流石宇宙最強の一族なだけあって力では敵わなかった。
死んでも布団から手を放すまいと弥生は頑張ったが容易に破れ去ったのだった。
連れて来られた公園のベンチに座り、大きく口を開く。
強すぎる日差しは眠い眼にキツイ。
ツキツキと痛むそれに手を置き、光から逃れていると神楽に呼ばれゆっくり手を退かす。


『…今度はお嬢を拾ってきたの?』

「違うヨ。お嬢さん酢昆布知らないみたいネ」

「女王サンのお姉サンですか?」

「弥生は私の付き人アル」


神楽が連れてきた少女は微笑むと軽く弥生に会釈する。どこか気品を感じさせる仕草。着ている着物も高価な物だ。どこぞの金持ちの娘だろうか。


「これが酢昆布ネ。弥生も食べるアルか?」

『ん…』


弥生の隣に神楽、その隣に少女の順で座る。神楽から貰った酢昆布を少女は物珍しそうに眺めた。横目に弥生を見ると眠そうな顔でかじっている。その姿を見て、彼女は生まれて初めてそれを口に含んだ。


「がぺぺ、なんですかコレすっぱい!じいやの脇よりすっぱい!」

「そのすっぱさがクセになるネ。きっとじいやの脇もそのうちクセになるネ」

「なりません。ってか嫌です」


少女の話から分かった事、それは彼女が将軍の所から抜け出して来たということ。どうりで身なりが良いはずだ。


「お嬢サン、何かお困りごとアルか?私何でも相談乗るヨ。万事屋神楽とは私のことネ」

「フフ、ずい分たくさん名前があるんですね。うーん…困り事…そうですね、
じゃあ…
今日一日、お友達になってくれますか?」


心の中でガッツポーズをきめる弥生。
神楽と少女の邪魔はいけない。自分は在るべき所へ帰ることにする。
そう、布団の中へ。
…が、逃亡は失敗に終わった。


「どこ行くネ、弥生」

『は〜な〜し〜て〜』

「嫌…ですか?私のお友達になるのは…」

「そんな事ないアル!弥生照れてるだけヨ」

「そうなんですか」

『いや、眠いからかえ』

「じゃ、早速遊びに行くアル!」


弥生と少女の手を引き走り出す神楽。
嬉々とする二人の表情に弥生は小さく息を吐き、帰宅は諦めることにした。


「遊ぶといってもまずはお金が必要アル」


辿り着いたのは賭博屋。此処で稼ごうという。
中へ入れば柄の悪い男ばかりが目につくが気にせず適当にその場につくと早速賭け事が始まる。両肩に派手な入れ墨を彫った男が投げた賽を隠した。


「さァはったはった、丁か半か?」

「半!!」

「俺も半」

『丁…』

「丁!!」

「じゃあ私も丁で」

「半!」

「丁!」


結果はピンゾロの丁。その後も勝ち続けた三人は換金して貰うと、駄菓子屋へ向かい、パチンコへ行き、釣をしたり、写真を撮ったりと主に神楽と少女が楽しんでいた。弥生はその二人について行くのがやっとの状態。


『神楽…疲れた』

「大丈夫ですか?」

「そうアルな…小腹もすいてきたし、あそこで休むアルか」


指を差した団子屋で腰を下ろす。ようやくありつけた休息に弥生は至福を感じた。このまま寝そべりたい衝動に駆られるが、人一人分あいた先には少女がいる為、我慢だ。


「お姉サンいいですね。毎日女王サンと遊んでいらっしゃるんですか?」

『…毎日、…なのかな』

「羨ましいです。私、一緒に遊ぶ人もいませんしこうして城下を歩き回ることも出来ませんから」

『…疲れる、毎日は』

「でも楽しいじゃないですか。退屈しなくて」

『ずっと寝てたい…動くのやだ』

「フフ…そういえばお姉サン、暇さえあれば寝てましたね」

『ん…眠気には逆らえないから…』


言うと欠伸を零す弥生に少女はクスクス笑った。
時折、少女は憂いを帯びた顔で街を見る。本来なら、こうして外に出る事も許されないのだろう。


「お待たせヨ〜」

「わあ、美味しそうですね」


団子を肴に盛り上がる会話。神楽の話すことに少女は喜色満面し、それを見てまた、神楽も笑う。それはそれはとても楽しそうに。


「女王サンは私より若いのに色んなこと知ってるんですね」

「まーね。あとは一杯ひっかけて[らぶほてる]になだれこむのが今時の[やんぐ]ヨ
まァ、全部銀ちゃんから聞いた話だけど」

「女王サンはいいですね。自由で
私、城からほとんど出たことがないから友達もいないし、外のことも何にもわからない。
私にできることは遠くの街を眺めて思いを馳せることだけ…
あの街角の娘のように自由にはね回りたい、自由に遊びたい、
自由に生きたい
そんなこと思ってたら、いつの間にか城から逃げ出していました
でも最初から一日だけって決めていた。私がいなくなったら、色んな人に迷惑がかかるもの…」








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