳になんか詰まってんのか」


働きそうにない弥生に溜息をつくと作業を再開させる源外。弥生はこの際、空気と思うことにする。


『…ねぇ、』

「……」

『………』

「………」

『…………』

「…………」

『……………』

「……………あ゙ーーーー!!!話せば!?そんな穴が開くほど見るんじゃねェわ!!」

『…楽しくないの?』

「………は?」

『…別に、』


何でもない。そう言うと弥生は立ち上がりようやく源外から離れる。


「オイ弥生、祭り行くんなら綿菓子買ってこい」

『やだ』

「ていうかせっかく来たんだから弥生ちゃんも手伝ってよ」

『…………やった』

「嘘つけ!!」

「弥生ー!こっちきて遊ぶネ、サブも入れてままごとするヨ」

「またアレやんの!?神楽ちゃんどこであんな事覚えてきたの」

「テレビでやってたヨ」

『神楽、眠いから明日…』

「オイオイ綿菓子買ってきてくんねーの?銀さん疲れてんだよ糖分摂取しねーと死んじゃう」

『…宇宙葬がいいんだっけ』

「俺死んでもいーの?オメー何言っても銀さんが傷つかないとでも思ってんのか。泣くぞ。いい歳して大声で泣くぞテメー」

「てめェらいつまでくっちゃべってる気だ働けェェェ!!」

「だーってろクソジジイ!!今からコイツの性根叩き直してやんだからよォ!」

「銀さん銀さん」

「あん?何だよ」

「弥生ちゃん、行っちゃいましたけど」























日も沈み、提灯に明かりが灯るここターミナルでは大勢の人で溢れている。特に行くあてもなくフラフラ歩いていると


「あ、弥生ちゃん」


不意に呼ばれた声に振り返る。声をかけたのはタコ焼きを片手に駆け寄ってきた山崎だ。だが弥生の視線は山崎ではなくその手に持っている物を捉えていた。


『いただきます』

「えええええ!!?ダメだよコレ!副長に頼まれたヤツだから!!」

『一個も…?』

「…しょうがないなぁ」


やれやれといった感じで爪楊枝にさしたタコ焼きを差し出す山崎。


「弥生ちゃんも祭りに来てたんだね」

『うん…』

「でも意外。弥生ちゃんもこういう賑やかなの好きなんだ」

『…見たいものが、あるから』

「見たいもの?」

『ごっそうさんです』


また覚束ない足取りで歩き出す弥生。


「ちょ、大丈夫かな…」


タコ焼きを食べながら少女を見送っていれば、人とぶつかりよろける弥生に山崎は駆け寄ってその身体を支えた。


「ちょっと!なんか大丈夫?どうしたの!」

『………ねむっ』

「うん。でもちゃんと前見て歩こうってかそれ以前に眼を開こうか」


眼をあけようとする弥生だがまた下がってくる瞼に山崎は苦笑する。










この時弥生は気付かなかった。
遠くから自分を見ていた男がいたことを。


























ドン、と夜空には大きな火の花が咲き誇る。打ち上げたのは源外が造ったカラクリだ。
混雑しているせいか、源外の姿が見える所まで辿り着けず仕方なくその場で花火を眺める。
空にちりばめられた火の粉が闇の中へ溶けていく様を、弥生は目を細めて見ていた。










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