一人、また一人。

弥生の通って来た道には気絶した天人が転がる。
少し暴れ過ぎたか、侵入した船内では弥生を捕らえるべく天人が騒々しく駆け回っていた。
隠していた身を廊下へ駆け出した刹那、空を裂く音に弥生は床を転がる。素早く体制を立て直して顔をあげれば、ついさっき居た場所には斧が突き刺さっていた。


「見つけたぜェ、好き勝手やってるよーだが…」

「終わりだァァァ!!」


一斉に襲ってきた刃を刀二本で全て受け止める。弾いて突き飛ばし、敵との間に距離を保つ。


「女のくせに刀なんぞ持ちおって」

「侍気取りかコノヤロー」

『…気取り?』


膝を曲げ、床を蹴る。

―――五人。

数を確認し、飛躍した体を重力に従い落下させると一人を踏みつけ、その両脇にいた天人の胸へ鞘先を押し込めばユラリとその体は傾き床へと投げ出された。
唖然としている残り二人。首元へ刀を振り切ると壁へと吹き飛び、そのまま動くことはなかった。


『侍だよ』


刀を腰へ戻す。足元に倒れている天人を冷めた眼で見下ろすと、近付く足音に弥生はその場を去るのだった。

























――――……


甲板では神楽をダシに桂の居場所を新八から聞き出そうとしていた。
陀絡は新八達が攘夷志士だと勘違いしている。


「なに言ってんだよお前ら!!
僕らは攘夷志士なんかじゃないし、桂さんの居場所なんてしらない!!
神楽ちゃんを離せ!!ここは侍の国だぞ!!お前らなんて出ていけ!!」

「侍だァ?
そんなもん、もうこの国にゃいねっ…」

『ここにいまぁす』

「!!弥生ちゃん!?」


陀絡の言葉を遮ったのは、彼の背後に立ち刀を陀絡の首へと当てがう弥生だった。
いつの間に――突然現れた弥生にどよめきが起こる。


「お前…どこから入って、」

「陀絡さァァん!!そいつがさっき報告した侵入者です!!」


部下の言葉に驚きを隠せなかった。
まさか女だったとは。そして次々と部下をやったのも彼女の仕業だとは。


『神楽返して』


陀絡の剣先に引っ掛かっている神楽を見つめ、


『じゃないとその首飛ばすよ…』


陀絡へ視線を移す。
その眼に、陀絡は悪寒が走ったのを確かに感じた。
口調こそは穏やかだが、眼はそうではない。
殺意を剥き出し、鋭利な光を放っている。


「…ク、ククククやめとけ。お前一人に何が出来る。
言っとくが、俺達春雨はこれだけじゃねェ。お前が刀を向けてんのは宇宙に散らばってる春雨全てに向けてんだ。
その意味、分かってんのか?」

「弥生ちゃん…」


不敵に笑う陀絡。無表情で陀絡を見つめる弥生。
不穏な空気に包まれる中、不安気に新八は弥生の名を呟く。
陀落の言葉に、弥生は首を傾げて言った。


『分かんない』


とても素直な応答。恐れも怯えもない平然とした弥生の態度に陀絡は青筋を浮かべた。
宇宙海賊を、その一言で片付けた怒りから。


『誰だろうと…新八と神楽傷付けちゃだめ。いやなの。だからね…二人を返してくれないなら……斬る』


大きく刀を振り上げ、握り直す。


『春雨…?…何それ、スープ?』


そして振り抜こうとした瞬間、弥生は目を見開いた。
何故なら、気を失っていたはずの神楽がこちらへ顔を向け、笑顔を見せていたからだ。


「そいつから離れるアル、弥生ーー!!」


叫ぶと共に陀絡の顔面へ蹴りを食らわせる神楽。だが、支えがなくなったその体は海へと落ちていく。


『――神楽、』

「神楽ちゃ…!!」

「足手まとい、なるのは御免ヨ
バイバイ」

「待てェェェ!!」


聞き慣れた声。目を向けるとフックにロープを掛け、船の側面を駆けてくる男が。
その勢いに乗ったまま、落下中の神楽を抱えると甲板の上へ突っ込んでくる。


「…いでで傷口ひらいちゃったよ。あのォ、面接会場はここですか?
こんにちは坂田銀時です。キャプテン志望してます。趣味は糖分摂取、特技は目ェ開けたまま寝れることです」

「銀さん!!」


くしゃくしゃと髪を弄る銀時を一瞥し、弥生は今いる場所を降りると三人の元へ歩み寄る。


「良かった…弥生ちゃん、無事で…」

「弥生〜どこ行ってたアル!!私すごく心配したネ!!」

『ごめん…』


安堵に顔を綻ばす二人につられて、弥生も微かな笑みを浮かべる。
弥生もまた、元気そうな二人に安心したのだ。








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