「確かめてェ事があんだ」


土方は目の前にいる人物を射抜くような眼差しで見つめた。
くわえていたタバコを灰皿へ押し付けると更に目付きを鋭くする。


「春雨っつー宇宙海賊の一派が沈没した、三人の侍によってだ。その侍の中になァ女がいたらしい」


土方から語られる内容を近藤、沖田は黙って聞く。三人の視線の先は一緒だ。


「単刀直入に言う。その女ってのはテメーなんじゃねェのか」


彼女は、答えない。
俯く顔は髪で隠れ、表情は分からない。
新たにくわえたタバコへ火をつけるべくドラムを回す音が、沈黙が支配する一室でいやに大きく響いた。


「何も言わねェってこたァ、肯定と取るが…」

「トシ!個人的な思い込みで勝手に決めるのは、」

「だが近藤さん。どーも俺ァコイツ以外の女侍が浮かばねェ。許可証持ってるっつっても帯刀してんだ。それになァ、もし桂と同じ攘夷志士だったらどーすんだ」


何をそこまで疑う必要があるのか。攘夷志士、という感じが彼女には全くないが。


「で、どーなんだ」


視線を戻す。
変わらず顔はそのまま微動だにせず、弁解の言葉も述べない。
苛立ちが募り、肺へと深く煙を送り込むとそれは短くなった。


「てめェ…何とか言ったら、」

「土方さん」

「あァ?」


黙って様子を見ていた沖田が、立ち上がると彼女の傍へ寄る。肩膝をつき、顎を持ち上げれば


「寝てまさァ」

「叩き起こせ」


そこには何とも気持ちよさそうな寝顔があった。


「弥生ちゃん。マジな話、春雨ぶっ潰したって本当か?」

『スープは飲むものだよ…』

「あーうん。そっちの春雨じゃなくてね…」

『ワカメが好き』

「シンプルですねィ。俺ァチゲが好きでさァ」

「坦々もうまいぞ」

「お前ら何の話してんだァァァ!!」


気を取り直し、改めて土方が話を切り出す。弥生がちゃんと起きていることを確認しながら。


「俺達が言ってんのは海賊のことだ。そいつらに関わったかって聞いてんだ」

『さあ…』

「さあって何だよ。あるかねェかで答えろ」

『さあ…』

「…てめェ、答える気あんのか?」

『さあ…』

「斬っていいか?斬っていいよな?」

「ちょ、ま、落ち着けトシぃぃぃ!!」


刀に手をかけ、抜刀しかけの土方を懸命に近藤が抑える。
そんな騒ぎを気にかけず、コクコクとふねこぐ弥生を沖田は面白そうに見ていた。


「この女人をコケにしやがって、気に入らねェ…」

「俺ァ気に入りやした。実に愉快ですぜィ、女に振り回されてる土方さん見るのは」

「振り回されてねェ、斬られてェのかてめェも」

「もういいだろトシ。弥生ちゃんも眠そうだしさァ」

「眠そうなのは常日頃なんじゃねェのかソイツは」

「しかしわかんねーや。土方さんはなんだってこのパッツンをうたぐってんです」

「………」


興味本位の質問だった。
女を、弥生を気にかける土方が非常に珍しいこともあって。
攘夷志士は幕府を嫌う。その下につく真選組もそうだ。だが弥生には自分等を嫌うそぶりがない。警戒心もなく、現に今は隙だらけだ。敵を前にして、この無防備さはないだろう。しかし、今もなお土方の目は疑心に光っている。
彼をそこまでさせることを、彼女はしたのだろうか。


「オイ」


不意に土方は弥生へ声をかけるが返答はない。寝ている。
うっすらと青筋を浮かべるも、もう一度呼びかけ鞘先でこずけばようやく顔をあげた。


「抜け。表へ出ろ」

「!?」

「ちょっ、トシぃ!?」

「どーもすっきりしねェ…コイツと話しても疲れるだけだしな」

「だからっておま、何でそーなるのォ!?」


土方についていけず混乱する近藤。そんな彼に構わず行くぞ、と弥生に外へ出るよう促すが弥生は動かない。
それどころか座布団を枕がわりにし、完璧寝る体制へと移っている。


「来いっつってんのが聞こえねェのかてめーはァァァ!!!」

『ちょ、うるっさい』

「ふざけんな!!素直に従えテメー!!さっきまでのシリアスな雰囲気ぶち壊しじゃねェか!!」

『雰囲気なんぞに惑わされんぞ私は』

「知るかァァァ!!ったくオメーはよォ!!」


弥生の腰へ腕を回すとそのまま脇へと抱える。苦しいと呻く弥生を無視し襖へと近づいた時、軋む音と微かにざわつく声に土方は数歩後退する。と、襖と共に倒れてきた真選組の隊士達。


「…何してんのお前等」










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