真選組屯所の庭では隊士達が集まっている。 召集がかかった――――――――ワケではない。
「副長ォ、マジで弥生ちゃんとやり合うんスか?」
「鬼の副長って呼ばれてるけどここまで鬼とは…」
「アンタそれでも男かー!!侍かー!!」
「そうだそうだ死ね土方ァ!!そして遺言残してけェ!!副長の座は沖田総悟に譲るってなァ!!」
「てめェら切腹の覚悟は出来たかァ…介錯は俺がしてやる。まずはテメーからだ総悟ォ…」
「なら試し斬りしてみてからにして下せェ。山崎で」
「え゙え゙え゙!!?ちょ、待って下さい副長!俺なんも言ってませんよ!?」
縁側に腰を下ろし、寝ぼけ眼で見る光景は死に物狂いで土方から逃げる山崎。隊士達全員が憐れみの目で山崎を見ているが誰ひとりとして助けには行かない。 帰る。弥生はそう決めると門へ向かおうとしたが
「どこ行くんでィ。帰るにはまだ土方さんとの勝負がついてねーでさァ」
ズルズルとそのまま沖田に引きずられ、土方の前へ連れて行かれる。弥生の手に竹刀を握らせると沖田は至極真面目に言った。
「迷わず首を狙いなせェ。遠慮はいりやせん」
「オメーは何を吹き込んでんだァァァ!!」
場は一変、対峙する二人を隊士達は見守る。顔が腫れている山崎には誰もつっこまない。
「女だからって手加減しねーからな。お前も本気で来い」
『いや』
「いや、嫌じゃなくてそこは嘘でも頷いとけよ」
『運動キライ。めんどくさい』
「分かるよお前の顔見れば。鏡見てみろ、眉間のシワすげーから」
『もう疲れた…眠いし』
「まだなんもしてねーだろ!!」
「…局長、いつになったら始まるんでしょうね」
「俺にも分からん」
「何やってんでィ。さっさと始めろォ!!フェミニスト気取ってんじゃねーぞ土方ァ!!」
「うるせェェェ!!テメー後で覚えてろよ!!」
やりずらい、というのが土方の本音。それらしい雰囲気に持ち込みたいが目の前の人物によって崩される。 竹刀を強く握り、凄んでみるが弥生は怯えた様子を見せない。変わらず嫌々に顔を歪ませ構えをとることもしない。余程今の状況がめんどくさいらしい。
「オイ!!構えるぐらいしたらどーだ!!分かんねーだろ始めていいか!!」
『永遠に始まらなくていいと思われる』
「そりゃテメーの願望だろーがっ!!」
ようやく土方は弥生へと駆ける。内心、このまま弥生が体制を取ることをしなかったらと不安だったが…
「(やる気になったか…?)」
竹刀を構えた弥生。その姿に土方は笑みを浮かべると竹刀を振り下ろす。が、そこに弥生はいない。脇へと逃れている――しかしそれは把握済み。竹刀を今の状態から横へ凪ぐ。
「な、」
だが土方の攻撃は空振りに終わった。一瞬にして弥生が姿を消したのだ。目にも止まらぬ速さを見せた少女に驚愕し、瞠目する土方だが。
『痛い…』
「――って、転んだのかよ!!」
少し視線を落とすと弥生はいた。俯せに倒れた身体を起こし、呑気に座って着物や袴についた砂を払っている。
「パッツン!!何やってんだァ、どこでもいいから一発入れろォ!!」
「頑張って弥生ちゃァァァん!!」
「副長ォ、手加減してあげて下さいよ!!」
『手加減して下さいよ』
「テメーが勝手に転んだんだろーが!!」
この勝負の目的を見失いかける土方。溜息混じりに弥生を立たせるともといた位置に戻る。
「(畜生…どーしたら奴は本気になるんだ?)」
弥生の実力が見たい。それ故に闘っている訳だがなんせ本人にやる気がみられない。いっそ真剣での立ち合いという考えが浮かぶが全力で近藤が反対するのが目に見える。 全く読めない…そういう所は以前戦った銀髪の侍と似ていると土方は思った。 勝負の最中にも関わらず欠伸を零す彼女。形こそは構えているが、誰が見ても隙だらけ。あえて、そこを狙ってみることにする。 踏み込み、間合いを詰めると弥生の腹目掛けて竹刀を突く。
ミシィィ…!
「!」
が、防がれた。突いた先は竹刀だった。
『あぶな…』
よろけながら弥生はポツリと呟いた。 咄嗟の行動。周りから見たらそうだろう。 だが間近で見ていた土方はそう捉えなかった。彼女は分かっていた。狙ってくる場所を。
「フッ…面白ェですね、あのパッツンも」
「コレは驚いた…。やるな、弥生ちゃん」
こちらが攻めつづければ本気になるのではないか。そう結論づけると土方は弥生へ竹刀を下ろす。 対する弥生は何故か竹刀を片手に持って土方に対抗し、向かっていくが――
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